ルート35 魔物たちは戦いの準備にとりかかり僕はもてなされた
「お前らぁ、負けは俺が許さんぞ!! だが死ぬくらいなら退け、死ぬことは負ける事以上に認めん」
男の人の姿のウォーマが軍の隊長のような事を言う。
「はっ!!」
「もちろんであります!!」
「了解です! ウォーマ様!!」
洞窟の中の広場で大量の魔物たちがウォーマに膝まづく。
真昼間だが洞窟の中だからか薄暗く、壁に着けられている松明で灯りを得ている。
「ウォーマ、ずっと人の姿になってたらまずいんじゃ?」
僕は眉を下げウォーマに問いかけた。
まだ完全には力が戻っていないため、ウォーマはほとんど夜にしか本当の姿にはなっていなかった。
「大丈夫だよ、ソプラノちゃん。ここは俺のテリトリーだから」
魔物たちへ話していた時とはうってかわって穏やかな優しい声音だ。
「そうなの?」
そっかぁ。ウォーマの家みたいなものなのかなぁ。皆もウォーマに懐いてるしなぁ。
「俺らは大丈夫ですが、戦陣を切って出るスライムたちには、ちと厳しいんじゃ」
「そうですよ、ウォーマ様。スライムたちは奥に避難させませんか」
「俺らの陣地でスライム坊ちゃんたちを守りますよ」
いつの日にかウォーマに悲鳴をあげていた狼男たちがそう言った。
ウォーマはちろりと狼男たちを見た後、スライムたちに目線を移す。
「――だ、そうだが、お前たちどうだ? 無理そうか?」
ウォーマの言葉にスライムたちがピョンと前に躍り出た。
「見くびらないでください!」
「僕たちもうレベル40に近いんですよ!」
「レベル21のヒヨッコになんか負けません!!」
ウォーマはその答えに満足そうに微笑んだ。
「うん、偉いぞ。お前たち」
その言葉に、狼男たちもほうと呆気にとられた顔をした。
「スライムの坊ちゃんら、もうそんなに育ったのか」
「月日が経つのは早いもんだねぇ」
「俺たちもいつかレベル抜かれるかもしれねぇなぁ」
僕はなんだかその様子に感動してしまった。
(魔物たちも洞窟の中で家族みたいに育ったのかなぁ)
「いいか! お前たち!! もう一度説明するぞ!」
ウォーマがまたビシッとすごく長い脚を大きく広げて立ち、腕を組んだ。
「勇者三人組のレベルを上げる事を意識して戦え! 相手が疲れ出したら脅してさっさと帰らせろ! 後日また挑戦した時に鍛えてやればいい!」
――なんだろうか、このマッチポンプ感は。
(魔物に裏でレベル上げを手伝ってもらっている勇者って情けなくないか)
……いや待てよ、もしかして今まで僕がやってきたゲームのモンスターも実はこんな感じだったりして。
僕は暇だったので変な事を考えていた。
すると、僕の後ろに控えていたゴーレムが気を使って椅子型になってくれた。
「え、ええ悪いよ」
「いえ、どうかお気になさらず」
「あ、ありがとう、ゴーレムさん」
僕は椅子に変形したゴーレムにそっと腰掛ける。
「こちらノンアルコールのカクテルになります。いかがですか? ソプラノ様」
肌の浅黒いエルフが上品な物腰でグラスを差し出してきた。
(ダークエルフってやつだろうか。スラっとしてて滅茶苦茶カッコいい顔してるな……)
「ゴホンッ。……ソプラノちゃん?」
僕がダークエルフに見惚れているとウォーマが咳ばらいをした。
ウォーマが焦ったように流し目をよこす。
(ご、ごめんなさい)
いや、ウォーマだって負けないくらい滅茶苦茶カッコいいんだけどね。
まぁ、さすがエルフというか目を引かれる美しさがあった。
「ソプラノ様ぁ!!」
ミミックが集団から一つ飛び出してきた。
「あー! もしかしてあの時のミミック君?」
「はい! その節はお世話になりました!!」
「久しぶりだねぇ!」
あの時は春だったから三か月ぶりくらいだろうか。僕はミミックを抱きしめる。
「ミミック君も戦うの?」
「いえ、僕はあんまり戦うの得意じゃないんで、狼男さんたちに守ってもらいます!」
「そっか、そっかぁ!!」
僕は笑顔になってミミックを抱き上げた。
「うふん、ソプラノのお姫様。今日も可愛いわね、嫉妬しちゃう」
ダンディな声がした。可愛いリボンを頭に付けたスケルトンだ。
僕はスケルトンと目が合う。
「スケルトンさん、お久しぶりです」
「楽しんでいってね。いつでもダンジョンに遊びに来ていいのよ」
「はい!」
「ソプラノ様、久しい」
「ソプラノ様、可愛い」
「ソプラノ様、楽しむ」
蝙蝠たちがくるりと旋回した。
たくさんの魔物たちの中で見知った姿を見かけた。
僕はウォーマや魔物たちを見ながらゆるゆると顔を緩ませて言った。
「楽しいなぁ~!!」




