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ここは世界、されど異世界  作者: 結城伽耶
第零章「世は並べて事も無し」
3/11

第一話「退屈と赤林檎と」②

シリアスすぎてもつまらないですよね(笑)。

まぁ、いくら周囲に気に触るとはいえ、現状、なにも全員が全員同類というわけではない。

高校生にもなった今なら、大半が分別も弁えている年頃であり、あの頃と比べると、それは如実に堅実に着実に、あるいは尚更だった。

そんなたかが知れた極めて(・・・)平凡な俺が幼馴染に持つ望月白夜(・・・・)の事たが、大方予想はつくかもしれないけれど、どうかその紹介は後々に回させて欲しい。

流れってものがあるしな。なんせ周囲の反応と見合わせたほうが断然分かりやすい。

なんて、ただ連想してしまった不快な感情を断ち切りたいだけだというのに、どこかの誰かに向かって苦しい言い訳をする。

己を知るための自分語りが転じて良くない方向へ向かいそうだったので、そこで俺は無理やり断ち切ることにした。

まぁ幼馴染である白夜は俺の生活においてかなり深く浸食しているから、これといって説明の機会には困らないはずだ。

俺はその林檎を必要以上に咀嚼し、ゆっくりと飲み込む。

なら学校の話でもと、思考をすり替えた。

これは余談かもしれないが、俺も白夜も家庭の事情より現在私立城址院学園の学生寮に住んでいる。

なにも全寮制の学校という訳ではないのだが、こと城址院学園においては寮生の占める割合の方が高い。

それは日本随一の私立校という物珍しさもあるのたが校舎との距離やセキュリティなどの室内設備、おまけに料金など諸々のサービス付きという現金な側面も少なくないと思われる。

つまるとこそんな人気も納得の理由に、俺も白夜もあやかっていた。

今朝のことだが、男子寮内でも軽く全生徒の4割くらいは収納できる広さがあるわけで、当然収納される人数も多いわけで。部屋に入れている所を誰かに見られると悪目立ちすることは想像に難くなく、くだんについて説明する必要もないというかしたくもなかったので無理言って朝一番に白夜に来てもらった。

物凄く眠そうだった白夜は、色々考えることが重なってか、目の下に淀んだクマができていた。

そんな不健康具合を心配する生徒は多いだろうが、まぁ、そこは猫を助けたことを説明してくれても構わないし、なにぶんそれ以上の余計な詮索はされないと踏んでいる。

また、幼馴染の俺が同じタイミングで数日間学校を休んだ所で、現場は誰にも見られていない筈なので大丈夫だ。

もとより比較的俺の影が薄いおかげで何かあったと気づく人はそうは居ないと思うので、然程心配することでもないとここでは結論づけた。

幼馴染、ということも、別に公表しているわけでもない。

今の俺の心情としては、さして行きたいわけでもない学校をサボる背徳感と、なにもしたくない虚無感とシンプルな痛みがごちゃ混ぜになったユッケジャンビビンバみたいになっていた。

俺はしゃりしゃり林檎を頬張って、ごくりと喉を通す。

では、少し話はそれてしまったが、そんな長々しい自分語りもとい自己分析もといキャラ紹介を踏まえて、昨日の一件についての話を続けよう。

まず、同じ学生寮で暮らす白夜に自室に来てもらった後、俺は事の顛末を直接に聞いた。

白夜の無事は電話口で確認してたので、それ以外でまず真っ先に気になったのは、やはりあの空白の時間に他ならなかった。

俺自身、事実として自分が怪我を負ってるにも関わらずその記憶が無いに等しいなんて、ほんと馬鹿げ話だと自分でも思うが、

『きっとボコられすぎて記憶が飛んだに違いない』

白夜に賛称混じりにそう言われた時は、割と全身の痛みが消え去って気にならなくなったような気もした。

が、まぁそれも束の間のことだったし、心が反比例して何倍も痛くなったのはここだけの話だ。

本気で割と、冗談抜きでその時はうすら笑う気力さえなかった。

というか今どきのプロボクサーやヤンキーでもそこまですることは少ないだろうに。あの狂った不良達、ちょっと酷すぎるんですよね。さては碌な人生送ってないな。知らんけど。

と言ってる側から、気を抜くと疼く絶え間ない痛みがちらちらと顔を覗かせる。

ミイラかと思うくらいぐるぐるに巻かれた包帯で、まるでアスパラベーコン男子(違うそうじゃない)かの様にベットに腰掛けている俺。

見ての通り、示す通り、通りに通り抜けるその感覚は、けして良いものとは言えなかった。

その請け負った傷はくしくも俺の弱さを証明しいる。

やがて痛みが暗示し、しかと連想させた言葉。

カッコつけた言い方をするつもりはないが、明らかな敗北という2文字だ。

どんな心境か不良に声を張り上げて、どんな勝率か不良に立ち向かって、どんな状況か不良にのされてしまったさた俺に、もはやこれ以上何かを聞く必要はあるのかとも思ったが、でもだからこそ、俺は聞かない訳にはいかなかった。

それがたとえ俺の力及ばずで、あの猫が死んでいたとしても、俺は聞く必要があった。

俺はまた一つ、林檎を口へと運ぶ。

その上で、白夜から聞いた話と俺の覚えている範囲での記憶を整理する。

昨日の午後、狂気を纏い三匹の猫を嬲っていた、同じく三人の不良に遭遇した俺と白夜。

その不良達は、俺達に気づかないくらい遊ぶのが楽しくて仕方がないようだった。

その時既に猫は瀕死の状態で、所々に赤い模様が見えていた。

俺は念のため、白夜は一人で家に帰ってもらった後、

叫びその不良達の暴行を止めに入る。

と、そこで俺の追憶は終ることになる。

やはり現実は何よりも正直であり、力なき者に危機的な力が宿ることはない。

ほんと筋トレでもしとけば良かったなと、今になって後悔するのはもう遅い。助けて……お願いマッスル。

そも、その惰性さえも怠慢だとも思うのだが、果たして一体誰が予想できると言うのだろうか。

猫がいじめられている現場にうっかり出くわすことも、自分がそれを止めに入ることも全て。

まぁ今回の件を通して、いかに自分は平凡なんだと自覚するいい機会となったとだけは言っておこう。

さらに続けて一つ、俺は林檎を手に取る。


ここから先は、白夜自身の記憶になる。

明日も投稿するのでよろしくお願いします。

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