ルート34 祝いの終了と新たな前兆
一日、ほとんど三人に触られたり触ったりしたパーティーが終わろうとした時だった。
「そういえばレベル上げの事なんだけどさ」
アースが切り出した。もちろん僕の手を握ったままだ。
「なーにー?」
お菓子をとるために逃げ出した僕の右手を諦め、今度は僕の脇腹を指でくすぐりながらルビーが言う。
(こらこらルビー。くすぐったい)
「学園の北の方にあるダンジョンに行ってみない?」
(それってもしかして)
僕は膝にいるウォーマの様子をうかがった。
「ソプラノさんわかるかな? 前に俺たちが、たまたま会った書店の近くにあるダンジョンなんだけど」
ウォーマがピクリと動いた。
「う……ん。わかるよ」
ダンジョン。前に一度ウォーマと行った事がある場所だろう。
「あー、なるほど! そこでレベル上げしようって事か。いいんじゃね? 行こうぜ」
ライトが僕の太ももの間に足を刺したまま言う。
(レベル上げ……って事は)
え!? あのスライムもミミックも三人に殺されるって事――?
僕は背筋がゾッと寒くなった。
「あの、やめた方が!!」
僕は思わず口走った。
「なんで?」
ルビーがまた僕の手をいじりながら聞いてくる。
「それは――」
僕が言いよどむとアースの声が続いた。
「まぁ確かに俺が言い出した事だけど、そのダンジョン不可解な事も多いんだよね」
「例えば?」
ライトが聞く。
「学園から一番近いダンジョン――普通のゲームで言えば序盤の弱い敵が出るイメージだけど、調べても全然情報が集まらない」
「ふーん、まぁ確かに雑魚っぽいのが出そうだけどな、拠点の周囲には。まぁ考え過ぎじゃね? 普通に行ったら勝てるんじゃねぇの?」
アースとライトがそれぞれ真剣な顔で語りだす。
僕も口をキュッと曲げて皆の出方を窺う。
(これで二人が僕の体をゴソゴソと触ってなかったらカッコつくんだけどな)
なんだか僕を含めていまいち締まらない。
「あーもう、難しい事考えずにバンバン倒しに行けばいいじゃん。せっかくレベルも上がったんだし大丈夫でしょ」
ルビーが口を出してきた。
「……まぁそれもそうだね」
「だな、まず動かなきゃ何もわかんねーままだしな」
ルビーの言葉に毒気を抜かれたのか、アースとライトは体の力を抜いて笑顔になった。
(どうしよう)
下手な事言ってややこしくなっても困る。
――後でウォーマに相談しよう。
「じゃあなソプラノ、今日は楽しかったぜ」
「すごく居心地よかった。ありがとうね、ソプラノさん」
「ソプラノちゃん俺帰りたくない!!」
僕は玄関口で三人を見送る準備をした。
「あ、そうだコレ俺たちから。家にあげてもらったお礼に、どうぞ」
アースが三人を代表して袋を渡してくれた。何だろう。
「ありがとう」
僕は袋を受け取ってお礼を言った。
「たいしたもんじゃねーけどなー」
ライトが両腕を頭の後ろで組んでケケケと笑った。
「ソプラノちゃん、なんか元気ない? モンスター苦手?」
意外とルビーは人の感情に敏いトコロがある。
僕はあいまいに笑ってごまかした。
ルビーは早口で言った。
「ソプラノちゃん安心して。俺がモンスターや魔王なんかすぐ倒すし!」
「ダンジョンの魔物もたいして強くないっしょ」
「そうだね、俺たち結構レベル上がったし、あっという間に倒せるよ。きっと」
ライトやアースもルビーに合わせてそう言った。
僕は複雑な気持ちを抱えながらも、気を使ってくれている三人に笑顔を作りお礼を言った。
「そしたらね!」
最後にルビーがそう言って皆が玄関から外へと出る。
三人が嵐のように僕の家から去って行った。
「あの……、ウォーマさん?」
僕は三人が帰った瞬間に人型になったウォーマに声をかける。
「あいつら……覚えてろよ」
わりと温厚な彼らしくもなく怒りを露わにしている。
ルビーが前来た時もこんなだったような。
「ソプラノちゃん、大丈夫だからね!」
ウォーマが突如、僕の両肩を両手で包み笑顔で言った。
(なんか怖い)
「あんな奴らうちのダンジョンの足元にも及ばないから」
「こ、心強いけど、スライム君やあのミミック君たち心配だよ。狼男さんたちなら大丈夫かもしれないけど」
僕が必死になって言い募るとウォーマが鼻で笑った。
(えぇ)
ぎゅっ
ウォーマが僕の体を優しく抱きしめながら言った。
「俺のトコロのスライムやミミックが負ける? そんな事、万が一にもありえないね」
「う、ウォーマさん?」
ウォーマどうしたんだろう。怒り過ぎて吹っ切れちゃったんだろうか。
僕がウォーマを見ようとすると、ウォーマの非常にカッコいい顔が僕に近づいてきた。
ペロリ
「きゃう。う、ウォーマ!?」
ウォーマに首筋を舐められた。
「今日は許さないよ、ソプラノちゃん」
(あ、いつもより声低めで三倍増しでカッコイイ)
僕はウォーマに体を絡めとられながら能天気な事を考えていた。




