雷国の武道家と水国の格闘家……3
轟雷一人に対して、更に百の傀動が当てられる。しかし、それは更なる屍の兵を増やす事になっていた。
刀では、既に轟雷に敵うものは存在しなくなっていた雷国、本当の終わりが近づく。
そんな時、防衛戦に1つの集団が乱入する。
誰もが逃げ出したいと考える戦場をまるで楽しむように乱入した集団が一斉に横に広がる。
手に武装らしき装備はなく、乱入してきた集団の殆どが素手や手袋といった、見るからに戦闘に不向きな見た目の者ばかりであった。
集団の筆頭には一人の老人の姿があり、長く蓄えられた髭を手でなぞるようにして瞳を確りと開き、数を見定める。
「フムフム……不気味な連中じゃな? 本当に死んでるんかのぉ~? ぴんぴんしておるじゃないか」
有象無象の屍と鬼を前に軽く首を傾げる老人。
老人の名は五善──雷国で独自の考えで武を追究する為に道場を構える髭が自慢の老人。
流派を“赤進甲弾流”とし、傀動の力を持ちながら、剣を握る道を捨て、拳を生業に武を極める道を歩む存在。
赤進甲弾流は、他国からも自身の武を極める為に多くの剣を捨てた門下生が集まり、雷国からは、厄介な勢力として認識される程の存在に成長しており、雷国の厄介者とされている。
「五善殿、呑気に構えず、動きましょう。このままだと、被害が出ますよ」
そう語る、門下生の言葉に笑い出す五善。
「そうさな、やらねば、道場の畑に害虫が入ってしまうからのぉ~」
そう語り、手を上にあげる五善の動きに合わせて、門下生達が気合いを入れて拳を握る。
前方が拳を握ると、後方の門下生達は、両手を開き、異能を解放し始めていく。
門下生達は鬼鋼を刀ではなく、防具やアクセサリーのような形にして装備しており、前方の門下生達も握った拳に各国の異能を纏わせていく。
「それ、掛かれぇぇいッ!」
五善の生命力に溢れた声が空気を振動させ、門下生達が一斉に攻撃を開始する。
後方部隊が鬼達が身を潜める一角に向けて、水、雷、炎、風、土の異能を放ち、大気が歪むと同時に凄まじい爆音が大地を震わせた。
今まで、刀に異能をまとわせた状態で戦っていた雷国傀動達は、その凄まじい破壊力に眼を奪われる。
数多の異能が重なり、巨大な爆発を巻き起こし、更にそんな攻撃が繰り返し、攻撃の通らなかった鬼達に炸裂していく事実は余りに衝撃的な物であった。
まるで、戦闘開始の狼煙を思わせる巨大な煙が雷国の空に上がっていく。
動きを止めた雷国傀動達、そんな中、前線を割るように、傀動と屍兵の間に雪崩れ込む五善と門下生達。
「邪魔じゃ! 馬鹿共がッ!」
怒号を思わせる五善の声が響き、一斉に広がり、各自で屍兵と向き合う門下生達が先手の一撃を放っていく。
屍兵の鬼斬り刀を物ともせず、鉄甲を装備しており、刃を滑らせていく。
屍兵は、生前の記憶のみで戦闘を行う為、刀を持たず戦う赤進甲弾流の戦いに直ぐに対策する事が出来なかったのである。
それはまさに、転機であった、屍兵達が次々に心臓と頭部を打ち抜かれ、二度目の死を戦士達は迎えた。
「フムフム、実に柔い、柔いのぉ……」
五善の言葉に苛立ちを露にするように、一人の屍が怒号を放つ。
「グアァァッ!」
「ほうほう、ヌシが轟雷か、死して未だに戦うとは、真に羨ましい……が、志し無き力は、武とは言えないじゃろうに」
五善は力強く拳を握り、轟雷に向けて突き出して見せる。