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ここは世界、されど異世界  作者: 結城伽耶
第零章「世は並べて事も無し」
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第一話「退屈と赤林檎と」①

第一話「赤林檎と退屈と」は第3部くらいに渡ると思います。

次に目を開けば、そこには見慣れた天井があった。


あの後白夜を一人で家に帰らせて、男達に向かって叫んだ所までは覚えている。

しかし、それ以降の事は薄靄がかかったようにぼやけて思い出すことができない。

どうやって家に帰ったのか、白夜は無事に帰れただろうか、それと、あの猫達は……


第零章「世は並べて事も無し」

第一話「退屈と赤林檎と」


烏が円を描いて空を舞う、平日の真昼間。

俺は自室のベッドの上にいる。

顛末を、経緯を、考察混じりに振り返る。


『やめろ!』


あの時、確かに俺はそう叫んだ筈だ。

それこそ、悪魔のようなあの男達に向かって轟々と、されど僅かながらに意思を持って。

しかしながら、それを許容するには些かの疑問が残る。

あの時の俺は、ネガティブキャンペーンとか関係なく、しかと考えた上で逃げを選択した。

にも関わらず、どうしてその様な矛盾した行動を取ったのか。

それを理解しようものなら、手始めとしてまずは己を知らなければなるまい。

飄々ながら少し、自分語りでもすることした。

生い立ちは若干省かせてもらうとして、俺という男ーーーー士隈凛は、ただの16歳にして城址院学園の一年生。言わば、男子高校生という職種にカテゴライズされる。

これといって特筆した才能もなければ、何か特別な異能を預かっているわけでもないただの高校生。

可もなく不可もなく、また何も無く。

加えて意気地も無ければ、自分自身に興味もないような、俗に言う極ありふれた平凡的な16歳。

気になる気にならないを抜きにして、俺が初対面の相手に言い表される印象は決まっていつも一つだった。


根暗。隠キャ。人見知り。存在感が薄い。何を考えがえているのか分からない。


など、ある理由から人嫌いな性格故か、偏見も正見も踏まえたダウナーな言葉の代表格達。

世間一般的にそれが褒め言葉でないことは、16年生きていて充分に理解しいた。しっかり不可あったね!

まぁその中で唯一、顔だけはまともだと言われたことはあるけれど、鏡を見るにそこらのイケメン俳優の方が全然格好いいし、広く見ればそこまで珍しくもない顔の部類に含まれる筈だ。

もっと顔が良かったら、俺の人生もまた何かが違っていたのかもしれないが、とはいえそれは今更なんだという話であって、特にそのことで親を恨むわけでもなかった。

というかむしろ俺は感謝しかしていないまであった。

蒸し返したくないが思い返してしまう子の散々な我儘を、また散々な程に聞いてくれていたからだ。

いやーあれは流石にないよなぁ。あ、でも結果的には仕方ない?とか色々彩られた心覚えはあるけれど、要は、結局。

なんだかんだ嘆いた所で、今の俺は俺自身のせいでしか無いというわけであって、誰かのせいにしてたまるかという意地でしかなかった。

それこそあれば儲け物な運動神経だって、どんな種目であれ輝くやつの影になれれば上出来程度のやり過ごし方だったし、学業の成績に至っては中の中のまた中、驚くまでに毎度のこと平均点と肩を並べている高校一年の11月10日の現状だ。

平均という言葉に関してはその実成績だけではなくて、何勝手に隣にいてはるん?なんてここは一つ己の非凡さに愚痴でも言いたい所だが、生憎俺から足並み揃えてしまっている以上、寧ろその平均を上げて少しでも上げてやれずにすまないといった罪悪感じみた後ろめたさを感じ始めているこれまた高校一年の11月10日の現状だ。末期かな?うん、末期だね。

