戦闘準備……2
百仮達が朝方に旅立って直ぐ、氷雨と大牙は紅琉奈を人化させると、今後について、語り出す。
風国の参戦は五分五分であろう事を予想する氷雨は、雷国に攻めいる際にどう敵が動くかを推測していく。
夜国の内部でも推測を立てるが、長く鎖国状態であった雷国と夜国で情報以上のそれはなく、すべてが推測の域をでない物ばかりであった。
氷雨と大牙が話を進める最中、突如として、紅琉奈が影のある笑みを浮かべた。
「大牙、同族が生まれるぞ」
紅琉奈の予期せぬ言葉に、氷雨と大牙が驚く、しかし、次の瞬間──大牙の腕が輝き出す。
「うわぁぁ──熱い、腕が熱い!」
悶絶するように、苦しみ出す大牙、そんな大牙の腕に刻まれた【夜夢】の文字が真っ赤に輝いていく。
そして、大牙の腕から熱が無くなると同時に、氷雨と大牙の前に夜夢であろう女性が姿を現す。
しかし、その姿は大牙達がしる夜夢とは違っていた。
肌は青紫色になっており、八重歯が伸び、牙を生やしたようにすら見える。
髪も鮮やかな青になっており、見えていなかった瞳は、真っ赤な瞳が輝いている。
その姿から、夜夢を更に異形の者として印象づける結果となった。
夜夢であろう、美しくも面妖な青紫の肌をした女性は、生まれたままの姿で大牙に微笑むと、ゆっくりとしゃがみ、大牙に抱擁する。
「あわ、や、夜夢さん!」
慌てる大牙に対して、異形の姿になった夜夢が声を言葉にして耳元で囁く。
「大牙、私は変わった、すべてが大牙の為に……」
口調すら変化している夜夢に驚くが、その艶っぽい言葉遣いに大牙の頬が紅く染まる。
そんな光景に、紅琉奈が口を挟む。
「夜夢よ、大牙が困っておる、姉妹となったのだから、大牙を困らせるのは、姉として心苦しいのでな」
紅琉奈の言葉に、夜夢が頷き、大牙の背中に回した腕を放す。
夜夢が紅琉奈の方に歩み寄り、二人が並ぶ、大牙の前に正座をすると二人同時に改めて頭を下げて見せる。
「「改めて、私達は姉妹となりました。大牙の為に、命を捧げると誓う」」
まるで示し会わせたように言葉を発する二人の姿に大牙と紅琉奈が呆気に取られる。
しかし、直ぐに氷雨が夜夢に対して、質問する。
「な、何故、そんな姿なのだ? それに紅琉奈と姉妹とはどういうことだ……話してくれ、夜夢よ」
氷雨に視線を向けると夜夢が軽く会釈をする。
「挨拶が遅れてしまいました。氷雨様、申し訳ございません」
軽い挨拶の言葉から氷雨の質問への返答が開始される。
夜夢が紅琉奈を姉妹とする理由は、夜夢という人間の肉体が死んでしまっている為、大牙の体内で、紅琉奈の力により、新たな肉体を手にし、その新たな器に夜夢の魂が入った為であった。
その際に、紅琉奈の思いが夜夢の魂に融合し、大牙への思いに変化していた。
今の夜夢は、紅琉奈の感情が融合した存在であり、大牙を愛し、大牙の為に戦いたいとすら、感じる存在になっていたのだ。
その事実に、氷雨は複雑な表情を浮かべながら、大牙に視線を向ける。
氷雨は大牙の意図しない流れの中で、夜夢が紅琉奈と同様に大牙に従う存在になった事実に不安を感じていたのだ。
大牙が、大量の人材を体内に取り込む事が可能になったと仮定する氷雨、そうなれば、夜夢のような存在が無限に現れ、大牙に意を唱える存在に襲い掛かるのではないかと、考えていた。
しかし、すべては推測であり、本来死んでいた筈の夜夢の復活に氷雨は素直に喜ぶ事を決めたのだ。
「しかし、その姿は目立つなぁ、なんとかならぬのか?」
氷雨の言葉に、夜夢が自身の姿を軽く見回すと、紅琉奈の力であろう、肌の色を本来の夜夢であった頃の色に変化させたのだ。
「大牙、私は復活したばかりですが、頑張ります。これからも宜しくお願いします」
そう語り、微笑む夜夢は、静かに立ち上がると、天井に向けて微笑んで見せる。
天井に微かな、ざわめきが生まれ、それは気配を消す。
「間者ですかね……余程、裏切りを警戒されているのでしょうが」
そう語ると夜夢は再度、その場に座る。
形はどうあれ、大牙は新たな力を手にしたのである。




