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ここは世界、されど異世界  作者: 結城伽耶
第零章「世は並べて事も無し」
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第二話「人望と朝と」②

誤投稿してました。すみません。

イラスト、しばしお待ちください!

「きゃっ」

登校中、ふいに耳ともで聞こえる甲高い声。

「……!」

俺はすぐさま振り向くと、なにやら白夜が軽い段差につまづいて、その艶やかな肢体を硬いコンクリの床に打ちつけそうになっていた。

寸前で踏ん張って転倒は回避したみたいだが、心臓に悪いことこの上ない。

「っえへへ……ちょっと躓いちゃった」

言って、猫の如く変な体制で笑い誤魔化す白夜。

ちょっとって、いやちょっとって。

俺は半ば呆れ返しつつも、一応怪我はないかその目で全身を確認しながら注意しようとするが、

「いや、ちゃんと気をつけて下さいよ……っておい」

「え、なに?…………って……」

さすればあろうことか、腰に纏った防御力の低い布切れがめくれ上がり、最終防壁である攻撃力の高い布切れが顔を覗かせていた。

あれれ?どうなってんのさ物理法則。

幼馴染の前では、そんな摂理ですら無意味なのか……。強すぎるだろ、幼馴染。

「……見た?凛ちゃん」

城を押さえつけながら、主は羞恥で顔を赤くする。よく見れば耳も赤い。俺の頬も赤い。

「え、何が?何も見えてませんけど?ってうわぁ、今日の空はまた一段と青い(・・)なぁ……。な?白夜さ、ん……」

焦りや照れで早口になってしまったけれど、これでなんとか……

「嘘。凛ちゃんの意地悪」

詰みました。はい投了。

どう足掻いても誤魔化しきれません。

というか何で空の話とかしてんの俺。

パニクって完全に引っ張られすぎだろ……。

白夜が涙目で睨んでくるのと対照に俺が顔を手で覆っていると、

「……まぁ、別に良いんだけどさ……」

白夜は諦めたようにちょっとふてくされたて、リスのように頬を膨らませながら許しを口にする。

結局こうやって許してくれるあたり、本当白夜には頭が上がらないんだが。

そもそも俺悪くなくね?うん、悪くないよね。

いや、嘘ついた時点で悪いんですよね……。

とまぁ、そんな幼馴染の好意を知らず己の心で戒めて、僕は白夜に並び歩く。

今晩の夕食は、とびきり甘くなりそうだななんて思いっていた所、目の前のその荘厳な学舎が、辺り一帯の景観に加ったのに気がついた。

さっきの今でこれは驚かれるかもしれないが、朝に弱く、どこか自分勝手の世話焼き気質でドジで世話のかかる幼馴染の白夜も、人前ではちょっと違った顔を持っていたりもする。

というか、元来人なんて性というかなんというか、とにかくまぁ性質として幾つもの仮面(・・)を使い分けるものだ。

しかしなかなかどうして、それを意識して取り替えている人間は殊更に多くはないのではないとも思うけれど、やはり確かな仮面を胸の内に潜ませているのは事実であって。

俺は善と悪のように分かりやすく大雑把で曖昧な表現を用いるつもりはないが、少なくともその仮面に裏と表は存在するのではと往々にして思う。

どちらの面が表で、どちらの面が裏かなんて、これと言った印があるわけでもなく、そこに誰にも分かりやすい認識が存在する道理もない。

そもそも片面が一つしかないという単純な生物でもないが、それでも面は何処かに持ち合わせているのだ。

好きな女子が俺にだけ冷たい、とか嫌いな女子が俺にだけ優しい、とかそもそも好きな女子が俺にだけ無関心、とかフィクションじみた体験談をここで語るつもりはないが、かくいう俺も、己がその手に持った仮面について、そこまで深い理解があるわけでもなかった。

では、ここまで自説を抗弁垂れて結局何が言いたいのかというと、やはりそれは先に述べた通り、白夜は俺に見せる顔と、柄の違う顔を持っているということの一点だったりもする。

