ルート27 僕のレベルもあがりルビーが家の前に立っていた
「こーら。ソプラノちゃん、どこ行くの」
「っはぁ、はぁ。ごめん、一回休ませて」
僕はルビーの耳元に寄せていた顔を離し、息を整えようとした。
しかし、そこをガシッとルビーに押さえつけられた。
「も、もう無理」
僕はルビーに胴体を掴まれながら、腕や足を床に突っ伏した。
(つ、つっかれた~)
「今日は休憩しましょうか。ソプラノさんも慣れないやり方で魔法を使い続けて、神経が疲れているんでしょう」
長めの青い髪をした先生がフォローしてくれる。
「せ、先生~。ごめんなさい、ありがとうございます~」
(やっぱり先生いい人だ~。ありがとうございます)
僕は疲れていたためか、心の中でもお礼を言った。
「ルビーのせいじゃないの? ソプラノさんが疲れているの。ずーっとソプラノさんに魔法かけさせてさ」
茶髪イケメンアースが座ったままのルビーの上から声を降らせた。
「あぁ?」
ルビーが思い切り目元を歪めた。
「そ~そ~。ぜってぇお前、魔法かかってるくせに上手くいかないフリして、ソプラノ独占したかっただけっしょ」
長身イケメンライトも金のポニーテールをさらりとなびかせ参戦してきた。
三人組が不穏な空気になっている。僕はこういうのは好きじゃない。
「あの! ごめんなさい。私がなかなか上手く魔法をかけられないから」
僕は三人の中に割って入った。
三人が僕を見て、少し表情を緩ませる。
「ソプラノさんは上手くやってますよ」
華奢な魔法の先生がそんな風に言ってくれた。
「せ、先生!」
最初はつかみどころのない人だと思っていたが、僕の中で先生の株がどんどん上がっていく。
僕がウルウルと先生を見上げると、先生は「ステータスオープン、ソプラノさん」と言った。
文字が浮かぶが、先生がスゥと腕を滑らせた。
【ソプラノ】LV19
『魔力104』
『知力110』
『体力56』
『特殊スキル 歌』
(あれ?)
一瞬『魅力999』が映った気がしたが、先生の動かした腕と一緒にかき消えてしまった。
レベルを見る。皆の特訓に付き合って14まで上げていたレベルが、一気に19まで上がっていた。
「すげー。5も上がってんじゃん。確か今までは14レベルって言ってたよな?」
ライトがそう言ってヒュゥと口笛を吹いた。
「ソプラノちゃんはレベル上げなくても、俺が守ってあげるよ。でもレベル上がったのはおめでとぉ!」
ルビーもなんだかんだ褒めてくれた。
「こんなに上がるのか……。先生、これはソプラノさんが今俺たちへ使った魔法が原因ですか?」
アースが感嘆しつつ先生の方へと体を向ける。
案外アースは研究者タイプというか、物事をつきとめるのが好きなようだ。
にっこりと先生は笑った。
「繊細な魔法は体力も使う分、レベルの伸びも速いですからね」
うん、確かに意外と体力使ったかも。魔法の微調整で神経も使ったし。
そうして「今日はもうお開きにしましょうか」という先生の声で解散となった。
今日は疲れたな~。でもレベルも上がったし、僕にしては頑張ったぞ。
(今日はたくさんウォーマに甘えよう)
僕がそんな事を考えつつ、白のフワフワウォーマを撫でていた帰り道だった。
「ソプラノちゃん、一緒に帰ろう~?」
(い、や、だ~)
声だけでわかる、ルビーだ。
僕は逃げた。
聞こえなかったフリをして、もふもふとしたウォーマを抱きしめつつ早歩きで帰った。
ごめんな、ルビー。でも怖いものは怖いんだ。ルビーからはどうしても逃げたくなるんだ。
僕が家の前で鍵を探す。
「ソプラノちゃん! 歩くの速いんだね」
「ひっ!!」
僕は情けない悲鳴をあげつつ、がくがくと振るえながら振り返った。
(ホラーだ……)
「ここソプラノちゃん家? 俺入ってもいい?」
よくない!
学校の近くにあって通いやすい家だけど、今日だけはもっと遠いトコロに家があればよかったと思った。
「もう私帰るから。さよなら、ルビー君」
僕は距離を置いた風に、少し冷たくルビーに言って玄関のドアに手をかけた。
「待って!」
ルビーに手を掴まれた。
「な、何?」
「ごめん、中まで入らなくていいけど、ちょっと話したい事があって」
僕はいぶかしげにルビーを見た。
「俺今日上手く魔法使えなくて、ソプラノちゃんに無理させちゃったからさ。……ごめんね?」
「別にそれは全然いいよ。こっちこそごめんね、私がもっと上手く出来ればよかったんだけど」
僕はいつになく愁傷そうなルビーに少し気を許してしまった。
すると落ち込んでいたルビーはふと怪訝な顔になった。
(うん?)
「くしゆんくしゅんくしゅん」
ルビーが突然くしゃみをした。
「え、大丈夫?」
突然どうしたルビー。くしゃみ可愛いな。
「んー大丈夫大丈夫。くしゅんくしゅんくしゅん」
「……」
「あれなんか寒い?」
ルビーがぎゅっと自分自身の体を掴んだ。
「風邪ひいたんじゃないかな?」
「風邪ぇ? 俺今までかかった事ないけど」
……風邪ひいた事ない人いるのか。
めちゃくちゃ丈夫だな。羨ましい。
(しょうがないな)
僕はルビーの手を掴んだ。
「ルビー君来て。家に薬あったから飲んで帰りなよ」
僕が急いでそう言うと、ルビーはぽかんとした後、嬉しそうに笑った。
「ありがとー。ソプラノちゃん」
僕はルビーを家に招き入れ、風邪薬が入った小瓶を探した。




