ルート13 初デートなのでアースの好みの服を着たらテレられた
「うわぁ、どうしよう。初デートだぁ」
僕は黒のストッキングに赤くて丈の短いドレスタイプの服を着た。上には黒のカーディガンを羽織る。
さっきから鏡の前であーでもない、こーでもないと混乱していた。
「大丈夫だよ! ソプラノちゃんとっても可愛いし、いつもより大人っぽいよ!」
フワフワウォーマが僕を励ましてくれる。
「んんん。ありがとう」
僕はウォーマにお礼を言う。
前の世界での夢を見た時はしばらく落ち込んでいた。けれど、授業を受けたりウォーマと会話して癒されたりといった日常を過ごしているうちに、少し持ち直してきた。
待ち合わせはお昼過ぎだった。そのため、いつもより早い時間にお昼ごはんを食べて外に出た。
「早く出すぎちゃったね」
僕は待ち合わせ場所にある公園のベンチに腰掛けた。
遠くで子供たちが砂いじりをしているが近くには誰もいない。
「待ち合わせの一時間前だからね。五分前くらいでよかったかもしれないね」
僕の膝の上にのっているウォーマがこちらを見上げた。
「うぅ。初めてのデートだから失敗しないようにって気合入れすぎちゃったかも」
「まぁ、初デートで遅刻するよりは全然いいと思うよ! 大丈夫大丈夫」
「かなぁ? ありがとう、ウォーマ」
ウォーマにありがとうの気持ちを込めながら、白くてフワフワの体を優しく撫でる。
「でもスカート履くのは慣れたけど、ストッキングはなんか恥ずかしいね」
「そうなの?」
「うん、なんか上手く言えないけど、『女の人』って感じがするよ」
僕は小さめのバッグに入れてきた鏡を取り出した。
「大丈夫かなぁ。変じゃないかなぁ。失敗しないといいけど」
鏡を見ながら指先で髪型を整える。
少しだけ口を開けて口元もチェックした。
「フフッ、ソプラノちゃん本当に恋する女の子みたい。アースの事好きになった?」
えっ、と思い、びっくりして膝の上のウォーマを見る。
ウォーマは少し寂し気な、それでいて僕を探るような瞳でこちらを見上げていた。
「そんな事ないよ! 好きになんかなる訳ないよ! 初めてのデートだから上手くやらないとって緊張してるだけだよ? 絶望ルートにいくためにちゃんと好感度上げないといけないし」
僕は必死に思っている事を伝える。するとウォーマは体をフルフルと振って明るい声で答えた。
「そっか。うん、わかったよ。ソプラノちゃん攻略頑張ろうね!」
「うん!」
公園にある丸い時計をみると、まだ待ち合わせより四十分以上時間があった。
未知のデートはどんなものか考えるだけでドキドキする。だけど、やっぱり早く来すぎちゃったなと少し後悔をした。すると、見知った姿が現れた。
「ソプラノさん、待たせちゃったね。ごめんね」
いつもの笑顔に五割増し爽やかな笑みを携え、アースがこちらに向かって歩いてくる。
僕は緊張に足を絡ませつつ立ち上がった。
「う、ううん。アース君早いね」
風が吹いて茶色の髪の毛がふわりと舞った。
「そっちこそ」
アースは笑いながら僕の前に立った。
茶色の髪の青年は白いシャツに薄手のカーディガンを着ている。やはり今回もアクセサリーは一つもしていなかった。
自然体の服装は彼の爽やかな外見をますます引き立てている。
「俺好きだなぁ。その恰好」
ぽつりと言われて彼を見上げる。アースはまじまじと僕を見たあと顔を赤らめた。
そうして僕から顔をそむけると彼はぽつぽつと呟くように言った。
「すごく、いい、と思います」
そんな彼を見ていると、なんだか僕もつられて照れてしまった。
「ありがとう。アース君の服装も爽やかでいいと思う」
僕が笑ってそう言うと、彼はまだ頬を染めたまま嬉しそうに笑った。
「どこに行こうか」
「うーん、アース君の好きなところに行こう」
「好きなところ……。じゃあ、書店に行こうか」
「うん!」
僕たちは並んで歩き出した。
アースはとてもゆっくり歩いてくれるので、慣れないヒールでもしっかりと僕は歩くことができた。
「アース君、本好きなんだね。私も結構本見るの好きだよ」
「そうかなと思ってた。前あったのも書店だったし」
心持ちいつもより、楽し気に笑う横顔を眺めつつ、なるほどと思った。
「だから書店に誘ってくれたんだね。ありがとう」
「うん」
書店に着くとしばらく僕らは並んで本を眺めた。
(ら、楽だ)
穏やかな彼と並んでいると緊張も解けて、思ったより自然体でいられる。
(もし僕が“ゼツボー”じゃなくて、本当の女の子ならアースと上手くいったのかもなぁ)
一通り本を見て回った後、僕らはひとまず待ち合わせ場所である公園で休憩する事にした。
「足、痛くない?」
「アース君がゆっくり歩いてくれたから平気だよ」
僕の足元を心配そうに目を向けるアースにそう言った。
アースは僕を見て、どこか眩しそうに目を細め「よかった」と微笑んだ。
アースと公園のベンチに座ったままのんびりと景色を眺める。緑が多く、流れてくる空気が美味しい。
そうやって心地いい気分を味わっている時だった。
公園の入り口の方を通る赤髪を見つけた。鋭く大きい瞳は見覚えがある。
「!!!」
僕は声をつめて警戒する。隣に意識をやる。アースは僕の手を握った。
「ソプラノさんちょっと隠れよう。今は邪魔されたくないな」
そうしてアースは僕を連れて奥の方へと歩き出した。