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ここは世界、されど異世界  作者: 結城伽耶
第零章「世は並べて事も無し」
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第二話「人望と朝と」③

上手く纏められたでしょうか……。

そのまま人通りのない非常階段を上る事しばし、荒い吐息がこちらへ上昇してくる。

「はぁ……はぁっ……」

あのあと直ぐに拘束から解放された白夜が、駆け足で追いついてきた。

膝に手を置き、息を整えて辿々しく口を開く。

「ちょ、とまっ、って……、追いつくの大変なんだから……」

まだ荒い呼吸のまま、白夜は少し不満気な表情で訴えてくる。

「……もう、少しだけ待っててくれても良いじゃない。そそくさと自分だけ先に行っちゃうなんてさぁ……」

乱れた髪を整えつつ、全く毎度ながらと落ち込んだ様子だ。

「いや。ほら、あのね……」

どう言い訳しようか間延びした声で悩んでいると。

「はぁ……ま、凛ちゃん人嫌いだしね」

白夜が今日こそはと的確に図星を突いてきた。

まぁそれもあるからこそ、出来る限り学校では白夜と一緒にいないことにしているのだが。

ここ最近は、あまり避けてばかりでも白夜に悪いのかもしれないと思い始めていた。

苦手(・・)な。外だと人聞き悪いからやめてね?」

「だれも聞いてないでしょ」

「いや、まぁそうなんだけど……」

実際自分でもそう思ってはいるのだが、口に出すと何故か最低なやつに聞こえるんだよなぁ……。

「それに……、凛ちゃんだものね」

白夜は既に自己完結したような口ぶりだ。

「凛ちゃん多用し過ぎでは……。形容詞かなんかなの、それ?」

俺が不満がちに目を向けると、白夜は何を今更と言わんばかりに呆れた顔をする。

「これで伝わるからいいの。伊達に幼馴染やってません」

言うがまぁ、確かに言われてみればその表現で俺も納得しちゃってるんだけども。……急に恥ずかしいから。

「白夜も似たようなものだろ?」

照れくさ過ぎる羞恥を誤魔化すために、俺は白夜に話の矛先向けるが。

「あはは…。そんなことないよ、ほんとに」

まぁ、そんな誤魔化混じりの渇いた声を聞いて、幼馴染を騙せるわけもないか……。

俺はしばし、先程の光景を思い返した。

大勢の人に囲まれた白夜。

俺も数ヶ月前までは脇で話し終わるのを待っていたのだが、今としてはそれも少なくなってきた。というかいくら距離を取ろうとあの空気に耐えれる自信がない。

それに実際俺があの場にいたとしても、話しかけてる子達からしてみれば邪魔なだけだし、こればっかりはほんとにどうしようもない。

「……なぁ、今日も増えてたな」

何が、と言わずとも分かっているはずだから、主語を敢えて口にせずに俺は訪ねる。

「うぅ……。そ、そうなんだよね……」

対する白夜は分かりやすく狼狽し、苦い笑みを零した。

「あ、あぁでも!それはもちろん嬉しいことでもあるんだけどね……」

後半に進むにつへ尻すぼみに声量が落ち、最後はもう独り言としか捉えようのないごにょり具合だ。

無理して……なのか、今は少し照れくさい様子の笑顔に切り替わっている。

それを見てふと、白夜のそんな様子から、俺は自分の不手際を呪った(・・・)