まぁ、それはそのうち分かるはずだと、俺は一度思考に区切りをつけてから、スマホで時刻を確認する。

寮を出て約8分、正門を通り抜け、それなりに人目につくあたりまで来た。

まぁ、朝練終わりの生徒もいるし、靴箱付近はそれなりに人がいるだろうなと、俺は白夜からある程度の距離を取る。

白夜がそれについて特に何かを言うこともない。

俺たちはそのまま会話をすることもなく、一年生の靴箱へと到着した。

したがって、人通りも割と多くなってき始めだした頃。

「おはよー望月さんっ」

偶々近くにいたクラスメイトである女子が一人、白夜に挨拶をして駆けていった。

彼女が置き残していったその一言を皮切りに、あれはあれはと、近くに居た数名の生徒達が白夜に気付き始める。

ここで俺は再び、されど今と過去と矛先の違う想いを持って、窓の外に映る雲の形さえもう覚えていない天を、そっと見つめた。

今日も来る、変わらない、否、変わってはいる。

経験がそう告げる。


「望月さんだ!」「望月さんおはよー!」「昨日はよく眠れた?」「今日も士隈くんと一緒なんだねっ」「私今日寝坊しちゃってさー」「おはよっ!金曜日、嬉しすぎだよねー」「あ。も、望月さんおはよう……」「望月じゃん。おは」、エトセトラ。


一年生の靴箱周辺にいる何人かの生徒が、白夜の元へと一斉に寄ってきた。

俺は存在感を殺し、さらに白夜から距離を取る

当たり前だが同じ服を着た、同じでない生徒達。

目の前に広がるのは、もう慣れ切った恒例の光景。

いつ見ても少し怯んでしまうくらいには、ありふれてない勢いだ。

俺なんてこうなってしまった最初の頃は、えぇ……、ごめんだけど多すぎて無理やばくない?みたいな感じで人見知り発病して逃げてたけど、今となっては普通に人嫌いで避けるくらいには慣れてしまった。

というかこれが毎朝なのだから、もはや白夜にだけ挨拶習慣をしているのでは?とさえ思ってしまう。

しかしこの現象は俺だけに留まらず、今となってはこの光景に違和感を感じる生徒は恐らく一年生ではもういないだろう。

きゃっきゃうふふ、かわええまじかわわ……と男女比3対7くらいで群れる同級生たちに、清楚で丁寧に対応する白夜を遠巻きに見て、俺は白夜を鑑みる。

これが、いや、これこそがが望月白夜という人間が持つ外の顔ーーーー人望(・・)の仮面なのだと。

ここで清楚やら聖女やら女神やらと敬称しないのは、けして白夜はそんな創られた、ありもしない仮初の人格ではなくて、俺からしてみれば普段より少し気安さと天然を毒気抜いた程度の印象でしかないからだった。

人望の仮面と、それらを含む呼称の何が違うのかと問われれば、これまた言葉にしづらいのだが、カラクリをぶっちゃけて仕舞えば、白夜は大衆の望むような印象に寄せることを無意識下のうちに行なっている。

ゆえに畢竟、加減に人望を伴っている。

とでも言っておこうか、それ故に作為的でない仮面とでも思ってもらえればいい。

さすれば必然、白夜を知る人はその認識に違いはあれど、限りなく優秀(・・)であるという一印象を抱いているに違いないのだ。

なんせ、特待生(・・・)で入学しているという時点で、そんな気安いレッテルが貼り付けられてしまっている。

一年生の中で人気投票でもしてみれば、今や大差をつけて一位の座に輝くことだろう。

まぁ要は、入学して一年の間で、既に同学年のうちではそういった共通認識が生まれ始めていた。

実際、白夜の優秀さや人望は、それほどまでに同学年では頭一つ抜きん出るものがあるのは間違いないしな。

……とはいえ、まだこれが1年の間で収まっているのがせめてもの救いだったりもするんだが。

あ、因みに。

白夜が朝を苦手としていることは、なんと既にバレている。うん、仕方ないね。だって毎朝遅いんだもの。

俺は白夜の様子を遠目に見た上で、そろそろと怯え足を気づかれぬように動かす。

始業までの少ない時間で他クラスの女子生徒たちと束の間のガールズトークを繰り広げている白夜。

「……先に行く」

その一言だけを虚空に伝え、俺は白夜の返事を聞く間もなくその場から立ち去った。

どのみち、邪魔な俺がここに居たところで何もできることはない。

次話は第零話の一件の整理や副作用などを書けたらと思っています。近日投稿致します。

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