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ルート5 ルビーと剣の授業をし、ライトと格闘技に励む

 


 今日は剣の授業があった。


 ペアを作り剣を構えて向かい合う。

 片方が素振りをして、もう片方がそれを受け止めるというものだった。


 僕の運動能力はソプラノになっても向上することはなかった。


 重くて銀色に光る剣を振ろうとすると、力が入らず思わぬ方向に剣先が向かってしまう。

 いくら練習用で切れないようになっている剣だとしても、ペアの相手には迷惑をかけてしまう。



 だが……。


「上手いよ! ソプラノちゃん!!」


 僕の前にいるルビーは笑顔で受け止めてくれる。


 明らかに右にずれたり左にずれたりとふらふらしている僕の剣をものすごい身体能力で合わせて動いてくれていた。



 い、居たたまれない。


 ウォーマには万が一剣が当たったら危ないので少し離れた位置で見学してもらっていた。



(よし、今度は真っすぐ振りかぶって真下におろしてみよう)


 そう思って勢いよく剣を頭上に振り上げると、右足に変な風に体重がかかったのか大きく体勢が崩れて左真横のほうに剣を下ろしてしまった。



 するとまたしてもルビーが物凄い速度で走って、僕の剣をルビーの剣で支えてくれた。


「うん!! 上手上手!」


 ルビーがにこやかに褒めてくれる。



(う、うわぁぁ)


 ルビーはさっきから赤い髪を振り乱し僕の剣先に向かって右に左に走っている。


 こ、これは、すごく申し訳ない。


 どうしたものかと考えていると、僕の後ろの高い位置から声が降ってきた。



「どこが上手いんだよ、見てらんねぇ」


 僕は振り返る。


「ライト君……」


 金の髪をさらりと括り上げたライトが眉をひそめて立っていた。


「あんた運動苦手なの? 俺が教えてやろうか?」



 え。どうしよう……。教えてもらったら少しは攻略に近づけるんだろうか。

 すると、ルビーが僕とライトの間に入り込んできた。


「いやいやライト、お前運動できねーじゃん」


 ルビーがニヤニヤといじわるそうにライトを見上げた。


「いや、俺スゲー得意な方ですけど!?」


 ライトが心外なという風に両の手の平を空に向ける。


「だけど、お前俺にスポーツで勝てたことないよなぁ? いや、スポーツもか。なんも俺に勝てないじゃん、お前」



 なんだか険悪だ。この二人のこんなところ初めて見た。


 最近のソプラノに対するイメージのせいでルビーを少し舐めていた。

 ライトも背が高くて迫力があるが、ルビーは獰猛な肉食獣のような強さがある。


 ライトはルビーに言い負かされ、顔をしかめて自分の元居た場所に戻っていった。


「ソプラノちゃん、ごめんね。もうあいつ本当性格悪いから気にしなくていいよ」


 ルビーがそう言って剣を構えた。


 僕は圧倒されつつ、それを振り払うかのように剣を下ろした。

 ルビーはまたしても変な方向にいった僕の剣を犬のように走って受け止めてくれた。




 放課後の事だった。


 たまたまライトと帰り道で会った。ライトは僕と目が合うとスッとそらし歩き出した。

 僕はそんなライトの背中に向けてお礼を言った。


「あの、今日はありがとう」

「は? 何が?」


 怪訝な顔をされたので僕は「運動教えてくれようとしてたから」と返した。

 攻略の事も頭にあるけども、なんとなく僕のためを思って言ってくれた言葉が嬉しかったのだ。


「お、おう」


 ライトは驚いた顔をした。そして少し間をおいて僕に話しかけてきた。


「あんた時間あるなら、ちょっと俺に付き合わない?」




 あちこちから掛け声が聞こえてきた。


「やぁっ!! はあっっ!!」

「とぉっ!!!」


 ライトに付いていった先には道場があった。放課後はいつもここで格闘を習っているらしい。



「うわー、すごいね!!」


 熱気にあてられたせいか、僕はらしくもなくはしゃいでしまった。

 二十人、もっといるだろうか! いろんな年代の人達が空手のような動きをしている。


 運動が苦手なためこういう事には興味なかったはずなのに、つい辺りを見回してしまう。

 小さい男の子たちも結構いる。


 僕がいつの間にか笑顔になっていたせいかライトも僕の顔を見ると少し笑った。


「ちょっと格闘やってみる?」

「うん!」


 普段の僕なら躊躇するだろうが、特殊な空間だからだろうか自分もやってみたいと思った。



 ライトと組み手のような事をする事になった。


 僕も白の武道着を貸してもらいライトと対面する。


「ライト君の武道着は黒なんだね」

「そうそう、ある程度のレベルだと黒を貰えるからな」

「へー!!」


 黒帯みたいなものかな。いつもは軽薄そうな雰囲気のライトだが、黒の武道着を着ている姿はひどく真面目そうに見えた。


 壁際で見学しているウォーマが「頑張ってね」と応援してくれた。僕はこっそりウォーマに手を振った。



 身長差があるのに案外なんとかなるものだ。


 ライトは僕の肩を掴んだり、腕を掴んだり、腰を掴んだりしてきた。

 最初は驚いたけど、周りを見ると子供たちが同じようなことをしているから初歩の練習なのかもしれない。


 ライトは体を上下左右に揺らしながら素早い動きを繰り出す。眼差しは真剣で額にはうっすら汗がにじんでいた。僕とライトの距離はとても近い。

 僕はその、あまり認めたくはなかったけども、体を動かして心拍数が上がっているせいだとは思うけども、ライトにドキドキしていた。



「ハッ、ハッ」


 ライトは短い息遣いをしながら両手を宙にかまえたり僕の体に触れたりする。そして僕の胸元辺りに目線を向けながら汗を流していた。


 それは別に女の子の胸元が見たくてそうしているのではなく、多分体の動きの流れを見ているのかなと素人ながらに思った。



 僕も真似してライトの腕や腰を掴んだ。

 一瞬ライトと目があった。



 そうしてその日は夜まで道場で過ごしたので、帰るころにはウォーマがすっかり熟睡していた。


(――ライトとは少し近づけた気がする。でも、もっともっと近づかなきゃ)


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