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ここは世界、されど異世界  作者: 結城伽耶
第零章「世は並べて事も無し」
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第一話「退屈と赤林檎と」③

明日の分を先に出そうかと思います。

代わりに明日は、

ちょっとした裏を投稿しますので……。

曰く、俺に言われて公園を離れた白夜。

自分に何が出来るのか白夜なりに考えた結果か、俺を心配してか、白夜は再び公園に戻ってきた。

なんで帰らなかったんだと聞いた時には思ったが、白夜が公園に到着した頃には、事は全て終わっていて、そこにはただ、傷ついた三匹の猫と気を失い倒れ伏した俺だけが取り残されていたらしい。

その猫達は無事、駆けつけた警察官に保護され、今朝、電話口で『無事でした』との一言に加えあとは全て任せて欲しいと言われ、そう力強く言うなら大丈夫だろうと直接猫達の姿や容態までは確認してはいないものの、おそらく問題はないだろうとの結論に至った。

対するその夜の俺はというと、日も落ちきっていて時間も時間なのでという事で、大人しく自室に運ばれていた。

俺が眠りこけっている間に、この寮の管理人さんが手当てをしてくれたのだろう。その手際は見事なもので、警察官が舌を巻く完璧な応急処置だったらしい。

よく怪我して戻ってきた運動部員を手当てしてあげてたんだろうな。うん、長年の経験が伺える手腕だ。

見つかったおかげ様でそれから悪化を辿る事もなく、時は半日ほど流れ、強く陽の照る昼前の今に至る。

午前中にはかかりつけの保険教諭が来てくれて、ちゃんと診察もしてもらった。まるで至れり尽くせり、いや、そもそも至れず尽くさないのが一番なんだが。

こめかみの辺りを押さえながらその教諭が言うには、身体中に擦り傷、右手右腕の打撲、左股関節の捻挫、全てひっくるめて完治するのは1ヶ月以上はかかるとかなんとか。納得の結末である。

まぁ骨折とか靭帯損傷とかしてないだけマシな方だとは思うしら、どうやら3日もすれば動けるようになるらとかなんとか。

まぁ昔から怪我の治りは早い方だったので特に心配はしていない。と自らを洗脳済みだ。やったね。

しかしその時は本当に、それで猫が三匹とも助かったのならと、以外にも俺の心は穏やかだったのは事実だ。今頃は動物保護センターに連れられている頃だろう。

不良達はまだ見つかっていないと言っていたが、それも時間の問題だろう。

一仕事終えた俺は、重く息を吐き捨てる。

ざっと振り返るならば、おおよそこんなところ。

どっと疲れを振り落とす様に、ベットの縁へと背を預けた。

口の端から漏れた苦い嘆息と、ぎしとパイプの軋む音だけが虚空取り残され、やがて何処かへ消え去っていく。

疲労というものは案外尾を引くものであると今更に思うわけだが、俺にしてみればそれは疲労をしたことよりも疲労をする原因の方が巡り巡って回りに回って応報してくるのではないかとさえ感じる。

結果良ければ全て良し、なんて使い古された言葉だが、実際最終的な結果が良ければそれまでの苦労も報われるし、背負った傷も負傷から勲章となって、振り返りたくない過去さえすぐに前向きな未来に塗りつぶされるに違いない。

故に、故に俺にとってそれは、さして心変わらない、普通ならばの話だった。

今、慌ただしい事件を振り返った俺が考えているのは、曖昧模糊とした偶像で、されど分かりきったもっと先のこと。

現像として脳に浮かぶのは俺自身の未来。

このまま当たり前のように怪我が完治して、そのうち学校に復帰し、またいつも通りの俺、いつも通りの日々に戻る。

そこに待つのは、何ら変わることのない平穏だ。

今までも、恐らくこれからもその平穏は俺の生活輪廻であり、俺を縛る呪縛でもあるその日常は、必ず訪れ続ける。


きっと今の俺は退屈(・・)なんだろう。


口に出したかも分からない程に、小さい、ただ一つの心緒が頭を馳せる。

無理に未来を描いた所で、そもそも今の心境に感情を乗せることができない以上、それは泡となって弾けるだけ。

何にでもなく、紛れもない平凡な自分に退屈だと感じている証拠だ。

結局の所、穏やかではあるが、ただそれだけに過ぎなかった。

けどまぁ、これは俺が望んだ故の結果であり、退屈だからといってこれといった不満があるわけでもない。

少しばかりカッコつけたシリアスめな自分語りでさえ、今の俺には丁度良いと感じるくらいだ。

なにも悪いことばかりではいのだ、本当に。

だから、今度は話を変えよう。

流れのついでに、昨夜について一つ思い出したことがある。

いや、それは正確ではない言い方だ。

少し言葉を事実に沿わせるならば、思い出したというより、思い出してしまった。

そんなところだろう。

不良達から逃げることを決意し、帰ろうと白夜に告げた時のことだ。

残酷な決断を白夜に迫りたくなくて、そのせいで負い目を感じて欲しくなくて、俺は確かにそう言った。

自分への後悔と自責の念とがぐちゃぐちゃに混ざり合って、自分の表情すら分からないくらいに追い詰められていた。

そう、ちょうど今。

無意識に林檎に手を伸ばし、その皿が空になっていることに気づいたように、

退屈を紛らわすためにただひたすら林檎を求め続けた結果、そこにもう林檎はないようにーーーー。

まっさら(・・・・)になってただ一つ、確かに分かることがあった。 

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