第二話「人望と朝と」① ⭐︎
イラストは表紙みたいな感じだと思ってください。
少しでも今後の楽しみになって貰えると幸いです。
人は忙しない状況下にいると、時の流れを早く感じるらしい。
その言葉を初めて知った時、俺は一つの心理に至った様な気がした。
元来、その形は違えど、マンモス相手に鈍器を振りかざしていた時代から人は働く習性を持っていた訳であって、物理的欲求や精神的欲求を満たすために、仕事に限らず、知らぬどこかで忙しない生き物だったりもする。
その習性は現代社会であれ変わらず同じで、マンモスうれピーなんて言葉で一時の人気を振るったアイドルだっていると聞くくらいだ。
こんなことを言ってしまうと、とゆうか今どきそれ古くない?なんて時をかけるネオギャルに言われてしまいそうだが、現代の流行に疎い俺はそこんとこよく知りませんのでマンモス勘弁。
まぁ、忙しなく流行が移り変わる様に、時代も気づけば20世期を過ぎた。
もしかしたら急速的に発展してきた文明は、神々からしたら一瞬のことなのかも知れないな。
ってゆうかぶっちゃけ時の流れとかなんの話かもよく分からなくなってき始めている俺だが、要は人間と他の生命体との差は、やはりその忙しなさではないと言うことだ。うん、これが言いたかった。
まぁつまり、例えて言うなら、楽しいことは存外あっという間であり、楽しくないことは酷く退屈だったり、みたいな体感時間の話。
これは感慨深く物事を振り返る時、誰しもが感じたことはある常套句だろう。
しかし、殊更に一括りには出来ない時は金なり的な価値観でもないのだが、時の流れというものは、ふとたまに、脈絡もなく、酷く勿体なく感じたりもする。
むしろ人生楽しいことばかりではない現状、逆説的に時を長く感じるのは必然であると言えよう。
勿論、それは良くも悪くもという意味だが。
というか、それを言って仕舞えば俺の人生とか紆余曲折右往左往あって結果暇過ぎて若干のハードモードまであるので、……なにそれ超お得!!と目をらんらんと輝かせて言えないこともない。
しかし残念ながらそれも今となっては遥か昔のことだったりもする。
高校生となった今は、まぁ少なからず俺の値打ちが上がってしまっているのだ。そうか、これが高校生ブランドというやつか……。
などどしみじみ益体もない考えに時間を浪費し続けた結果、そんな法則よろしくあの土曜日から5日あまりが過ぎていた。
当たり前のように日は進み、11月16日、金曜日。
やはりそこには驚くほど何も変わらない俺の日常が待っていて、誰も驚いかないくらいには当たり前な俺が居るだけだった。
今日もせっせと忙しなく陽は昇り、1日の始まりを知らせるかが如く喧しく小鳥が鳴いている。
朝のうちはまだ、秋特有の、もとい最早冬の知らせと言える肌寒さが少し身を震えさせるけれど、ようやくその冷たさにも慣れ始めた頃だ。
まだ寒くない、まだ大丈夫と意地を張って何かと張り合っていれば、冬の厳しさに苛まれ、気づけば風邪をひいていたなんて事もあるかもしれない。
マフラーどこにしまったっけ……。
などど口を手で覆いふぁーっと息を吐く。
そのままひとり考えていると、眼前を一枚の葉っぱがひらひらと舞い落ちていくのに気がついた。
きっと一迅の風に晒されてしまったのだろう。
やがて下りに下り、最後にはただ悲しく地にはってしまった。
落下元の軌跡を辿る様に、俺は傍で高々と立つ天然木を仰ぎ見上げる。
黄色く色をつけた緑葉も、さらに暖かい色になるのはまだ少し遠い季節。これからより一層厳しさを増す季節を超えて、耐え忍んだ上に色をつけるのだ。
それがたとえ、己の力だけではなかったにしても。
きっと美しいに違いないから、その先を俺は見てみたいのかもしれない。
おっと、どうやら時間が来たみたいだ。
さあさあこれから、みんな等しく1日が始まるが
「おはよう。凛ちゃん」
果たしてその少女を前に、俺の1日は遅く始まろうとしていた。
第零章「世は並べて事も無し」
第ニ話「人望と朝と」
女学寮の方から、近づいてきた影。
朝焼けに照らされ暖かく輝く白銀色の髪は、まるで絹で作られているかのように繊細で、彼女自身包み込むかの如くふわりと風に靡いている。
空と同じ色を映す紺碧の双眸は、いつかどこかのサファイアで出来たビー玉を嵌め込んだかのように、煌々と、されど蒼く光りっていた。
