ルート28 僕はルビーの唇を仕返しで彩る
「あ、あった!」
僕は薬瓶が入った棚から風邪薬をみつけた。
ギュウ
風邪薬の入った瓶に手を伸ばそうとした時、後ろから抱き着かれる感触があった。
「ちょ、待って。瓶があるから危ないって!」
またふざけてるのかと思い、僕は少し強めにルビーに注意した。
「寒い」
そう言ってルビーは僕にすがるように後ろから抱き着いてくる。
「寒いよ、ソプラノちゃん」
寒いって……さっきも言ってたけど、今はこのゲームは夏に入っている。
だが背中にあたる身体は熱い。声も辛そうだ。
僕はくるりと振り返りルビーの様子を見る。
つい今しがたまで平気な顔をしていたのに、今は汗が浮かび目はうつろだ。
「ルビー君、ちょっと待っててね」
僕はそう言い、あまり使っていないソファにルビーを横たえた。
クローゼットから適当に見繕ったタオルケットや薄手の布団を彼の体の上にかける。
僕はルビーの汗が浮き出た前髪を手で軽く払い、用意した小さなタオルでおでこを拭った。
(ルビー)
『ゼツボーって、なんか家族みたいだよね』
昔、彼が言った言葉を思い出した。
その時僕は、何か言い返して「嘘に決まってんじゃん」と馬鹿にされるのが怖かった。だから、何も言わずにただ流した。
だけど。
同じ寮だったからだろう。さすがに隣同士ではなかったけど、上下に住んでいたのもある。僕の家のちょうど真下が赤髪の男の家だった。
(最初に下に住んでるって知った時は胃が痛くなったな)
赤い髪の男に誘われ一緒にスーパーに買い出しに行く事も、休日に呼び出され遠くまで買い物に行く時もあった。バイクの後ろに乗せられ、いろいろなトコロに連れていかれた。
(いっつも付きまとわれて、なんだこいつって思ったな)
僕は彼が苦手だし嫌いでもあった。
だけどね。
僕はルビーに布団をかけなおすと薬を取り出した。
僕は目の前の苦しそうなルビーの顔に触れる。
(熱い――)
――――僕だって家族のように思っていたよ。
僕はキュポと小瓶の蓋を開ける。
ルビーは、呼吸が荒く顔を歪めている。
僕は一瞬それを見下ろす。
チャプ
僕は風邪薬の入った小瓶をかたむけて、考え込んだ。
(ルビーが僕に執着しているように、僕だって特別な感情が確かにあったよ)
チャプチャプチャプ
僕はソプラノの可愛らしい小さな細い指で蓋を開けた小瓶を弄ぶ。
(だからさ)
僕は寝ているルビーの顔にうんと自分の顔を近づけてみた。息が熱い。
ルビーの閉じている目に僕の目をくっつけてみる。
ソプラノもルビーも睫毛が長いから、こうしていたらくっつくかもしれない。
視界の隅に足元にいるウォーマの白いフワフワの体がちらりとだけ見えた。
ウォーマが僕を心配そうに見ている気がする。
だけど僕はすぐに思考を移し、昔、僕を馬鹿にして嘲笑っていた三人の姿を思い出す。
特に率先して僕に楽しそうに纏わりついて貶めてきたのは、今僕のすぐ近くにいる赤い髪をした男だ。
楽しそうに無邪気に笑う彼の姿が浮かぶ。かと思えばいじめてくる時によくしていた、ねっとりとした表情が浮かぶ。
僕に付きまとって、いろいろなトコロに連れて行ってくれて、僕を家族のようだと言ってくれる。
(それならさ)
どうして、僕をいじめたの。
ルビーを見る。さっきよりは息の荒さも落ち着いている。横になって少しは楽になったんだろうか。
僕は様子が安定してきたルビーにホッとしつつ、いまだ開けっ放しにしている薬の入った小瓶を眺める。
ルビーは眠っているのか目をつむったままだ。
……………………。
僕は、小瓶を自分の口元に寄せた。瓶の感触にどきりとする。
ほんの一滴。少し震える指先で瓶を操り、少しだけ、口に含んでみた。
(ああ、甘いんだ)
少し汗で湿った彼の頬に優しく手をかける。
ウォーマのようにキラキラとしたものは感じないが、赤い髪をした男はやはり綺麗な顔をしている。
いつもは目立つ大きく鋭い瞳も今は閉じられていて、余計バランスのいい顔立ちだと気づかされる。
細くて品のある高さの鼻筋、その下にはいつもは二ィと大きく弧を描く唇が、小さくまるで儚そうにそこにあった。
手で優しく彼の口を少し開かせた。
自分の唇をルビーの唇と間、数センチほどに近づける。
僕は口の中にちょっとだけ薬を含んだまま、小さくなるたけ優しく言った。
「ルビー、はい、あーんして?」
彼がいつの日にか僕に言った言葉をまんま僕は、ルビーに返した。
ぽつん
乾いて少しひび割れていたルビーの唇が、僕から降り下りた薬で彩られた。




