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ルート8 魔法の授業は混乱し、宝箱の数は多かった



 今日は魔法の授業だ。僕はいつもよりワクワクしていた。

 ――なぜなら初めての実践練習をする日だからだ。今までは先生の話を聞きながら教科書を開くだけだったからね。


「では、皆さん目を閉じてください」


 先生の声に従って目を閉じる。教科書で習った通りだ。


「体の力を抜いて、深く呼吸をしてください」



 視界が制限され先生の声しか聞こえない。自然、自分の体に意識が集まる。


「はい、いきますよー。皆さんリラックスしてくださいね。――『スキル取得』」


 目を閉じたまま先生の声を聞く。



「おお、できた!」


 ルビーの声がした。またルビーが一番か。本当になんでもできるな。

 教室の温度が少し上がった気がする。熱に関係のある魔法だろうか。


 スキルを取得したとわかるまでは目を開けてはいけない。

 だから僕の視界は黒のままだ。



「おっ、俺もできた。すげーな本当に魔法じゃん」


 次はライトの声がした。目を閉じたままだけど、ライトの席の方角から光が弾ける。まぶしくて僕は閉じたままの目にさらに力を入れた。



 すると僕の隣からガタガタと振動がした。


「あ、ごめん、揺らしちゃった」


 ちっとも悪びれた様子もなくアースは言った。なんだろう。地面に関係する魔法かな?




 三人以外のクラスメイトも少しづつ、何かしらの魔法を取得していっているようだ。

 嬉しそうな声や楽しげな声が躍る。




 …………。


 …………。



 ……………………。



(どうしよう。僕だけ魔法が使えなかったら)


 そう思った時だった。僕の唇が勝手に動いた。

 びっくりして反射的に目を開けてしまう。クラスメイト達の姿が視界に飛び込んできた。


 ルビーの左手の上には小さな炎のようなものが揺らめいている。ライトがくるくると回している細長い人差し指には光が集まっていた。隣をちらりと見るとアースの足元から土の塊のようなものがいくつか地面から突き出している。



 僕の耳に小さな声が聞こえた。――僕の歌声だった。

 かすかだった僕の歌声が自然と少しづつ大きくなっていく。クラスメイトの視線が徐々に僕に集まってくるのがわかった。



(は、恥ずかしい)

 止めたいのに唇が止まってくれない。僕は涙目になりながら歌い続ける。



「天使が舞い降りた」


 ルビーの声がした。


 ヒューとこっちを見ながらライトが口笛を吹いた。


「わ、萌える」


 アースがらしくもなくそんな事を言っている。




 ヒィ。早く終わってこの歌。とまれ僕の口。恥ずかしすぎる! なんだよ天使って!


 そんな時だった。


 クラスメイトの魔法が僕の歌に合わせるように変化していった。



 ルビーの片手の炎は天井にぐんぐん伸びていき、ライトの指先の光は急速に拡大しライト自身を包み込む。隣のアースの机や椅子はがっくんがっくんと大幅に揺れる。


 三人だけでなくクラスメイトそれぞれの魔法も威力が増していく。



 少し天然な先生が笑った。


「ソプラノさんの今の歌は支援魔法ですね。皆の能力値をすごくあげている。いいですね!」



 いや、先生、ちょっと。先生とめて。とめて。周りもちょっと混乱してるよ。

 少しして、先生が「スキル停止」と言うとやっと皆の魔法が止まった。



「はい、次の授業では自分で魔法を停止させる方法を教えていきますね。では今日はこれで終わりです」


 のんびりした先生の声で初めての魔法の授業は終了した。



 僕がため息をつくと、邪魔をしないように見守ってくれていたウォーマが心配そうにこちらを見た。


「大丈夫だよ、ウォーマ」


 僕は小さく囁いた。



 短い休み時間はすぐに終わった。クラスメイトたちは初めて魔法を使ったせいで興奮気味だった。



 鐘がなり、授業が始まる。ひょろひょろのシーフの先生がやってくる。


「全員、手元に宝箱と針金は来たかぁ?」


 シーフ。つまり盗賊が得意とする宝箱の解錠の仕方を学ぶ。


 そういえば――と、アースに目を向ける。

(自己紹介の時にシーフに興味があるって言ってた気がするなぁ)



「あ? なんで宝箱が一個多いんだ? 連絡ミスか?」


 ひょろ長い体を折りたたみ座り込んだ先生は、怪訝そうに床に置いてある宝箱を確認する。そして、ひょろ長い指先を使い器用に針金を鍵穴に通し、カチャリと宝箱を開いた。さすが先生、まるで針金が本物の鍵のようだ。



「ち、空じゃねぇか」


 先生は悪態をついた後、余った宝箱の上にひょろひょろの体を腰掛けた。


「ほい、お前らも空けてみなー」



 その言葉を皮切りに皆やる気になって机上の宝箱に集中した。


 僕も魔法に続き、面白そうな授業に目を輝かせた。まぁ魔法の授業は恥ずかしかったので、あまり思い出さないようにしよう。



 先生の見本では簡単そうに見えた解錠だが、クラスメイトたちは苦戦していた。


 皆カチャカチャと自分の手元を動かしている。だが、なぜか隣のたれ目イケメンは自分の席の宝箱をしげしげと見つめていた。



 どうしたんだろう? と不思議に思っていると僕の膝の上にいるウォーマがピョンと僕の肩に飛んできた。


「ソプラノちゃん、アースの机の上の宝箱、ミミックだ」


 ミミック!! というと、ウォーマがダンジョンで探していた魔物じゃないだろうか。なんでこんなところにいるんだろう。フワフワウォーマの顔色も険しくなっている。



 それなら僕がすることと言えば一つだ。


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