平凡症候群たる症例を知っているならば是非とも教えてもらいたい。至急で。

ともあれ、結局は周囲と比べて、とかではなく、身の丈を比べて、とかでもなく、つまるところの自分自身が比べるまでもない自分自身のことをどう思っているのかということが重要だと思っている。

が、しかし。悲しいかな、客観的に見た俺の影が薄い平凡たる印象は、さしてそれ程そこまで、自己評価と変わりはしなかった。

何度でもいうが、そんな極めて平凡な俺を軽く語り終えた今にして思うと、昨夜の行動原理には幾つかの疑問が残っている。

わざわざ叫んだことからも十中八九、俺に注意を向けさせて猫を助けようと思ったのだろうが、果たして俺にそこまでする勇気があるのだろうか。

「……いや、ないな」

重く沈澱した鉛を吐き出すように、ひとりそう呟く。

なにせ俺はあの時、猫たちを見捨てようとしたのだ。

見て見ぬ振りをして、逃げて、それでも目を逸らさずに、逃げようとその足を動かした。

そんな自分だからこそ、そんな自分でしかないからこそ、自分の情けなさは痛いほど分かっている。

俺自身、それはいまいち腑に落ちない行動だったと、なにせ今の俺が思っているからこそ、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー誰だ?


何度考えても、そう認識してしまう。

不確定で不明瞭な感情が、ひそひそと胸の内を巣食っている感覚だけがあった。

俺は一度思考を切り捨てるように息を吐き捨てる。

まぁ、以降の記憶が途絶えているのでその辺りの決定的な動機も思い出せないが……。

どうやら俺も、やる時はやる男らしい。

答えの見えない思考を取り止め、過去の自分の蛮勇とも呼ぶべき勇ましさに俺は少し誇らしげに笑らった。

「って…」

が、ひび割れた口角の傷がさらに広がったことで、僅かな痛みが唐突に走り抜けた。

あぁ、やはりこの傷が示す通り、蛮勇の愚行とも取れる結末は残酷で。

スーパーヒーローでも英雄でも何でもない俺が男3人を相手取って無傷で済むわけもなく、見事にまんまと返り討ちに遭てしまった。

それも、あり得ないくらいボコボコにされた。

記憶がない分、生々しくてより怖い。

正直、今も身体中が痛くて痛くて仕方がないくらいだ。それこそ今朝の時点では、登校なんてまともじゃないけど不可能だった。

だから今日は学校を休んで自宅療養中であるが、

「はぁ……、情けな」

まるで何かを見限ったような落胆ついでに、ベットの脇に置いてある林檎を一つ摘みそのまま口に放り込んだ。

これは今朝、朝の通学前にお見舞いに来た白夜が剥いてくれたもの。

望月白夜、昨日久しぶりに外食に出かけた、俺の幼馴染みが用意してくれた。

ん?……幼馴染?

人嫌いで隠の者で平凡たる俺にその様な存在がいると知った者は、例外なく皆、関係の詳細を聞いてくる。

面倒くさいことこの上ないが、周囲の気になるといった探究心には、一つの()としてその幼馴染の立場的存在が一枚噛んでいたりもする。

ふと、林檎を噛み砕く歯に力が入る。

唇を噛み千切らんとばかりに、歯に力が入る。


奴らは自分勝手だ。


何かを期待して、何かを不安がって、聞くだけ聞いて挙げ句の果てには口を揃えてこういうのだ。

ーーーー『何でお前が』と。

知らねぇよ、訳わかんねぇんだよ。うぜぇよ。

こんな風に思っていても、俺にブチ切れて突っぱねるだけの度胸と勇気はなくて、生憎先に述べた通りに俺が一番(・・・・)納得してしまっていた。

そんな現状の、高校一年、いや……、ただの、何でもない。

ちぐはぐで途切れ途切れの、人嫌いな士隈凛がそこにいるだけだったーーーー。

その内イラストも投稿する予定なのでどうぞ宜しくお願いします。

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