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雷国の武道家と水国の格闘家……2

 互いが格闘経験者である事実を拳で感じ、実力を肌で感じる。


「あんた、かなりやるな? 水国に武道を操る傀動がいるなんて、初耳だ」


「そうでしょうな、水国は、いや、どの国も格闘を剣術よりも下に見ており、水国の傀動達は全ての鬼鋼(オニハガネ)を刀にしますからね」


 慶水はそう語ると、拳を握り直す。


 構えを取り直すように五郎が片足を後ろに運び、前に踏み締めた足に力を加える。


 僅かな動きを目の当たりにすると、慶水が軽く細めていた眼を見開く。


()()()ですか……」


 慶水の言葉はある事実を確信したからこそ、口から溢れた物であった。


 雷国の武道家、その歴史は六国において、然程、古い物ではない。


 時を遡ること、二百年程前の事、雷国を鬼流(きりゅう)と呼ばれる鬼の大発生が襲った。


 本来の被害は最小限に押さえられる筈であり、事態を安易に考えた当時の雷国政府は、傀動の数で押しきるという、余りに無策な力業に転じる。


 しかし、その判断は大きく、雷国を傾ける事となる。


 死鬼(シキ)と呼ばれる鬼の存在が大きな要因であった。


 死鬼──名の通り、死を操る鬼、死体に噛みつき、体内に潜在する菌を注入する事で、死んだばかりの屍を筋肉が切れるまで動かすと言う厄介な存在であり、菌を注入された存在は、人間のみを対象に思考なく襲い続ける。


 屍から、屍に感染する事はないが、それが一般の民でなく、屈強な傀動に襲いかったのが全ての悪夢の始まりであった。


 最初こそ優勢にして、勇猛果敢に鬼を切り伏せる雷国の傀動(雷動)しかし、多くの鬼を(ほふ)れば、代償として、少なくない犠牲がついてくる。


 鬼流の中に六角(むかく)(六本の角を生やした鬼)が同時に二体、姿を現したからだ。


 数百の傀動が、六角一体に立ち向かい、討伐と引き換えに失われた力ある傀動達の魂の輝き、しかし、それは最悪の形で大地に足をつけ、鍛え上げられた得物達は、無慈悲な凶器へと変貌する。


 六角討伐成功と同時に屍となった傀動達による、傀動との戦いが開戦し、想像を絶する悲しみと絶望が連鎖する事となる。


 刀と刀の戦い、しかし、痛み無き、屍と成り果てた傀動達は、技をそのままに生きた傀動達に襲いかかっていく。


 数時間前に笑い合い、共に飯を食べ、未来を語っていた者が、敵となり、襲い掛かる現実に、戸惑うもの、実力差があり、屍に討ち取られる者、雷国の強固な傀動達に死神が微笑んだ瞬間であった。


 何よりも、問題とされたのは、鬼流の生き残りである鬼達よりも、屍となった傀動の中に雷国最強と呼ばれた男がいたからに他ならない。


 男の名は──轟雷(ごうらい)、二体現れた六角の一体と一人で戦い刺し違えた最強と呼ばれるに相応しい雷国の傀動であった。


 しかし、轟雷(ごうらい)が屍となり、敵として、現れた事実は多くの傀動を新たな屍と変える結果となっていた。


 その日、鬼流からの生き残りの鬼、三百と屍となった轟雷、更に屍の傀動、六百強と言う、最悪の集団が雷国に生まれたのである。


 雷国の首都、鳳雷(ほうらい)では、既に他国に対する救援要請をする方向で話が進められていたが、救援が間に合うか、更に救援に応じるかと言う内容で話がまとまらずにいた。


 鳳雷に迫る大軍勢に防衛を固める雷国、死鬼の存在が知られていなかった当時の雷国にこの事態を打破する糸口はなく、範囲型の傀動もその力を存分に発揮できる状況ではなかった。


 そんな最中、数日の間に鳳雷へと迫る大軍勢、斥候(せっこう)部隊も、その尋常ならざる進行速度に眼を疑う事となる。


 雷国史上、最悪の事件となり、後の鬼災として最大の被害となる。


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