言葉通り文字通り、白銀のベールに包まれた肌はしっとりとした淡い肌色で健康的な印象を与え、祖母の形質遺伝による日本人離れしたその容姿は、見るもの全ての目を引き、足を止めさせるほどには完成されている。
そんな置き人形じみた彼女もまた、ある意味で日常へと復帰した人物。
「おはよう、白夜」
望月白夜に、俺は挨拶を返す。
群れる鳥の囀りを耳に、いつか語った俺の自己評価を思い出す。
これは単なる大袈裟かも知れない、少なからず大袈裟でない比喩表現なんだが、自他共に認める鈍色な俺の周りには(当然の如く知り合いは少ないが)、不思議なことに、それぞれ色を抱えたもの達が集っている。
後に紹介するやつもいるが、今ここに居る幼馴染の白夜は、その髪と名に由来する通り、さながら白銀色とでもいう所だ。
「……まぁ、行くか」
言って、合流を果たした俺達は隣を並んで歩き出す。
世界に顔を出した太陽による光で、あたり一帯が意志を持ったかのように色づき始めている。
目立ちたくないが故に、実際の所俺たちは意図的に人通りの少ないルートを選んで通学していた。寮からはやや回り道あたるが、弊害と合わせみればそれも仕方あるまい。
まだ通勤時刻の範疇だというのに、踏み歩く一本道はやけに清々としていて、必然的に自然の音が耳に届けられる。居並ぶ濁った鈍色のコンクリートが、より周囲の音を吸収しているのかもしれない。
互いの息遣いと靴を鳴らす音だけが反響する。
俺はというとその沈黙の間で、もはやその距離感だけしか意識できなかった。
一つ、不意に溜息が落とされる。
俺は1人でに納得し、まぁたいつものやつかとスマホを取り出して見る。
現時刻午前8時10分。登校するには遅めな時間帯だ。
隣を歩く彼女は、申し訳なさそうに手を合わせ、
「凛ちゃん……。ほんとごめんね、今日も遅くなっちゃって」
苦笑と供に、その柔らかそうな唇は開かれた。
実際の所白夜のいう通り、少なくとも早いとは言えない登校だ。
本来の学生なら友達と話したり授業の予習や読書など、その差はあれど時間にゆとりを持って登校するはずであり、その生徒が大半を閉めるだろうに違いないからだ。
そも、我が城址院学園は名門私立校であるため、それこそ真面目な生徒が大半を占めている。
が、しかし。まぁしかし。
既にこの会話から分かる様に、いつも、つまり入学してから半年余り、俺達が朝早くに登校した試しは数えるほどしかなかった。
その文字通り、両の手で数え足りるくらいだ。
良ければ10分前、悪ければチャイム間際。
遅刻したことはないが、遅刻しかけたことしかない。
そんな際どい登校がこの半年間、欠かすことなく続いていた。
えぇ……、何そのスリル満点な朝限定アトラクション、何分待ちですか?とふざけた所で、否、時間は何分と待ってはくれない。
このまま歩いて、見事に間に合う計算だ。
一重にこれには海よりも浅く、山よりも低い至極簡単な理由があった。
「今日も紅ちゃんが朝練に行く前、7時半ぐらいかな?に起こしてくれたんだけど、それから二度寝しちゃってたよ……」
あははーと自重気味に笑いった後、側で分かりやすく肩を落として落ち込む白夜。
そう、ご覧あれ。ご明察。
白夜の手入れの行き届いた癖一つないミドルロングヘア。シワの一線も見当たらない我城址院学園の学生服。
一人暮らしであれば、手入れや支度でそれなりに時間がかかるものだが、そんな理由はもやは関係なく、凄く意外なまでに、
望月白夜は、朝に弱いーーーー。
起きられない、支度に手間取る、総じて朝が弱い。
女子寮は2人部屋が基本である故、白夜には剣道部の紅ちゃんなる朝比奈紅というルームメイトがいるが、そのルームメイトに起こしてもらってなお起ききれないのが望月白夜だった。
俺もこればっかりは、もうどうしようもないことだとは思うが、それでも際の際でいつも遅刻はしないのだから、幼馴染である俺でさえ生態の読めない生き物なのは間違いない。
最近は、むしろ逆にその習性の方が凄く思えてくるまである。やっぱ慣れって怖ぇわ。
っていうか、これが普通なら設定時刻を早めれば良いのでは?とも思うが、どうやらそれはそれで不可能らしい。
……うん、ならもう遅い方が正解っしょ!!
