夜国の梟と巨城の王……4
吊り板が天守に上がり、すぐに大広間が広がる。
月明かりが室内を照らされた先に、畳の上に一人腰掛ける若い男性の姿があり、吊り板と若き男性との間には、屈強な武士達が左右に分かれ、並ぶように腰掛けている。
腰掛けている武士達の横には、鬼斬り刀が置かれており、腹部側に脇差しが見えるように装備された状態になっている。
すぐに抜けるようにだろう、誰もが体格にあった角度で同様に脇差しを移動させている。
百仮達が吊り板から降りた直後、老人が吊り板の横に移動して頭を下げる。
案内は此処までと言わんばかりに深々と下げられた頭に百仮も頭を下げる。
しかし、吊り板から降りてすぐに屈強な武士達の視線が一斉に集まる。
敵を見つめるような視線、異種属を見るような視線、好意の視線、数多の推測が入り混ざり、好意と嫌悪が混ざり合っていく。
そんな見せ物にでもされたような状況の中で、百仮が一歩、歩み出す。
氷雨はもとより気にしていないといった様子で百仮の後に続いていく。
二人の姿に百姫が呆れながらも、銀大達を連れて後に続く。
百仮達が一定の距離まで近づくと座らずに立っていた夜島が先に進むな、と、合図をするように手を伸ばす。
無言のままに向けられる鋭い視線、しかし、視線と手を振り払うように百仮が手を払い除ける。
夜島の鋭い眼光が百仮に向けられ、払われた腕が胸ぐらを掴む。
「おい、老師だが、なんだが、知らないが……勝手な事をするんじゃねぇよ」
「儂からすれば、止めるくらいなら、案内するなと、言いたいのだがな」
殺気と威圧がぶつかり合う、刀に手を伸ばす夜島。
一触即発を絵にしたような状況に、氷雨と百姫も直ぐに動けるように身構える最中、大牙が瞳を紅く染める。
「いい加減にしろよ、戦うなら、全員でやる事になるし、そうなるなら、勝手に始めないで欲しいんだけど?」
大牙の言葉に周囲がざわつく、家臣達も、横に置いた鬼斬り刀に手を伸ばそうとした、その瞬間、奥から力強い声が広間に響き渡る。
「いい加減にせぬかッ! 諍いが必要で無いことは話したであろう! 世の言葉が貴様等には、理解できぬのか? 今すぐに答えよ──夜島!」
静まり返る広間の中で、夜島がその場で直ぐに膝をつく。
「大変、失礼致しました。殿の御前で愚かにも感情を出し、重要な席を不粋な真似を働いた事実を認め、腹を切ります、どうか御許しを……」
その瞬間、家臣達の背筋が凍り付く最中、不安を感じる瞳を殿と呼ばれる男に向け、返答を待つ。
「夜島……誰が、この場に血を流せと言った……貴様が“うつけ”で無いことは知っている、世は話し合いの場を望む。理解したか、夜島よ」
「はッ! 殿の御心、すべて理解致しました。夜国に収まりきらぬ、殿の御心に変わらぬ忠義を」
「うむ、よい。ならば、話を再開する為に百仮殿達を此方に案内せよ」
頷く夜島、立ち上がり、百仮に頭を軽く下げると、言われるままに、殿と呼ばれる男の御前に案内する。
百仮は、静かに御前へと頭を下げ、腰掛けるように腰掛ける。