戦闘準備……4
「今より、武器の使用を禁じ、組手を開始してもらう! はじめッ!」
静夜は両者に対して、武器の使用を禁止する事で、殺し合いではなく、あくまでも組手として、二人の戦いを眺めていく。
夜島が構えを取り、ゆっくりと爪先に力を入れる。
夜夢が動いた一瞬で、勝負を決めようと考えていた夜島の両手、両指先に力が入る。
夜島のそれに対して夜夢は、微動だにせず、夜島の動きを窺う。
両者の沈黙が続く……数十秒、一分、二分、構えも取らず、動こうともしない夜夢に対して、夜島が苛立ちを表情に出し始めた瞬間だった。
夜夢の口元が微笑みを浮かべた、それを見た夜島は、僅かに距離を見誤り、爪先半分の距離を縮めるように前に出てしまう。
それは一瞬の事であった、夜夢の長くスラッとした足が大きく前に踏み出され、夜島までの距離を一気に縮める。
更に手刀が凄まじい勢いで夜島の顔面に向けて真横から襲い掛かる。
咄嗟に防御をするように手を顔面の横にあげる夜島。
しかし、夜夢の手は、夜島の頬に当たる事も、防御に出した手を掠める事もない。
回転するようにして、夜夢の手が夜島の目の前を空振りした瞬間、夜島の脇腹に強烈な激痛が走る。
「ぐぁ……かは!」
夜島の足から、僅かに力が抜けた瞬間、夜夢が距離を取るように下がり、再度、微動だにしない体勢に戻る。
脇腹を押さえる夜島は、怒りを露にするが、夜夢の一撃は重く、動けないままに立ち尽くす。
組手と言うには余りに異様な光景と言える。
夜島が動けるようになったのを確認するように、夜夢がゆっくりと歩き出す。
予想外の動きをする夜夢に対して、警戒する夜島は、片足を後ろに引き、身構える。
「おかしいですね、夜島。貴方の方が本当に夜島か疑いたくなります。相手の動きに合わせて、身構えるなんて、昔の貴方なら、しなかった……弱くなった、と言わざるおえない」
そう語ると夜夢は、夜島への歩みを更に進める。
「黙れ、黙れ! 貴様を夜夢であると、認める訳にはいかぬッ! ハアッ!」
夜島が力強く拳を構える、両者の間合いに入った瞬間、夜夢が手を前に伸ばす。
その動きを見た瞬間、夜島が拳を打ち放つ。
「ハァッ!」
「だから、貴方はまだまだ、だと言うんです……夜島、残念だ」
夜島の拳を夜夢の細腕が内側から押し上げるように弾くと、片方の腕を開く夜夢。
開かれた掌が夜島の心臓に当てられる。
「勝負ありだ、お前は今、心臓を取られた……戦場なら、即死だ……」
夜夢の言葉に夜島の動きが止まり、静夜が声を発する。
「それまで!」
圧倒的な実力差を見せつけられた夜島、しかし、静夜はそんな夜島に対して、優しく声を掛ける。
「夜島よ、大義であった。あの緊迫した空気の中でよくぞ戦った」
夜島は、静夜の前に移動すると両膝をつき、頭を深く下げた。
「大変、申し訳ございませんでした」
「よい、夜島よ。話し合いを開始する、頭をあげて、座るがよい」