ルート47 復讐ではなくチョーカーを手に
「あーそう、魔王ねぇ。だから何! てめぇ俺のゼツボーとイチャついてんじゃねーぞ、ぶっ殺すぞ!!」
ルビーのただでさえキツイ目が恐ろしく燃え盛った。
(こ、怖い)
僕はウォーマに抱き着く。
ウォーマは僕を見てよしよしと頭を撫でてくれた。
「大丈夫だよ、俺がいるから何も心配いらないよ」
そうして、三人に見せつけるように僕を黒のマントでバサリと包んだ。
マントの中で僕はウォーマに話しかける。
「ウォーマ……、やっぱり魔王だったんだねぇ」
「気づいてたの? ソプラノちゃん」
「うん、なんとなく」
えへへと二人で微笑み合っていると、ライトとアースの声がした。
「つーかルビーの言う通り、魔王って奴ソプラノに近づきすぎ! 離れろっつーの」
「手を離せよ。ソプラノさん、俺たちの事嫌いかもしれないけど、こっちに帰ってきなよ」
「ソプラノちゃんをいじめてきた奴らに渡せるわけないだろ」
ウォーマは深い美声でそう言い、三人から守るように僕を遠ざけた。
(どうしようか……)
僕は、またドレスのポケットに入れているものを握りしめた。
「ウォーマ」
僕はウォーマを見上げる。
「どうしたの。ソプラノちゃん」
「僕は大丈夫だよ」
守られていたい。ウォーマのマントの中で、事が収まるのを待っていたい。そんな気持ちもあるけれども。
僕はウォーマのマントから、抜け出した。
「ソプラノちゃん……」
ウォーマが少し驚いた顔をしている。
そして僕は、三人組がいる方に向き直った。
「僕はずっと皆にいじめられていたし、死んでまで、そうだった。ずっと辛かった」
僕はあまり自分の事を言うのが得意じゃないけれど、言わなきゃいけない。
言いたくないけど、思ってたことを伝えなきゃ。
「一人違うゲームの中に置いて行かれて、僕は三人に復讐しようって思ったんだ」
そこまで言い切った。その時――。
「だから、置いていってないって!!」
ルビーが言った。
僕は少しムキになる。
「置いていったじゃない!!」
「置いていってねぇ!! ゲームのパッケージに書いてあったんだよ。二つのゲームは連動してますって」
「え……」
どういう事なんだろうか。僕は思わず固まってルビーの言葉に耳を傾ける。
すると、ルビーの代わりにウォーマが説明を始めた。
「確かに、そんな風に書かれているらしいね。俺も全容はわからないけど。二つの世界はリンクしているから、どちらのゲームを選んだとしても、プレイヤー同士はまた世界の中で出会う事が出来る」
「マジかよ。俺、全然知らなかった」
ライトが驚いた様子で言った。
僕は、ライトの方を見たので彼と目があった。
「あ……ごめんな。俺はそういうの知らなくて、お前を置いていった」
「うん」
ライトはとても居心地の悪そうに、申し訳なさそうな顔をした。
僕は恨みもあったけど、その顔を見てもういいかと思った。
「俺は、そこまでは読んでなかったけど、女の子用のゲームに描かれてた三人が俺たちに似てたからそうかなと思った」
「そっか」
僕が相づちをうつと、アースの顔色が悪くなった。
「でも、確実にそう思ってたわけじゃないし、俺もライトとかわらない。君を置いていった……ごめんなさい」
「……ん」
アースが悲しそうな顔をしている。
僕は、もういいや、と思った。
もともと復讐なんて柄じゃないし、少しの間そんな感情に染まった事もあったけど、皆とこの世界で過ごすうちにそんな事忘れていた。
「だいたいなぁ、俺がお前を忘れるわけないだろ!!」
「え、何」
大人しくしていたかと思いきや、また勢いを取り戻したルビーに僕は驚く。
「今だって、その黒のドレス着てるソプラノちゃん超可愛いと思うけど、黒なら絶対ゼツボーの時の方が似合うよなって思ってるし」
「は、えぇ? ちょ、何言ってるのルビー」
「俺がそっちのゲーム行こうかともちょっと思ったよ。でも俺が女になるより、絶対お前が女の子になった方が可愛いじゃん!?」
語り出したルビーに僕は戸惑う。
こういう突然勢いづくところが僕は怖かったり、びっくりしてしまうのだ。
僕はルビーに近寄り言い返す。
「もうやめてってば! ルビー」
「今のお前、絶対俺らの事嫌いになったりしてないだろ」
僕ははたと止まり、目の前にいるルビーと見つめ合った。
「な、なにを……」
何を言っているのか。さっきは散々傷ついた顔をしていたくせに、ルビーはまた彼特有の自信に満ち溢れた顔をしている。
僕は動揺して、またドレスのポケットを握る。
そこにルビーは視線を落とす。
「ほら、それ。最近のお前くせになってるよな。ポケット触るの。何入れてんの?」
こういう言い方するって事は。
「わかってるくせに」
僕はそう言って、自分の手をポケットに入れる。
前の世界で三人にされた事は思い出したくないし、悲しい事も辛い事もたくさんあった。それはもう僕と三人の間で起こってしまった事で、変える事も出来ないどうしようもない出来事だ。
だけど。
この世界に来てから、彼らと関わった。
ゼツボーではないソプラノで見る彼らは、今まで僕が知らなかった彼らの魅力を教えてくれた。
デートをした。
剣や格闘を教えてもらった。
皆が僕の家に遊びに来た。
アースと手を繋いだ。僕も彼も初めてのデートで、とても照れてキラキラした瞬間だった。
ライトの道場着姿には実はドキドキしていた。真剣な瞳で汗を流す彼は最高にカッコ良かった。
そしてルビーは。
僕はポケットから取り出したそれを手の平にのせる。それは三人がプレゼントしてくれたものだ。ソプラノに――僕によく似合う可愛いチョーカーだった。
それを見て、ライトとアースは一瞬驚いて、じんわりと嬉しそうな顔になっていく。
ルビーは満足そうに笑んだ。
「やっぱりチョーカー持ってた」
「ルビーはいつも僕の事よく見てるね」
「当たり前でしょ」
ルビーは笑う。僕は彼が怖いし、憎たらしいと思う時もある。
でも――。僕にとってこいつは特別な奴だ。彼が僕に執着するのと同じくらい、僕も彼を気にしている。
僕らの様子を見ていたウォーマが、はぁとため息をついた。
「本当はソプラノちゃんの事、お前らに渡したくないし俺が独り占めしたいんだけど」
そして、三人組に目を移した。
「お前らが俺の部下になるなら、これからもソプラノちゃんと居させてあげる事もできるけど、どうする?」