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ルート3 さぁ絶望ルートを目指してみようか



「え、あの三人がソプラノちゃんが言ってたいじめっ子!?」


 自己紹介の後の簡単な授業説明が終わると、僕はひたすら家を目指した。

 ほとんど早歩きのような状態で家に帰るとベッドの上にうつぶせになって倒れた。


「うん。しかも三人とも僕の方すごく見てたしソプラノが僕だって気づいたのかも」


 枕に顔を突っ伏しながら呻く。


「いや、多分見てたのは違う理由だと思うけど。他の男の子たちもソプラノちゃん見てたし」


 枕から少し顔を上げてウォーマの目をちらりと見る。


「そうかなぁ。それならいいけど」


「うん、それは大丈夫だと思うよ。だけど」


 ウォーマは言いにくそうに続けた。



「あのね、ソプラノちゃん。そのソプラノちゃんをいじめた三人が攻略キャラなんだ」


「え」


「だから、あの三人の好感度を上げていくことになるんだけど、できる?」


 ウォーマがものすごく心配そうに聞いてくる。

 僕は一瞬息をつめた。



「――できない。関わりたくない」


 僕の顔は多分今無表情になっていると思う。



「そっか。そうだよね」


 ウォーマが悲しそうに呟いて僕の隣に体を寄せた。



「ウォーマ、攻略できなかったら僕はどうなるの? ゲームオーバー? また死んで別の世界に行くのかな?」


 僕はギュウとふかふかなウォーマを優しく両手で抱きしめる。

 僕の腕の中からウォーマはこっそり顔を出した。


「ううん。ループするんだ。三人の誰かと恋愛エンドか魔王ルートに行かないと延々と繰り返しになると思う」


 延々と繰り返し。ループ。

 怖い。



 僕が黙り込むと、ウォーマのつぶらな瞳が怪しく光った。




「ねぇ、ソプラノちゃん。それとも絶望エンド目指してみる?」




 初めての授業は魔法だった。

 実践練習などはなく先生の話を聞くだけだったけど、元の世界にはなかった未知のものに心惹かれた。


 次は歴史、ゲームの世界だけど少しだけ世界の成り立ちみたいなのに触れることができた気がして、これも面白かった。


 二つの授業の後は昼休みだった。


 隣の席の茶髪イケメン――この世界ではアースという名の男は、金髪イケメンのライトのところに行ったようだ。隣の席が空いて少しほっとする。



 さぁご飯を食べようかとした時だった。


 本来はアースの席である場所にドカッと誰かが座った。


 恐る恐る隣を見ると真っ赤な髪の毛が視界に映った。



(ひっ!!)



「ソプラノちゃんだよね。俺ルビーって言うんだ。よかったら一緒にご飯食べない?」


 そう言って僕の席にアースの席をくっつけてきた。


「え、あの」


 僕が固まっていると、ニコッとルビーは笑った。


「やっぱり、ソプラノちゃん大人しいね。俺大人しい子すごく好きなんだよ」




(知ってる)


 前の世界の事を思い出す。すぐ隣にぴったりくっついてきた赤髪の男はとにかく大人しい子が好きだった。

 こんなに堂々としていて我が強いのになんで好きになる女の子は正反対の大人しい子なんだろうと初めはすごく驚いたものだ。


(まぁ、自分にないものに惹かれるってやつなんだろうか)




 ――ちょうどいいかもしれない。


 絶望ルート。三人の好感度を上げた後に三人を裏切って絶望に叩き落とし、その後魔王ルートに派生するらしい。



 ウォーマは「ソプラノちゃんを不幸にする事だけは絶対にないから安心して」と真剣な口調で言っていた。


 本当はもう三人に関わりたくない。だけど。


 僕一人を三人が囲んで「クズ」やら「ゴミ」やら「死ね」と毎日のように言ってきた事を思い出す。

 本当に、とても、苦痛だった。



 復讐――してやろうか。



 この世界に来て、フカフカで優しいウォーマに癒された。本当はのんびり安らかに過ごしたい。


 だけど、この三人を攻略しなければ進まないのなら、やってやる。やってみせる。


 僕は赤髪ルビーに笑いかけた。

 ことさら、好みの男性に照れた女の子のように振舞った。


 がぜん勢いづいたルビーは一生懸命に僕に話しかけてきた。



 赤髪の男。以前は恐ろしい、怖いという感情しか抱けなかった。

 なのに今、隣で僕の気を引こうとしている姿はひどく滑稽だった。



(多少の演技はしているけれど、中身は僕なのに外見が可愛い女の子になっただけでこうも態度が変わるのか)



 僕はルビーの話に笑顔を張り付けて相槌を打ちながら、僕の膝の上で眠るウォーマをこっそり撫でた。


 (早くウォーマと家で笑いあいたい)



「ソプラノちゃん、今度、剣の授業一緒に組まない?」


 ルビーはそんな僕の気持ちも知らず、話し続ける。


「うーん、でも私運動神経悪いから」


 話すときに僕ではなく私と言うのも慣れてきた。



「そうなんだ! 可愛い」


 そう言ってルビーは僕の頭を撫でた。


 その手つきがとても優しかったので、僕はほんの少しだけ気持ちがいいなと思ってしまった。



(僕がソプラノじゃなくてゼツボーだった時は散々馬鹿にしたくせになぁ)


 少しの切なさを感じながら僕は思った。



 

 ――絶対三人とも僕を好きにさせてみせる。 


   

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