なんて裏の裏は表的思考に至ったりもする。
まぁ、そうは言えど。
俺達は可能な日は必ずこうして一緒に登校してきた。
ただの幼馴染で不思議に思うかもしれないが、これは俺達のルールであり、当たり前のこと。
いわば、歯を磨くような習慣みたいなものだ。
白夜の歩く速さに合わせることも、気づけば特に意識してする必要も無くなっていた。
「……まぁ。別に、いつものことだろ」
本当に気にしないでいい、と微笑を持って一言付け加える。
「……もう、そのいつもじゃいけないんだよ」
ただ、それでも白夜は俺に対してそのことを申し訳なく感じているみたいだった。
というかもう半年経ってるんだけどね?なんなら高校以前を含めたらもっと長いまであるが、まぁ本人曰く直そうとはしているらしいので俺からはこれ以上なんとも言えないんだよなぁ。あくまでもらしいなので、そこんとはころはよく知らんが。
うーんと小さく唸り隣で眉尻を下げる白夜は、どこか幼い可愛さを纏っていて。
一瞬黙したゆえか、その白くくぐもった吐息が、やけに甘く俺の耳を反芻する。
不意にもうしまったはずの、幼い頃の白夜がフラッシュバックする。
まだ他人だった、あの日々が、色をつけて思い起こされた。
肩を落とす白夜とは対照的に、俺は天を仰ぎ見る。
綿のように軽く、まるではしゃいだ子供のように疎らに泳ぐ雲達が、なぜか今は酷く懐かしく感じられた。
が、それは思い出しても仕方のないことと、開きかけた記憶に蓋をする。
俺は顔を隠すように、指先で前髪を整えた。
寮からの裏通学路の一つだからか、不快ではない閑静が数十秒ほど続いた所で、
「あ、凛ちゃん。私、今日は部活休みなんだ〜」
唐突に、明るい雰囲気を纏ってそんなことを言い出す白夜。
朝が遅いなんてのは割と本当にいつものだし、本人もそう落ち込んだ様子で言ってはいるが、実際そこまで凹んでいるなんてことはないのかも知れない。
それに、思い出しかけた思い出も思いも今に関係はないんだ。
白夜の頼もしい切り替えの速さに乗っかるようにして、俺は問い返す。
「ほーん……、って確か、陸上部って大会が近いんじゃ……」
「うん、そうだよ。あと1ヶ月もないかな〜」
指折り何日か数得て、期待と楽しみが入り混じった様子で思い馳せる白夜。
「え?それでほんとに部活ないの?追い込み練習は?」
ほら、どの部活でも普段さぼってばっかなのに大会前になると急にやる気出して怒り散らかす先輩とかコーチいるじゃん。うん、そうそうソイツ。あれ、下の者からしてみればあれ相当面倒くさいよな。わかるー。すげー分かるー。
などど部活動未経験者が妄想あるあるを心のうちで宣っていると、何かを悟ったように白夜は呆れたような表情を浮かべた。
「凛ちゃん……、何か今、物凄く見当違いなことを考えているみたいだけど。……まぁ実際のところ、そこまでハードって感じでもないんだよ」
あんれー違いますかそうですか。バレてる上に否定されちゃったよ。
「実際それもあってここ最近毎日忙しかったし、最後の休み?みたいな感じかな〜」
「そんなもんか」
「うん、そんな所だよ」
お互い適当な相槌を交わすと、部長は彼氏とデートするんだって〜、と白夜は頬を緩めてニマニマ想像していた。
そんな乙女丸出しな白夜を尻目に、ほーん、なるほど。案外そんなものかね。などとふむふむ片隅に記憶していると。
「凛ちゃんは?」
視線を合わせるように白夜は前に出て、振り返りざまに問いかけてくる。
「いつも通り」
ここで言ういつも通りは、いつも一人で名の通っている俺、という意味である。えぇ……なにそれ悲し過ぎるんだけど。そも、その名が通るほど広く知られていないという前提付きだが。
