ルート19 ライトの好感度とウォーマの涙
「ウォーマ、ライトの好感度見せてくれないかな?」
僕はウォーマに頼んだ。
「ソプラノちゃん……ど、どうして?」
「僕、結構ライトと仲良くなれた気がするんだ。そろそろ好感度上がってると思う」
珍しく言葉を濁すウォーマに僕はキッパリと言った。
ウォーマは浮かない顔をしていた。具合でも悪いんだろうか。
「う、うん。わかったよ。……ソプラノちゃん」
「? ウォーマ?」
僕はいつもと違う様子のウォーマが心配になってきた。
ウォーマは初めて僕に映像を見せてくれた時と同じようにキュキュッと白い体を揺らす。
目の前にライトの好感度が映像化されたライト本人に見えるそれが現れた。
「ライトはソプラノちゃんをどう思ってますか?」
ウォーマがライトの映像に向かって語りかけた。
「そうねぇ。まぁ最初は可愛いけど、正直タイプじゃねぇなって思ってた」
ライトの映像が話し始める。
(うぅ)
まぁ、そうだろうな、僕はライトのタイプではないのはわかっていた。けど、やっぱり少し自分を否定されたみたいでへこむ。
「俺は恋人は友達の延長上だと思ってるからな。自分と真逆なタイプと友達になれるかって話だよな」
背が高く、金髪をポニーテールにしている男はそう言った。
「まー、タイプが違っても友達にならねぇ事はねぇけど。いろんな奴と話すの面白れぇし。けど、やっぱ最終的には、なんだかんだ自分と似てる奴とつるむじゃん? 結局」
(なるほど、そういう考え方か)
僕は友達があんまり多い方じゃなかった。恋人もいた事なかったし。だからライトの話は完全にはわからないけど、そんな風な考えもあるんだなと少し勉強になった。
「――って、思ってたんだけどなぁ」
金髪の男は細長い体を折って片手で髪をかきあげる。
「なーんかソプラノ見てると可愛いって思うね、最近特に。外見はまぁ可愛いけどさ、そういうのじゃなく、中身というか雰囲気というか。なんなのかねぇ、コレ」
金髪長身男は困惑げな顔をして、そう言った。
(お、おお)
そうなのか。少し嬉しい。外見はこのソプラノのもので僕ではない。だから中身に好意を示してもらえると顔がちょっとにやけてしまう。
「ルビーと、最近はアースの奴まであいつの事好きっぽいしなぁ。わざわざダチらが狙ってる女に手出すのもどうよって思うんだけどさ。でもソプラノを嫁さんにしたら幸せになれそうだよな」
ま、マジか。いきなりお嫁さんにまで話が飛んでしまった。
ライトは細長い指先で自分の口元を押さえる。
「最近夢にソプラノが出てくんだよな。仕事から帰ってきた後、家の中でソプラノが待っててさ。俺に向かって『おかえり』って言ってくれる訳よ」
うわぁ。夢に登場してるのか僕。これはちょっと聞いていいんだろうか。今更ながら人の気持ちを覗き見ている事に申し訳なくなる。
「そんで、俺があいつに『ただいま』って言った後キスして――」
わぁわぁわぁ。これはやっぱ聞いちゃダメな奴だ。
「う、ウォーマ、消してくれる?」
僕がウォーマに頼むとライトの姿が消えた。代わりに誰かが泣く声が聞こえてきた。
ウォーマが泣いていた。
「ウォーマ? どうしたの!」
僕はびっくりして目を見開きウォーマを抱きしめる。
「う、ううん。ソプラノちゃん、大丈夫だよ。ありがとう」
全然大丈夫そうに見えないウォーマは続けて僕に笑いかけた。
「ライトの好感度もばっちり上がっているし、もう全員攻略できたと思うよ」
僕はウォーマの白い体を優しく何度も撫でる。
「どうしたの? 何で泣いているの」
僕はつぶらな瞳から流れる涙をそっと指で拭いつつ、ウォーマを安心させるようにゆっくり抱きしめる。
「ソプラノちゃん。ううっ、ソプラノちゃん。絶望ルートに行った後、魔王ルートをちゃんと選んでくれる?」
「選ぶよ! 選ぶに決まってるよ! だから泣かないで」
「うん、ありがとう」
とっても悲しそうな声で言うウォーマに僕は焦ってくる。どうしてウォーマはこんなに泣いているんだろう。
「あ、あのねソプラノちゃん」
「うん」
「三人を攻略したら、僕はもうソプラノちゃんと会えないんだ」
どういう事だろう。
「だから、もうこれで僕は消えてソプラノちゃんとお別れしないといけないんだ」
ウォーマがどんどんと涙を溢れさせている。
「やだよ!」
「うう、ソプラノちゃん僕も嫌だよぉ。ううっ」
ウォーマが泣いている。僕もつられて涙が出そうになる。
「なんで。僕もっとウォーマと一緒にいたいよ! 離れたくない!」
「ソプラノちゃん……」
僕が悲しくなって叫ぶように声をあげるとウォーマは少し考え言った。
「ソプラノちゃん、絶望ルートに行かずに魔王ルートをすぐに選べば、ずっといられると思う。ほんの少しだけお別れする事にはなるけど」
「絶望ルートに行かなかったらウォーマとずっといられるの?」
「うん、僕の姿形は変わっちゃうし、こういう風にソプラノちゃんと一緒にいられる事がなくなるのは変わりないけれど」
突然の事に頭がついていかないが、でもウォーマとずっといられるなら。
「じゃあ僕、絶望ルートなんか選ばないよ! 魔王ルート選ぶ!!」
「……」
僕は勢いよく言った。喜んでくれると思ったのに、なぜだかウォーマは黙ったままだ。
「ソプラノちゃん」
ウォーマは白い体を少し傾げる。
「でも、ソプラノちゃん本当にそれでいいの?」
「いいよ」
僕は即答するが、やはりウォーマは浮かない顔色をしている。
「ソプラノちゃん……。僕は嫌だな。君があんな酷い目にあったのに、あの三人が何も痛い目にあわずに幸せにしているのは。そんなんじゃ、“ゼツボー”として扱われてきたソプラノちゃんが可哀そうだよ」
僕はグッと口をへの字に曲げた。
ウォーマはそんな僕を優し気な顔で見た後、僕に言った。
「ソプラノちゃんお別れにキスしてくれない?」
僕は別れるつもりなんかちっともなかったけど、ウォーマをそっと触ってキスをした。
するとフワフワのウォーマの体を抱きしめていた僕の手がストンと下に落ちた。
僕が何事かと思っていると、僕の口に人の唇が当たっているのがわかった。
「初めてのキス、貰っちゃってごめんね」
黒髪の綺麗な顔をした男が泣きながらそんな事を言っていた。