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空を流れる船、目指すは夜国……2

 百仮を交えて開始された話し合い。


 質問はシンプルな物も多く、慶水が嘘を語らないかを見定める為の質問に対しては、水国内部の質問が用いられる。


 氷雨は、静かに立ち上がり、百仮に席を譲る。

 慶水と向き合う百仮は、お(こう)の入った小さな壺をテーブルに置き、蓋を開く。


 甘い香りがゆっくりと室内に広がる最中、質問が開始される。


 単純なやり取りの中で、慶水が反応を鈍らせた瞬間が存在する。


 慶水の神経を逆撫でするように、急な神経の高ぶりを感じる慶水に対して百仮が質問を続ける。


「次の質問じゃな、お前さんは、水国を攻める際に国民を切り捨てられるかね?」


 百仮の質問に悩む素振りはなく、覚悟を決める為の数秒だったのだろう、凛とした清々しい表情で慶水は首を横に振ったのである。


 百仮は軽く頭を悩ませるようにすると、ひょっとこの面の下でクスクスと笑う。


「それを聞けて何よりじゃ、見境なき犬はすべてに噛みつき、いずれは自身を滅ぼす、お前さんはそうでないと信じよう」


 質問の意味を理解した慶水は軽く頭を下げる。


 普通の者ならば、自分可愛さや、他人と割り切り、一般人にまで気が回らなくなるだろう、そんな精神状態を作り出す為のお香に蓋がされる。


「これにて、質問は終いじゃ、慶水よ。儂を含め、宜しく頼むぞ」


 百仮の言葉に皆が頷く。


 慶水の話が終わりを迎えた頃、馬黄にも同様の展開が起きていた。


 馬黄側のメンバーは、百姫、銀大、香南と香北といった黒雷の所要メンバーであった。


 しかし、馬黄は話し合いの最中、沈黙を続けていく。


 苛立つ銀大が痺れを切らす。


「馬黄ッ! 黙ってたら、なんもわからねぇだろが、いいから喋りやがれ!」


 机を強く叩く銀大。室内に“バン”と、鈍くも力強い音が響く。


「落ち着きな、銀大。馬黄にも、馬黄の考えがあったんだよ。アンタがそれじゃ、話すら出来ないだろうが?」


 銀大をなだめるように、百姫が呟く。


 馬黄はうつむくと、静かに目を閉じる。


 百姫の優しさが、裏切った自身に変わらず、向けられている事実に涙を堪えていた。


「いいんだよ。今回、アタイは船を降りた後、何かをするなと言った覚えはないからね」


 百姫の言葉に馬黄が口を開く。


「姐様、私を……どうか、殺してください、私は、私は……」


 泣き崩れる馬黄、そんな馬黄の(ほほ)に突如、銀大の掌が襲い掛かる。


「ふざけんな! 自分勝手な事を抜かすなや!」


 馬黄の胸ぐらに掴み掛かる銀大、あたふたする香南と香北。


「なんとか、言えよ! 馬黄ッ!」


「……」


 銀大が、表情を曇らせ、目を閉じる。


「やめな! 何をやってんだい? 銀大、手を放しな……アタイは馬黄から話を聞きたいんだ」


 銀大は静かに馬黄から手を話し、静かに腰かける。


 馬黄は、百姫の言葉に目を開き、口を開く。


「私は……水国、雷国と取り引きしたんだ……皆が助かると信じて」


 涙を流す馬黄に百姫は立ち上がり、横に座ると、優しく手を伸ばし、馬黄をそっと抱き締める。


「アンタの判断は間違いじゃない、優しい思いがいっぱいあったんだよね、馬黄」


 話し合いは、中断されたが、馬黄を許すとする百姫の言葉に誰も反論はしなかった。


 黒雷の団員達も、馬黄が本気で百姫を裏切るなどと考える者はおらず、百姫が許すと決めた際に銀大も表情には出さないが、握っていた拳をゆっくりとほどき、安堵した。


 この瞬間、慶水は、正式な団員となり、馬黄は黒雷の遠距離攻撃隊長に戻ったのだ。

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