とゆうか、どうにも白夜は分かってて聞いている節があるので、俺は努めて素っ気なく答えたつもりだった。
「……そっか。……いつも通り、か」
それなのに白夜はどこか嬉しそうに顔を伏せ、小声で俺の言葉を繰り返す。
「え、……なに?」
問うと、白夜はあざと過ぎない上目遣いで口を開らく。
「……凛ちゃん」
俺は顔を覗き込んでくる白夜を正面から見つめ返し、必然白夜が立ち止まっているので同じく足を止める。
「……ねぇ、分からない?」
「分からない」
「少しも?」
「ああ」
俺の返事を境に、互いに黙り込んだ。
空に映る朝日だけが見守る、そんなもどかしくもある無言の攻防ののち、
「……それがどうかしたのか?」
俺が降参だと諦めたように聞くと、白夜はむすっとした顔を寄せてきた。
「だから、今日は私、早く帰れるんだよ?」
「ん?分かってるけど……」
いや、本当にそれは分かってるんだけど、どうにも話が堂々巡りしてないか?ついでに俺の思考もめぐっている。
まじで全く分からん……。と俺はお手上げを示すポーズを取った。
再度しばしの沈黙の後、白夜は軽くため息をついてそっぽを向いて、その尖らせた口を開いた。
「……もう、一緒に帰ろうよってこと」
そのまま歩みを止めず、つんとした様子で再び並び歩く。
察せよ、と言わんばかりに白夜の機嫌を損ねてしまった。うーん、どこかに幼馴染の取扱説明書売ってない?
「あ、あぁ。てっきり友達と遊ぶものだと……」
俺は慌ててフォローを入れるが、間に合ったかどうかは今ひとつ。
むしろ今更だか考え直してみると、俺たちの『いつも』には共に帰宅することも含まれていたりもするのだった。
まぁ、なにぶん白夜も白夜で忙しいしな。うん、けして失念してた訳ではない。
「そりゃあお友達とも遊ぶけど、今日は凛ちゃんと帰ろうかなって」
「え……、なんで?」
言いつつ俺は既に理解しているが、それでもなぜか、この時は聞いてみたくなったのだ。
「……幼馴染だから?かな」
そんな意味のない問いに白夜は少し困った様に頬を描き、照れくさい様子で少しはにかむだけだった。
期待、なんで誤解をされたくないが、しかし答えは白夜の言う通りでしかなくて、むしろその答え以外は間違っているとさえ俺も思う。
結局、在り方なんてはなから決まっているのだ。
俺も、白夜も、きっと誰もが。
「……さいですか」
俺は口の中だけでそう呟いてから、その思考もろとも飲み込んだ。
基本的に俺の放課後は自宅へ直行でスマートすぎる生活を送っているが、そのことを気にしてくれたのだろな。甲斐性があるというかなんというか、全く、幼馴染も簡単じゃない。
「えっと、その後どうすんの?」
問うと、白夜は顎に指を当ててうーんとかむーんとか頭を悩ませて、あ!と思い……出したような閃きを持って口を開く。そして綴る。
「凛ちゃんいつもインスタント食品ばっかりだし、今日はご飯作ってあげるね!」
一輪の花のような、ふわりとした笑み見せる白夜。
ここ最近は割とあれこれ忙しくて忘れていたが、白夜はこうしてたまに料理を振る舞ってくれているのだ。
勿論高校で一人暮らしを互いにするようになってからのことだか、まぁ、それは本当に都合が合う時だけのことだ。差して特別なことじゃあない。
「ほーん、……で、何を作るんだ?」
俺的にはハンバーグ……、カレー?……いや、魚料理もありだな……。なんて考えていると。
「それも含めて、放課後スーパーに寄る時に考えようよ」
どうやら保留にされてしまった。
まぁ、放課後までに候補を決めとくか……。
「了解」
言って、俺は先に見られる苦労に思いを寄せた。
第二話は全体で2.3話になると思います。
あと、これからもイラストを上げていこうと考えているので、良ければ評価やブクマ、宜しくお願いします。