ルート17 何度も目があうのは脈ある証拠かもしれない
今日は魔法の授業の日だ。
「ソプラノちゃん、俺と一緒に練習しよう!?」
「ソプラノさん、俺と組まない?」
ということで、僕はルビーとアースと三人で班を作ることになった。
「あ、うん。じゃあよろしくお願いします」
二人に僕は言った。
「今日はライトが指導役ねー、ライトの奴ちゃんと教える事できると思うー?」
大きな鋭い目で遠くにいる金髪の男を見た後、赤髪のルビーはおどけたように問いかける。
「さぁ? まぁ俺達には関係ないんじゃない? あの様子なら」
アースは微笑を浮かべ案外クールに言い放つ。
僕も二人の間から教壇に立っているライトの方へと目を向けた。クラスの元気な女の子たちに囲まれたライトは中心で楽し気になにやら喋っている。
魔法の授業は、その日選ばれた誰かが自分の得意な魔法を皆に教えるという手法をとっている。
今日はライトが選ばれたので光の授業を皆、学ぶことになる。
クラスの生徒の様子を、教室の端でおっとりとした先生は何も言わず静かに見守ってくれている。
(先生自分が教えるの面倒だから手抜いてる訳じゃないよね?)
僕はこっそり思った。違うよね、生徒の自主性を伸ばすためだよね。
マイペースな先生はティーカップを優雅に自分の口元に持っていき、片手には漫画の本を持っていた。
先生は読んでいる漫画の展開がツボに入ったのか、急に口の端を吊り上げ笑いをかみ殺していた。
……。
「ソプラノちゃんどおしたの? 遠い目して。せっかく近くにいるんだから、可愛いお顔、俺に見せて?」
ルビーは平常運転で僕の顔に優しく手をかけ、僕の顔をじぃーと覗き込む。
真正面から大きい瞳の視線を受け、僕はギクッと体を軋ませた。
「やめなよ。ルビーの顔が怖くてソプラノさん固まってるよ」
そう言ってルビーから僕を奪い、今度はアースが僕の両肩を掴んだ。
「ソプラノさん、俺がいるから大丈夫だよ」
アースは優しく呟き、愛おしそうに僕をみつめた。
アースは儚げで優し気な中性的な顔立ちをしているが、ルビーより明らかに体格的にも身長的にも恵まれている。
アースの体でルビーが見えなくなると、僕はほっと息をついた。
すると、遠くで女の子たちとライトの笑い声がした。
僕はくるりと首を回し、声の聞こえたほうへと顔を向ける。
――――。楽し気な女の子たちと背の高いライトの様子が目に入る。
……なんとなくだが、ライトと目が合った気がした。けど、まぁ気のせいかなと思った。
ライトは金のポニーテールをさらりと揺らすと、こちら側に背を向け再び女の子たちと会話を始めた。
今は攻略のためにライトに近づく事は無理そうだな。
僕はしょうがないと気持ちを切り替え、授業に集中する事にした。
「『――ライトニング』」
炎の魔法が得意分野のルビーは、ごく簡単に光の魔法も使いこなしてみせた。
「おぉー!」
僕はルビーの光る手元を見ながら感心する。さすが、なんでもできる男だ。ルビーの光を出していない方の手が僕の腰に回っていなかったら、もっと感心していただろう。
「ルビー、それどうやるの?」
アースも光に目を落とすと、興味深げにルビーに質問する。
「かんたん、かんたん。まず、真っ暗やみを頭に思い浮かべるでしょ」
「うん、うん」
「なるほど、暗闇ね」
ルビーの講義に僕とアースは真剣に耳を傾ける。
「そしたら、詠唱と同時に光を弾けさせるイメージをする。おわかり?」
ルビーはそう言った後、また『ライトニング』と言いながら光を出してみせた。おおー! すごいなぁ。
アースはそれを聞くと自分の手をじっと見た後、目を瞑った。
「『ライトニング』」
アースは詠唱と同時に目を開ける。はらはらと見守っていると、アースの大きい手のひらから光が溢れ出た。
「すごーい!!」
僕が両手を握りしめ、アースの手の上の光に目を躍らせる。
アースはそんな僕を見てぽっと、少し顔を赤らめ、照れたように笑った。
「ありがとう、ソプラノさん」
「あのー、教えたの俺なんですけど~~?」
ルビーは不愉快そうにアースに視線を投げかけ、いまだ手を回していた僕の腰をグッと力をこめて掴んだ。
お、おお。僕は腰を浮かして逃げようとするが、がっちりと捕まえられていて動けない。
「だから、ソプラノさん困ってるでしょ。そんな、おしてばかりじゃ嫌われるよ?」
普段は好戦的ではないアースが目を細めてルビーに言った。いつもの穏やかな笑みが消え去っている。
「ほーん、すいぶん強気じゃないのアース君。お前みたいな受け身主体のやつに、そんな事言われてもね~」
うわぁ。また喧嘩し始めた。ルビーとアースは今まで通り、よく一緒に行動している。だから仲は悪くなっていないと思う。だけど、最近はこうして何かと張り合ってるトコロをよく見かける。
どうしたものかなと視線を他に向けると、いまだに女の子たちに囲まれているライトもちょうど僕を見ていた気がした。
光の魔法を教えてもらうという目的で女の子たちはライトの周りに集まってるんだろうけど。
それにしても多いなぁ。あんなに仲がいい女の子がいるのに、その女の子を押しのけてライトに好きになってもらえるんだろうか。
僕はもうしょうがないので、言い争っているせいで緩くなったルビーの手を抜け教壇へと足をのばす。そして、やはりさっきから僕の方を見ていたのかもしれないライトと見つめ合いながら彼の方へと向かった。