ルート11 宝箱を開く宿題とメモ用紙
「ウォーマ様!! 僕をテレポートしてくれてありがとうございましたぁ!! おかげでパパとママに会えましたぁ!!」
四角いウィンドウから映像と音声が流れてくる。
学校に紛れ込んでいたミミックが嬉しそうにおじぎをした。その度に蓋の部分が胴体部分にあたってカツカツと音を立てている。
そのミミックの周りに別のミミックが映って同じようにカツンカツンと音を鳴らして頭を下げていた。
「通信って、こんな感じだったんだね。一緒にいたのに、ちっとも気付かなかったよ」
僕はウォーマの通信に興味があったので、ウォーマに頼んでその様子を見せてもらったのだ。
「ソプラノちゃんが寝てるときにしてたからね」
ウォーマが少し申し訳なさそうな困ったような顔で僕を仰ぎ見た。
「そうだったんだね! でも今日は僕にも見せてくれてありがとう」
僕はフカフカウォーマの頭を撫でてお礼を言った。
ウォーマはつぶらな瞳を嬉しそうに細めた。
「なんだか、ウォーマ様とソプラノ様って僕のパパとママみたいですね!」
まだ通信中のままだったウィンドウからミミックが声を弾ませた。
パパとママ……。ううん? そうかぁ? まぁ仲がいいって言いたいのかなと思って僕はミミックに向かって笑いかけた。
隣のウォーマは真っ白の丸い体をポッと真っ赤に染め上げて震えていた。
なんだろ。笑っているのかな?
「ああ、そうだった~~。宿題が残っているんだった!」
ミミックとの通信が終わった後、僕は現実に引き戻された。
先ほどまで話していたミミックとまるっきり同じ形をした宝箱に目を落とす。
「できるかなぁ」
不安になってきた。持って帰ってきた針金を手に持ってみる。
「ソプラノちゃんなら、きっとできるよ! 僕がついているよ」
震えが治まったのかウォーマは僕に体を向け、いつものように元気づけてくれる。
「うん! ありがとう、ウォーマ。よし、やってみるぞ!!」
僕は針金を持った手に力をこめて宝箱にとりかかった。
「あ、ソプラノちゃん! アースに貸してもらった本を読んでみたらどうかな?」
「ん! そうだったね。見てみるよ。ありがとう」
そうだった、そうだった。僕は茶髪で少したれ気味の目をした端正な顔立ちを思い出しつつ本を取り出した。
しばし、読んでみた結果。
「……。まずい、全然わからない」
僕がそう呟くと、僕の肩の上から本を読んでいるウォーマもそれに答えた
「天才タイプだねぇ。この人」
「うん。それも理論的に考えるタイプの天才じゃなく、感覚派の天才だと思う」
僕は本をめくりながら答えた。
『宝箱に針金でもなんでもいいから入れたら勝手に開きます』
『開かない時はクイックイッっとやってみましょう。それで必ず開きます』
『それでも開かない時は大丈夫。一晩寝たら次の日勝手に開きます』
……それで本当に開けられる人がいるなら、その人は、この本を読まなくてもすでに開けられる人なんじゃないだろうか。
そう考えてハッとした。いや、やる前からそんな風に考えちゃダメだよね。もしかしたら僕もこれに書いてある通りにしたら開くのかも――!?
「開かないねぇ」
机の上に降りたウォーマが言った。
くっ。一時間くらい経っただろうか。針金で宝箱をいくらいじっても全く開く様子がない。
この本に書いてある通りやったのに。
「どうやったら上手く『クイックイッ』とできるんだろう」
「ソプラノちゃん疲れてるんだよ。休憩しよう」
僕がぶつぶつと独り言をつぶやきながら宝箱と格闘しているとウォーマが気づかわしげに、そう言った。
アースはこの本を読むだけで開けられたんだろうか。だとしたらアースも感覚派の天才だな。
そう思いながら、ベッドの上で横になり本を眺める。カサリと音がして白くて小さいメモ用紙が落ちてきた。
「なんだろう?」
僕はメモ用紙を手に取った。
『ソプラノさんへ~。わりと早めに開ける事ができたのでアドバイスを書いておきます。もしこの本を読んでわからなかったら参考にしてね』
アースが書いてくれたのだろうか。走り書きのような字がメモに綴ってある。
僕が保健室に行ってアースが来るまでの時間は短かった。それで宝箱を開けたという事はかなり早い。
(すごいなぁ。シーフに興味があるって言ってたけど、本まで買って読んでるんだもん。努力家なのかも)
少し感動した僕は文字の続きを見る。
『宝箱をカクッってやるといいよ。そうしたら開くから』
……これと同じような言葉をさっき見た。
この書籍の作者の言葉だ。
僕は凡人なので『クイッ』も『カクッ』もわからない。
僕はふと前の世界を思い出す。
この茶髪のイケメンは自分の興味のある科目ではよく満点をとって周りに驚かれていた。やっぱり、アースも感覚派の天才なのかもしれない。
(天才は天才を引き付けるのかも)
結局僕は宝箱を少し浮かせ、針金でひっかかった部分を丁寧につつくというやり方で何とか開くことができた。
開けた後に振り返ると『クイッ』と『カクッ』の意味も少しわかった気がする。少しだけど。
僕はアースのつかみどころのない微笑みを思い出しながら脱力した。
(でも僕のためを思って本を貸してくれて、メモまで書いてくれたんだよなぁ)
机に座った僕は、引き出しにあった可愛いメモ帳を一つとる。それにお礼の言葉を書いて茶色の本に挟んだ。




