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ここは世界、されど異世界  作者: 結城伽耶
第零章「世は並べて事も無し」
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第三話「買物と温もりと」①

第三話は2人をいちゃつかせます(幼馴染だけど)

特筆する事もなく時は流れ過ぎ去り、約束の放課後がやってきた。

目が眩むほど輝いている夕陽に空が朱色に染まっているのを見ると、疲労がより一層深まったような錯覚がある。

影が背を伸ばし始めるにはまだ少し早く、今は光の元で怯え隠れているが、そのうち、闇の中で彼らは生を感じ出すのだろう。

そう、例えば、過敏に周囲の視線を伺ってる誰かのように。


第零章「世は並べて事も無し」

第三話「買物と温もりと」


「お待たせー、凛ちゃん」

帰宅出だしの雑多の中、その一際目立つ髪色が俺を振り向かせた。ころころとした青色の瞳は、遠くからでもよく光って見える。

校門から少しばかり抜けた先、白夜の指定で、人目につかない所での合流だ。

と言いたい所だが、ここは女子陸上部の部室裏とそれなりに近い。

「部室に忘れ物しちゃってさー」

そう告げる白夜の後ろで、数名の女子生徒の顔がちらほら見えた。

何やらこそこそとありもしない想像でもしているのだろうか、その視線はやや色づいているようにも見える。

俺の様子からそれに気がついた白夜は、あっちゃーとやってしまった感のある苦笑いを作った。

「あ、ちょっと、迂闊だったかな……」

「や、まぁ……」

別にやましい事は何もないのだけれど、この感じは何というか……。まぁ、それこそ苦手だな。

というか、見られた事自体は今までも何回かはあったのだ。

けれど、それもクラスメイト程度の印象しか与えていなかったので特に親しく見られた事はなかった。

なので、まぁ、学校の外、しかも放課後となると色々勘繰られるのも仕方がないのかもしれない。

入学以来、二回目となる出来事。

他人となると、今回が初かもしれない。

「ちょっと行ってくるね」

その言葉だけを残し、白夜は部員のもとへ向かう。

2、3分彼女達の会話は続いて、その間俺はただぼけーっと雲を眺めている以外にすることがなかった。

ちらと伺った様子からすると、あの部員の達は白夜の先輩なのだろう。

からかわれたりしている白夜がちょっと新鮮に写る。

やがて状況説明を終えたであろう白夜が駆け足で戻ってくる。

「うん、もう大丈夫。行こっか」

言って、俺たちは先輩に手を振られながらその場を後にした。

「……言った、のか?」

「私達が幼馴染だってこと?」

「あぁ」

うーんと白夜は間延びした声で悩んでいたが、やがて何か思いついたように、

「……内緒っ、かな!」

とだけ、艶めかしたように口元に指を当てて笑みを作る。

「いや、内緒って……」

俺が困惑した様子を見せると、白夜は大丈夫と前置きをして淡々と補足をした。

「あ、でも周りには言わないようにお願いしたから。……うん、あの先輩達も信頼できるよ」

「……そうか」

と言って、俺は納得した意思を示す。

まぁ俺がこれ以上深く聞く必要もない上に、もう見られてしまったものは仕方がない。

バレたらバレたで、俺が軽く死ぬだけだしな。

そのまま俺たちはたわいもない会話を繰り返し、歩き続ける事しばし、電車を経由して、約20分くらいで隣町へと入る。

城址院の制服は見受けられないが、流石に人目が気になりだした。

まぁ側から見れば今時の清楚かつ可憐な女子高校生と、パッとせず掴みどころがなく冴えない男子高校生といういかにもアンバランスなツーマンセルだ。

その関係は歪に映っているのかもしれない。

俺は深く重いため息を虚空に吐き捨てる。

ほんと、入学当初はよく笑われたものだ。

何でお前が、幼馴染なのかと。

全くもって不釣り合いだなと。

俺が異質な白夜を幼馴染に持つと、それは当然とも言える環境だ。

気にしないで言わせておけば良いと白夜は庇ってくれたが、やはり夢溢れる高校一年生がその他諸々の誹謗中傷を気にしないわけもなく。

それはそれなりに考えさせられた苦い思い出がある。

「凛ちゃん……。なんか朝よりも遠くない?」

「え?」

急に何、どったの白夜さんと目を向けると、隣を歩く白夜はほれほれと自分と俺を交互に指差す。

「あ、あぁ。俺と白夜の並ぶ距離ね」

「そう、私達の距離のこと」

「……別に普段と変わ」

「ううん、凛ちゃん。朝より15センチ遠いもん。15センチ」

「えぇ……」

俺の台詞を遮り、大事な事だからか二回言ってる白夜。いや多分恐らく普通に誤差でしょ気のせいでしょ怖いよ……。

