ルート42 彼の家に泊まった二週間
前の世界で二週間ほど赤髪の男、いや、もうルビーでいいか。……ルビーの家に泊まった時の事だった。
正直、緊張し過ぎていたせいか、その時の事はあまり覚えていない。
ルビーの家だけでなく、交代で僕の家にも泊まっていた気もする。
本当にあまり記憶がない。だけど、断片的に覚えていることもある。
出し物か何かの自己紹介の時だっただろうか、詳しくは忘れたが、彼が全校集会の時に体育館の前でマイクを握った時だった。
「きゃーカッコイイ」
「やば、めっちゃイケメンじゃん」
「うわ、すげモテそう」
「いや、あれ絶対モテてるって」
いろんな学年の女子や男子が彼を見て、とても驚いていた。
その様子を見て僕も、驚いた。
(同じクラスで見慣れてたけど、学年全体で見てもこんなに目立つのか)
学校中の生徒の前で、ニコニコといつもより多く笑顔をもらす彼に、少し僕は苛立った。
「君、すごいイケメンだねぇ!! 彼女は?」
司会をしていた男子生徒が、そんな質問をルビーにした。
少し、ルビーは上をむいた。
「いません!!」
笑顔で勢いよく真正面を見て、言った。
キャーーーーーーーーーーー!!!
女子生徒たちから、すごい歓声が聞こえてきた。
「えー嘘だぁ」
「嘘ぉ、あんなイケメンなのに?」
男子生徒が疑問の声をあげていた。
もちろん、嘘だった。
「なんで、いないって言ったの?」
彼の家に泊まってる時に聞いてみた。
「いないって言った方がモテルじゃん」
「えー」
「いいじゃん。どうせ、今付き合ってるのもすぐ別れるし」
「彼女さん可哀そう」
「うるさい。それより、このアニメ見ようぜ」
テーブルを囲み、二人でお菓子を食べながらルビーが言った。
(こんなすごいリア充でも、アニメ見るんだ)
アニメがついているテレビの方を向きながら、屈託なく笑うルビーを見て僕はちょっと驚いた。
「あ! そうだ! これやるよ」
ルビーが僕に言った。
「服?」
突然クローゼットを漁り出した彼に僕は聞いた。
「そうそう、お前細いから俺の服なんでも着れるだろ。お前が気に入るのあったらやるよ」
「え、悪いよ! いいよ!」
僕が驚いて両手を開いて振ると、そこに服を押し付けられた。
「いいから、着てみろって!!」
「ちょ、ちょっとぉ」
ルビーが選んでくれた服を着てみた。
「これ、香水の匂いがする」
「そぉ?」
甘くてすごくいい匂いがするルビーの匂いが僕の体中に広がった。
「うん、すごく……いい匂い」
「……」
褒めたけど、特にルビーはそれに対して何も言わなかった。
「俺の方が身長がデカいから裾が余ってるな」
「だよねぇ」
「折って着るのも可愛いじゃん! やるから着ろよ!」
そうして何着かまだ新しくて、いい匂いがするルビーの服を貰った。
(思ってたよりいい奴なんだな。もしかしたら結構仲良くなれたのかも)
次の日。
「古くなった服ゼツボーにやったんだけどさぁ、こいつ背低くて足も手も短いから裾余ってんの」
「そりゃそーだろ。身長結構違うじゃん。つーか、よくゼツボーに服あげたなぁ」
「背低いの実感させちゃ、可哀そうじゃない」
「そーね、そーね! 手足の長さ違い過ぎて裾一メートルくらい余ってたもんなぁ」
一メートルは盛り過ぎ、可哀そうと爆笑する三人組。
僕は、いつものように話のネタにされ馬鹿にされた。
(仲良くなんか、なるはずないか)
「どうしたゼツボー君? 学校での事すねてるの?」
「……」
ルビーが僕の唇に手を伸ばし、きゅむきゅむとつまみヒヨコの口のような形にさせる。
「もう、やめてよ」
僕がルビーの手を片手で払うと、ルビーは台所へと立った。
「ゼツボー君そんな怒らないで、可愛い。今からご飯作ってあげるからゆるして」
「え、ご飯作れるの?」
いつもは二人でスーパーかコンビニで買ったご飯を食べていたから、知らなかった。
そんな事もできるのかとびっくりしていると、ルビーは僕の前に膝まづいて片手を曲げる。
「俺、何でもできる男ですから」
まるで、執事のような仕草でおどけてそう言っていた。
あっという間に、テーブルが美麗な料理で埋め尽くされた。
「うそぉ、すごい」
「もっと言って、もっと言って」
「すごいねぇ!!」
「ふふん」
ルビーが携帯を取り出し、カシャと並んだ料理を撮った。
「綺麗にできてるねぇ」
「ほら、ゼツボーもっと俺に顔近づけて」
ついでにという事で、料理と一緒に僕とルビーも隣同士に並んでポーズをとり写真を撮った。
食べるのがもったいないほどきれいに盛り付けられていたが、口にすると幸せ一杯な気分になるほど美味しかった。
「作ってもらったしお皿洗いは僕がするよ」
「俺が全部してやるから座ってなよ」
「え、僕がやるよ!」
なんだかんだルビーが台所に絡んできて、結局二人で後片付けをした。
夜。ルビーとの二週間のお泊りでは並んで寝る。
僕の部屋の時は僕の布団で、ルビーの家ではルビーのベッドで寝ていた。
僕もルビーも男だけど細身で、しかも寝るときはルビーが僕を後ろから抱きしめてくるので、ちゃんと布団からはみ出さずに寝ることができた。
寝る時ルビーは僕のパジャマをめくり、おへその上へと手を置いて緩くさわさわと触りながら寝た。
別に上の方にも下の方にもそれ以上手が動く事もなかったけど、なんとなく人には言えないような事をしている気がした。僕の耳の後ろからルビーの熱くて浅い呼吸が聞こえてきたり、ぎゅっぎゅっときつく抱きしめられたり、妙な感じに手が動いたりするので、僕は気になってルビーが寝付くまで眠ることができなかった。
起きた時には目を閉じ寝ているらしいルビーの唇が、なぜか僕の口に当たっていたりもした。もちろんカウントしてないけど、これもキスというなら僕はウォーマより先にルビーとキスしていた事になる。