これは俺、いや、俺達も予期していなかったこと。

副作用とでも言うべきか、およそ1週間前のあの一件から、白夜の人気に呼応する人数(・・)、それが日に日に増してきているのだ。

理由は単純明快。

まず、警察が学園に白夜の功績を伝える所から始まる。

それを聞いて、学園側が白夜に事実確認を済ませるのは当然のことで、元々の印象があったのに加えてのあっぱれなまでの善行を行ったのだ。

何処からか、噂は瞬く間に校内に広がり、加速度的なまでに評価と事の大きさが膨らんだ。

誰でも少し考えれば分かるプロセスを経て以来、白夜の女子人気も増えだし名実ともに誰もが認める人となったわけだ。

まぁ、必ずしもそれが良いこととは限らないという条件付きだが。

「なりたくねぇなぁ……」

知らずと、俺からは悲嘆の呟きが漏れていた。

が、しかし白夜はそれを聞き逃さない。

「むぅ……」

頬をリスの様に膨らませて、てこてこ詰め寄ってくる。

「あのね、凛ちゃん。そもそも、あの時私は何もしてないんだよ?」

「や、してただろ。警察呼んだりとか……」

「でも、その時にはもう凛ちゃんしかいなかったでしょ」

いや、まぁ……そうだな。

困ったな……と目線を逸らしてみても、白夜は逃さんとばかりに追いかけてくる。

ここで言うあの時、とはあの逢魔時の夜のことだ。

世間的には白夜が猫を助けたことになっている分、俺には耳が痛い話だったりもする。

実際のところ、俺が不良達に一矢報いたのか、不良達が満足してか、引き際だと思ったのか、ただ帰ってくれただけの可能性もある。というか後者の可能性がほとんどだ。

だから正直な所、その功績はだれものでもなかった。

「でも、警察が駆けつけた時には、白夜はその猫三匹を抱えていたんだろ?」

俺が言うような状況だからこそ警察も、一概に白夜が保護していないとは言えなかった経緯もそこにはある。

「うっ……」

言って、逆に今度は白夜が隣でうなだれる。

形勢逆転だが、俺は何とも言えない胸苦しさを抱く。

「……いや、違うな」

気づけば口に出していた、そんな独り言。

そう、あの夜のことだ。

俺に関しては、白夜と警察に名前は言わないでくれないかとお願いしたことによりその報告に名前上がることはなかった。

元より警察相手にそんな願いがまかり通るとは思ってもいなかったのだが、意外にもその後、猫達は全て任せて欲しいとの頼みの代わりに、僕の名前は伏せて報告したとの電話があったのだ。

一度人望の話に戻るが、まさに、言うならば俺は、既にある白夜のイメージに乗じて一躍人気者になれたかもしれないとうい機会を棒に振ってしまったということだ。

大怪我を負ってまで助けたのに勿体ない、そう思うかもしれないが、まぁこれに関しては俺の根本的な思考によるものが大きい。

変えるつもりもないし変わることだってできやしない。時に、棒を振らない事が正解の場合だってあるだろう。

と、今までのように自分1人で事を処理できる状況ならば、そんな信条を掲げてたり適当に逃げて水のように流していたと思うが、今回ばかりはそうもいかなかった。

というか、そうすべきではなかったのかもしれない。

白夜の優しさ頼りにその良くも悪くもの責任から逃れてしまっている以上、本当に白夜に言い訳する顔もない。勿論、俺自身に向ける顔もない。

故に俺は、知らぬ人が聞けば大袈裟な表現かもしれないが、されど控えめでない、不手際を呪っているという言い回しをした。

しばらく狼狽し言葉を詰まらせていた白夜は、やがて仕方ないといった様子で一人でに頷く。

しかし、やはり何か言いたげ様子の白夜に耐えかねてしまい、俺は別にここで言わなくてもいいこと口漏らしてしまう。

「……まぁ、殆ど、と言うか全部。俺のせいなんだけどな……」

懺悔じみたその発言に、ちらと横目で伺った白夜は、ただ複雑そうに顔を歪めるのみだった。

そのまま特に会話を交わす事もなく裏の螺旋階段を登ることしばし、ずっと何かを考えていた白夜は、ふと俺の正面に向き直る。

その造形整った顔立ちをにこちらへ向けて。

「……凛ちゃん、あのね。私思ったの」

「何を?」

問うと、

「いい機会だったし……」

白夜は一拍、意味ありげに間を置いてから、


「名前、挙げても良かったんじゃない?」


真面目な顔で、そう一言告げる。

俺としては白夜に申し訳なく思っている分、その……、何というか、まぁ。

ほんと、そういう急なのやめて欲しいんだけどなぁ……。

って感じだった。

始業までもう五分とないのに、俺は何も言えず口をひき結んでしまっている。

一体何秒間、その閑静が続いていただろうか。

「……ごめん、やっぱり嘘。今の忘れて!」

諦めとも納得ともとれない、それこそ嘘くさい明るさとともに、白夜は俺から顔を背けた。

前方、再び階段を登り始めた白夜を見て足を止め、俺はその場から動けないままで、どんどん距離は開いていく。

もう手は届かないことは、言わずとも分かっている。

もう戻れないことも、知らずとも知っている。

「ごめんな、白夜」

俺は届くはずもない、消え入りそうな声だけをそこに置いて。

つまづきながらも先を行く、いつも道を示してくれる彼女の後を追った。

白夜に踏み込まさせてしまったのは俺の方だ。

白夜に気を使わせてしまったのも俺の方だ。

いつものように白夜が持ち前の明るさで、何事もなかったように会話を戻そうとしてくれたおかげで、別段この会話で仲が悪くなることはなくなった。

それはいつもと何ら変わらない関係のはずなのに、

それはいつかと何ら変わらない信頼のはずなのに、

ーーーー何故だろう。

この時、この朝の。

俺の胸はまるで、何か重苦しいものに酷く締め付けられたような息苦しさを感じていた。

第三話ももう少しこの二人の関係を書けたらなと思います。(恐らく二部構成)

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