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ルート29 ついばむようなルビーのキスとウォーマの甘いキス

 


 僕が垂らした薬で唇をしめらせたルビー。

 それを眺めつつ、もう一滴おとすために薬を口に含もうか、それともルビーを起こして本人に飲ませるかと考えている時だった。


「ゼツボー」


 ルビーがそう言った。


 ……。


 ドキドキドキドキ

 僕は目をつむったままのルビーを注視する。


 反応がない。寝言だろうか?

 夢の中で僕をいじめてるのかと卑屈な考えをしていると、ルビーが眉根をよせて呻いた。


「ゼツボー、置いてかないで」


 何の夢を見ているのか。切なそうな声だ。


「置いてったのはそっちじゃない」


 僕は寝ているルビーに答えた。瓶を持っていない方の手の甲をルビーの額につける。

 やっぱり少し熱いかな。


「僕だけ違うゲームの世界に置いてったくせに」


 僕は聞こえていないだろう相手に独り言を言った。

 だが、僕の言葉に反応するかのようにルビーの体が揺れた。


「置いてってない。……お前っ、ちゃんと読んでない……だろ」


 聞こえていたのだろうか。それとも寝ぼけてるんだろうか。

 僕はびっくりしてルビーの様子を窺った。


 ルビーはうっすら目を開き僕の顔を見た後、顔を歪めた。


「くっそ、頭いて」


 そう言って、ルビーは僕の手から瓶をするりと奪い、ごくごくと飲み干した。

 ふっと息を吐くと、ルビーはいつもの強い瞳をひきしめた。 


「あー、もう! 帰る。薬ありがとね!」


 覚醒したらしいルビーは、少しふらつきつつも自分のカバンを持って帰る準備をしていた。

 僕はルビーの言動に疑問を抱きつつ、彼を見送るために玄関へと立った。


「……気を付けてね」

「んー」


 ルビーは具合が悪いせいか、いつもよりぶっきらぼうだ。

 顔を背けてだるそうにしていたが、突然じぃっと僕の方に顔を向けた。


 なんだろうか。


 顎をしゃくって片眉をあげたその表情は、嫌な風に懐かしい。


「えっと……」


 僕が気まずくなり適当にそんな言葉を言ってみた。


 じぃぃぃ。


 吊り上がった大きい目を半目にしながら馬鹿にするような表情で、見られている。


(なに?)


 僕はルビーが怖くなってくる。


(もうやだ、早く帰って)


 視線に耐えられなくて、僕は目をつむった。






 ちゅっ。



(ん?)


 僕は口に降ってきた、ついばむような感触に閉じたばかりの目を開ける。


「またね! ソプラノちゃん!」


 さっきまでの表情が嘘のように、ルビーはにっこりと花が咲いたような笑顔をして帰っていった。



(えぇ)



 僕は口元を手で押さえながら、しばし呆然とした。



「……あいつ……!」


 ウォーマがいつの間にかフワフワではなく男の人の姿に変わって、ルビーが出て行った玄関を睨んでいた。

 温厚なウォーマにしては珍しく手をググっと拳の形にして、ドンと軽く玄関の壁を揺らした。




「ウォーマ、もしかして怒ってる?」


 タオルや瓶の後片付けを手伝ってくれているウォーマに僕は、恐る恐る声をかけた。


「……別に」


 手にしているタオルに目を落としながらウォーマは言う。


(怒ってる!!)


 たまらなくなって、僕はウォーマに抱き着いた。


「ウォーマ嫌いにならないで!!」


 ぎゅうぎゅうとウォーマに抱き着くと、ウォーマはびっくりしたような顔で僕を見てきた。


「ソプラノちゃん」


 甘く耳を揺さぶる声で僕の名を呼ぶ。


「怒ってるってより、ヤキモチやいてるかも」


 ウォーマはちょっと気まずそうな声でそう言った。


「ヤキモチ?」


 聞いた僕にウォーマは「わからない?」と返しタオルを洗濯場まで持っていった。


 

手洗いうがいをウォーマと二人でした後に、お風呂に入ってパジャマに着替えた。

 僕はウォーマに腕枕をしてもらい、気持ちよくて寝そうになってしまった。



「ソプラノちゃん、眠いの?」


 うつらうつらとしている僕に、ウォーマが優しく問いかけた。


「んー」


 僕がそう言うとウォーマがふふと軽く笑った声がした。


「ソプラノちゃん」


 甘くて心地のいい声に油断していると、耳に息が吹き込まれた。


 ふぅーー。


「やめて、ウォーマ、くすぐったいよぉ」


 僕はウォーマのいたずらに声を上げて笑った。


 こちょこちょこちょ、とウォーマの細長い綺麗な形をした指先で僕の耳の周囲をくすぐられる。


「もー、ウォーマってば」


 僕が寝がえりをうってウォーマの方に顔を向けると、少し紫がかった黒色の優しい瞳と目が合う。



「可愛い、ソプラノちゃん」


 僕はウォーマのセリフにドキリとする。


「ソプラノちゃん、俺にも歌ってくれない? 魔法かけなくていいから」


 そんな風に言われてちょっと僕は戸惑った。


(――魔法じゃなくてもちゃんと歌えるかな?)


 魔法を使えば歌える自信はあるけど、ウォーマは多分、魔法の使い過ぎで疲れた僕に気を使ってくれているのだろう。



「んーと」


 魔法を使ってる時の歌を思い出す。

 僕は口にきゅっと力をこめてウォーマに顔を寄せて歌った。


「可愛い。ソプラノちゃんの声、大好きだよ」


 僕が照れて歌うのをやめると、ウォーマは「もうちょっと」と言って先を促した。

 ウォーマは歌っている僕の顔を片手を伸ばして触った。



「喋り方も可愛い。前の世界の時もそういう話し方だったのかな」


(どうだろうか……。自分ではわからないけど、多分話し方はそのままだろうな)


 僕は「ん」と言った後、歌を続けた。


「他の男にソプラノちゃんが触ったり近づくの、すごく嫌だった。三人や、先生をしている人間も消えればいいのにって思った」



 僕はピタと歌をとめて、ウォーマの顔を見る。ウォーマはどこまでも優しそうな顔をしている。


「ウォーマ! ごめんね」

「んーん」


 ウォーマは、僕の髪を優しく撫でてくれる。


「嫉妬してるのみっともないし、言わないでおこうと思ったけどさ。ソプラノちゃんルビーに対して今日変だし、ルビーもソプラノちゃんにキスして帰るし」


「あれは、変だったのは、昔の事を思い出して、なんか妙に復讐心がわいちゃって」


 僕は必死に自分の考えを伝えた。




「ソプラノちゃん、俺にキスしてくれない?」


 前にも聞いたような事をウォーマは言った。


「いいよ」


 僕はウォーマの首筋に腕をからめて味わうようにウォーマにキスをした。何度かそうやってキスをしていると、いつの間にかウォーマが僕の上に伸しかかって大きく僕に口づけた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ルビーの『置いてってない』『ちゃんと読んでない』てすごく気になります! やっぱりルビーはソプラノちゃんが『ゼツボー』とわかっているんでしょうね。多分。気になります! 他の2人はどうなのかも気…
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