なんて口に出して言えないのは、実のところその指摘は図星だからに他ならない。

俺は髪を整えるフリをして、周囲を一瞥する。

雑多の中で、一際目立つ白銀色。

「いや、ほらさ。外だとやっぱ目立つじゃん、白夜」

本人が気にしてるのであまり言いたくはないが、これから不機嫌になってしまうことの方が俺的には困るのでやはり容姿のことを口にする。

約半年間過ごした学園でさえ白夜の容姿に目を引く生徒が増えているのに、寮から少し離れた都内ではそれこそ当然人通りも多い訳で。

朝の人通りのない裏路地ならまだしも、ここはれっきとした公道な訳で。

とまぁそんな訳で、俺は入学当初から学んできた身の振り方を現在実践中である。

「……まぁ、そうなのかなぁ?」

「いや、そうだから。……分かってるでしょ」

とぼける白夜を、俺は否定する。

「ま、まぁね……」

バレてたかぁ……、と頭をさすっているが、もう長い付き合いだ。最初から白夜も隠すつもりはなかっただろうし、これはちょっとした冗談みたいなもの。

続けて、少し悲しそうに白夜は言葉を紡ぐ。

「……でもさ、この容姿が原因で凛ちゃんに迷惑かけてるなら、私、ちょっと自分のこと嫌っちゃいそうかな」

言って、誤魔化し混じりに下手くそな作り笑いを見せる。これは自慢でも謙遜でもなく、実の感情だ。

不意に吐露された、本心とも言える。

そんなことを言われてしまったら、それこそ俺だって……。

「……いや、別に困ってはねぇよ」

白夜の目を見て、俺は心からそう伝える。

「ほんと?」

「あぁ」

「ほんとの本当に?」

「……あぁ」

困る、という状況はいつだって俺のせいで、俺の為で、俺の信念で、俺の理屈で、俺の道理で、俺の因果で、俺の責任だから。白夜は、一切関係がないから。

ーーーー俺は、困ってなどいない。

「むしろ、助けられてるくらいだよ」

今の俺の言葉を、白夜はどれだけ信じてくれただろうか。いくら幼馴染とはいえ、我ながら説得力がなさすぎる。

「うん、それなら良かった」

花が綻ぶ様に笑みを象る白夜を見て、少なからずは届いたようで何よりと、俺は密か(・・)に一安心するが、

「……でもね、凛ちゃん」

肝心な白夜はまだ、納得してはくれていないようだった。

ま、そりゃバレますよね。

話をはぐらかしただけとも捉えれるし。

加えて、白夜がこういう聞き方をする時は、必ずして何か核心めいたものを問う時だったりもする。

正直、嫌な予感しかしない……。

「そう言って誤魔化てるだけで……」

満ちた陽の赤光に、白銀色は照らされて。

眠り覚める深蒼に、俺の瞳は射止められ。

それは幼馴染として、あるいは母の様な優しさで、


「まだ、気にしてたりするのかな?」


咎める為の確かな意思を持って、見せかけだけの笑顔で問いかけて、白夜は隔たれた距離を一歩詰める。

白夜からすれば言質を速攻で破られている様なもの。

もしかしたら少し怒っているのかもしれない。怖い。

「あ、……」

そして俺は、ここで自分の保身具合に呆れ返る。

説得力の欠如、それは俺の現行動。現距離。

問答無用の、感情の一切篭っていない笑顔で、

「あのね、私、人通りの多い所を通る時は前々から思ってけど、普通に会話しづらくないかな?この距離感(・・・)

「……」

「誰がなんと言おうと、私達には関係ないよね?」

「……。……あぁ」

「凛ちゃん言ったよね、困ってないって」

「……。……あぁ」

そう詰め寄ってくる白夜は、きっと何かに怒っていて。約半年分の不満、あるいは願いを。怒りを鎮めながら伝えているように見えた。

少しの沈黙の後、白夜は俺の肩口に額を当て、手をかけて、鼓動を聞いて、縋るようにそっと呟く。


「なら、信じさせてよ……」


埋められた胸から小さく囁かれた、そんなありきたりなお願い。

先程までの怒りの感情も、もうそこには感じられない。

幼馴染でしょ?と最後に笑って告げ足されては、俺のチンケな自意識過剰も、被害妄想じみた抵抗も、はぐらかす為の口実も意味をなさなくなり、もはやどうでも良くなってしまう。

ほんとずるいよなぁ……。俺も、白夜も。

その時、俺は返事の代わりに、ただただ頷き、歩み寄ることしかできなった。

いつの間にか歩みを止めていた俺たちは、再び並んで歩き出す。

15センチ縮まった距離は、自然と保たれたままで、不思議と違和感がない。

はぐらかすのもすっとぼけるのも、誤魔化すことでさえ、どうやら幼馴染の前では難しいらしい。

凛ちゃん、案外こずるい男ですよね(笑)

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