夜国の梟と巨城の王……5
百仮達が腰掛けたと同時に、男が挨拶をする。
「大変に愚かな姿を晒してしまい、申し訳ない。挨拶が遅れたが、世が夜国の王、静夜である。皆、宜しくたのむぞ」
夜王──静夜はそう言うとゆっくりと笑ったように明るい声で語り出す。
「本来ならば、世の城にて出迎えるのが、一番の歓迎の証であったが、皆が赦さず、夜島の城を借りての出迎えとなった。外での騒ぎも含め、度重なる失礼を謝罪しよう」
夜王の言葉に百仮が慌てて口を開く。
「いえ、謝られる必要はありません。王を守ろうとする家臣を誰が咎めましょう……実に立派、と、感じます」
百仮は夜王が形式にも謝罪しようとする動きを止める。
頭を家臣の前で下げる事実の重さを知るからこそ、百仮はそれをさせまいと、話を割ったのだ。
もしも、夜王が形式であっても、頭を下げ、謝罪をすれば、夜国内部で何が起こるかは予想が出来る、従っている者の中に野心家がいれば、王が弱さを見せた瞬間に牙を向き、爪を喉元に突き付けるだろう。
「して……本題に入りましょう、夜王陛下……此度の一件、失敗すれば、夜国は滅亡を免れぬだろう、本気か否か、皆の前で今一度、話して頂きたい」
百仮の発言に静夜は自身の顔が皆に見える位置に移動すると、室内を照らすように指示を出す。
室内に置かれたランプに火が灯され、無数の炎が輝き、大広間を照らし出す。
屈強な家臣達の顔が露になる最中、夜王──静夜の顔が完全に明らかになる。
優しそうな青年、若いと言うには幼さすら感じさせる顔立ちと清々しいまでに凛とした表情を浮かべている。
先程、夜島を一喝した声を出した人物であるなど、その場に居合わせなければ到底信じられないだろう。
「顔を見せたのは、今より皆が仲間であると信じるからに他ならない。世は心より皆を歓迎する」
軽い挨拶が終わると、本題と呼ばれていた会話が始まる。
氷雨や、大牙からすれば、夜国に逃亡し、時期を見計らい、水国に帰還を考えていた。
しかし、その場で語られた計画は、氷雨、百姫を含む皆が驚愕する物であった。
「世は、夜国の未来の為に、雷国を伐つつもりだ。雷国は平和になろうとしている六国の未来を刈り取りに掛かっている」
雷国を伐つ──その言葉の意味を理解するも、現実にそれを行おうとする者がいる事実に驚愕する。
「なあ、マジに言ってるの、それ?」
家臣達の鋭い視線が集まる先に大牙の姿があった。
そんな視線を全身に感じながらも、大牙は声を思うままに言葉にする。
「だって、今の雷国ってさ、水国と手を組んでんだろ? 夜国の人が強いのは分かるけどさ、二つの大国を相手にするだぜ!」
大牙の意見は的を射ていた。
「ああ、少年、お前の言葉は間違っていない、だが、大国二つが相手だから、勝機があるのだよ」
そう口にすると軽く手を叩く静夜、すると世界地図を家臣が取り、静夜の手元に持っていく、地図を受け取ると皆が見えるようにして、説明が開始される。
「よいか、我等が大国、夜国から見て左下側に、雷国、その更に下には水国となっている、水国の隣には炎国があり、その先に風国があり、円を作るようにして、夜国になる──」
中央に存在する和国を囲むようにして内海が広がり、内海の外に五つの国が存在すると世界地図を使い改めて説明する静夜。
「そして、外海と呼ばれる世界があり、鬼は外海から来たと言う、だが、我が夜国は、外海の鬼が生まれる島をすべて、壊滅させた」
氷雨や大牙は耳を疑った、炎国で目の当たりにした島鬼が支配する島をすべて壊滅させたと、静夜が口にしたからである。
静夜は、隠すことなく、炎国から知り得た情報を元に、島鬼を殲滅させた事実を語る。
しかし、それは多くの幼い命を贄とした方法である事実に、大牙は怒りを感じずにはいられなかった。
その方法とは、島鬼の特性を利用した残酷な物であった。
島鬼はあらゆる物を喰らい強くなる特性があり、食べた者の姿となり、力を蓄える。
その為、幼子を鬼に与え、一時的に力を失くさせてから、幼子の姿になった島鬼を殲滅する方法がとられていたのだ。




