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死んでまでいじめられた僕は乙女ゲームの主人公になってイケメンたちを攻略する  作者: ナイユ
ゼツボールートまたは永遠に逆ハーレムルート
46/49

ルート46 魔王

 


「今更謝ったってどうしようもないでしょ」


 ルビーが冷たくライトに投げかけた。


「言わないよりいいだろうが!!」


 ライトが土下座したままルビーにがなり立てた。


「……そうだよね、謝らないよりはいいよね」


 ずっと複雑そうな顔をして俯いていたアースも僕の方へと足を進めた。

 ライトの隣へと身を運ぶと、跪き手を地面へと置いた。



「すみませんでした!!」


 がばと勢いよく頭を下げ、彼の柔らかい茶髪を地面にうずめる。


「……」


 僕は黙っていた。


 何とも言えない気分だった。


(……土下座……か)


 ライトもアースも、そんな事をしてくれるのか。

 僕に悪いと思ったからそんな行動をとってくれるのか。



(でも――)



 僕は少し昔の事を思い出して、嫌な気分になった。


「……土下座したらプライド減る感じするでしょ?」


 僕は少し、いじわるに言ってみた。



 僕の足元で丸まっている普段は大きな男二人がピクと身体を揺らした。



 ――昔、僕は三人に土下座を強要させられた事がある。


 特に僕が悪いことをしたわけでもない。理由もなく三人の暇つぶし、遊び目的でそんな事をさせられた。


「立っている人間に向かって這いつくばると、惨めで泣きたい気分になってこない?」


(なんでこんな嫌味な事、言っちゃうんだろ)


 自分でもよくわからないけど、昔のゼツボーの時の屈辱を思い出し、胸が苦しくなってきた。



 足元で顔を伏せていた二人が上を向き、僕は彼らと視線が合う。

 僕は少し目元を歪めた。


「……ごめん。せっかく謝ってくれてるのに、何でこんな事言っちゃうんだろ」


 声が揺れる。

 少し鼻声になった気がする。


「ソプラノ様」


 僕の隣にいたダークエルフが心配してくれたのか声をかけてくれる。


「ん、ありが……と」


 視界が歪む。

 ライトとアースが跪きながら驚いた顔をしている。


「ソプラノッ……」

「ソプラノ……さん」


「二人が、謝ってくれるのは嬉しいっ、よ」


 情けなく僕の声は揺れ、ぼとと瞳から涙が出てくるのが分かった。


「……っ、嫌な事言ってごめんね」


 せっかく整えてもらった髪の毛をがしと手でかいてしまった。


 なぜか涙が溢れてくる。

 僕は泣いているのをごまかすようにうずくまった。

 足を折って、体を抱える。

 呼吸が少しづつ苦しくなってくる。


 ゼツボーの時も三人と楽しく話していた事もあった。


「なんで僕、ソプラノになっちゃったんだろ」


 だけど、ソプラノになってからの日々は、ゼツボーの時が夢ではないかと思うくらい、幸福だった。

 皆、僕に笑顔を向けてくれた。

 酷い事は全然言わなくて、お姫様みたいに優しくしてくれた。とても大切にしてくれた。

 楽しくて嬉しくて、僕もよく笑い、幸せな毎日だった。


 ――でも、その分ゼツボーの時の僕はちっぽけでどうしようもない、惨めな存在だったのだと思えてくる。


 はぁと熱く息の荒い呼吸が出た。

 そうしていると、ルビーの声がした。



「ゼツボー」



 僕は顔を上げる。

 ルビーが顎を上にあげ、見下すように僕を見ていた。


「何?」

「俺は悪かったって全く思ってないよ」

「そう」


 赤髪の男は、この世界に来ても変わってないなぁと思った。まぁ、僕も変わってないと思うけど。


「ねぇ、お前どうしたの? 俺らの事嫌いになった?」

「わか、……嫌い」


 わからないと言おうとして、絶望ルートに行くには嫌いと、僕の事を好きになってくれた彼らにそう伝えないといけない事を思い出した。そうして彼らを絶望させるのだ。

 そしてゼツボーの時の、僕の気持ちを供養してあげる事が出来たらいいと思った。

 そしたら、少し僕も前に進める気がした。



『ソプラノちゃん』


 いつも僕を優しく見守ってくれたウォーマの顔が浮かんだ。

 それに勇気づけられる。


 僕の周りにいる三人組を目に焼き付ける。

 皆がそれぞれが、複雑な色をはらんだ顔をしている。

 僕は、それを見た後、息を吸いこんだ。


「三人とも、嫌い。前の世界の時から、ずっと大嫌いだよ!」


 僕は、投げ捨てるように言った。

 僕の言葉に、ルビーが一度大きく目を開き、顔をくしゃりとさせた。とても悲しそうになる。


(なんで、そんな顔するんだよ)


 視線を移すと、ルビーだけでなくアースとライトも辛そうな、何かが痛そうな顔をしていた。

 僕が彼らを絶望に叩き落とす方だろうに、そんな彼らを見て僕はすごく悲しくなった。自嘲気な笑みが漏れそうになる。


(あーあ)


 こんな気分になるなんて。



 僕は感情で気持ちが悪くなった。



 ざわという声と地面がこすれるような音がした。

 周りを見ると、魔物たちが次々と身をかがめ跪き始めている。

 僕の隣のダークエルフも、他の魔物たちと同じ方向に跪く。


「ウォーマ様」


 ダークエルフの声に、他の魔物たちも続いた。


「「「ウォーマ様!!!」」」



 三人組が何事かと辺りを見回し始めた。


 洞窟に黒色の深く濃厚なもやができ、奥から人影が現れた。


 びっくりするほど長い手足と、とっても高い身長には見覚えがある。


 だけど、いつもと違って彼は白ではなく黒の衣服に身を包んでいた。


「ソプラノちゃん!!」

「ウォーマ!」


 スラッとしたオシャレな装飾がついた黒色の服を着たウォーマが走って僕を抱きしめてくれた。



「ウォーマ、黒の服も似合うねぇ!」

「ソプラノちゃんこそ! ドレスすごく可愛いよ。あれ、どうしたの? 泣いちゃったの」

「うん、えへへ」


 久しぶりの再会に喜んでいると、三人が息をつめた気配がした。

 アースとライトは訝し気に僕らを見ていて、そしてルビーは人を殺しそうな顔でこちらを睨んでいる。


「お前誰だよ」


 ルビーがウォーマにきつく問う。

 ウォーマは僕を抱きしめている手とは反対側の腕で黒のマントをバサリと広げる。

 整い過ぎるほどに整った顔。そこに真摯な瞳を携えていた。

 そして、ウォーマは胸に広がる心地のいい美声で、ゆっくりと答えた。



「俺は、ウォーマ。この世界で魔王と呼ばれるものだ」


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― 新着の感想 ―
[一言] そうですよねー 複雑な気持ちですよね。 いじめられていた過去があっても ソプラノちゃんになってからは みんなと楽しくやって来たもんね! 全部が嘘じゃないですもんね… どんな展開になるのか悶々…
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