夜国の梟と巨城の王……3
夜島と銀大が武器を手に距離を縮め始める。
一歩、また一歩と距離が縮まり、両者の間合いギリギリまで歩み寄る。
その瞬間、流石の百姫も耐えきれずに声をあげる。
「銀大! そこまでだ! 争いに来たんじゃない。今すぐに止めな!」
声が出され、銀大の視線が百姫に向けられる。
その瞬間、夜島が動く、豪快にして速攻、真横から斜めに斬り上げるような力強い一刀が銀大を襲う。
僅かに刃が銀大の腹部に触れ、少量の血液が僅かに服を赤く染める。
「おいおい、手癖が悪いんじゃねぇか?」
「余りに隙だらけだったのでな、優しく振ったつもりだが、防ぎきれなかったか?」
夜島の一振りは、銀大の大剣により、その鋭い刃を止められていた。
しかし、反応が僅かに遅れていれば胴体が吹き飛んでいたであろう事実に銀大の額から汗が流れ出す。
両者の動きが止まった瞬間、夜城の梟である老人が漆黒の集団の前に踏み出す。
「夜島様、お戯れは、それくらいに、反感と敵意を集めるのは良ろしくないと、以前から申しておりますが、そろそろ、ご理解をお願い致します」
強い口調ではないが、確りと意思の籠った言葉に夜島が退屈そうに銀大に視線を向ける。
「悪いな、爺の立場がある。お互いに本気に慣れない状況らしいからな、刃を収めるとしようか」
「嗚呼……だが、一発は一発だ!」
夜島にそう告げると、銀大の拳が夜島の頬に向けて殴り付けられる。
「ぐっ……キサマ」
「ああ? これで貸し借りなしだろうが」
互いに睨み合い、不気味な笑みを浮かべた両者が互いに本来の立ち位置に戻っていく。
老人が軽く溜め息を吐きながら、百仮側に歩み寄り、頭を下げる。
それに対して、百仮と百姫も同様に頭を下げ、その場が収まると本来の説明をしたいと老人から伝えられる。
漆黒の集団に見守られるようにして、老人が巨城の内部へと案内していく。
城内の入り口には、巨大な神の像が飾られており、風神と雷神が城内に入る者を監視するように鋭い視線を向けるようにして、入り口を向いている。
そんな通路を抜けると、広く長い廊下が姿を現し、壁には鬼が逃げる様子が画かれ、それを追い込むように侍が刀を握り斬り掛かる様子が画かれている。
不快、と、まではいかないが、延々と続く壁の絵は気分のいい物ではない。
廊下の端に辿り着くと巨大な吊り板が四方の綱に吊られている。
「なんだい、板?」
不思議そうに綱に吊られた板を見る百姫、そんな姿を見て、夜島は老人に指示を出す。
「先にいく。罠でないと示さねば、不安であろうからな。爺、後から上がって参れ」
「御意」
老人をその場に残し、先に夜島と数名の家臣が吊り板の上に乗る、吊り板がゆっくりと上に向かって上がっていく。
夜島達が先に乗ったそれは、上下に自由に動き、天守までの巨城の各階に乗り降りが可能なカラクリの一つである。
吊り板は地下で男衆により、巨大な歯車を回すことで動かしている。
吊り板のある空間に作られた窪みには、各階の位置を記された小さな板が紐で繋がれており、紐を引く事で行きたい階を男衆に知らせると言う仕組みになっている。
老人が皆を吊り板にのせ、天守に続く紐を引く。
百仮達は揺られるようにして、天守へと上がっていく。