雷国の武道家と水国の格闘家……1
砲台の約半数が溶かされたように、本体の真横から貫かれ、更に地上に向けられていた砲台の先に居た筈の銀大と馬黄が雲船から降ろされた小雲に乗せられて天高く浮上したからだ。
真っ赤に怒り狂う水国の総大将は声をあげる。
「なんたる失態か! 直ぐにあの男を討ち取り、あの雲を引きずり下ろせ!」
水国兵達が再度、陣形を組み直すと、五郎は兵士達に視線を向ける。
「お前等じゃ、勝てねぇから、今すぐに引いてくれないか。流石に全滅させたくないんだ」
五郎の言葉に“ざわめき”が生まれ、水国兵の中に生き残りたいと言う生に対する欲望が増幅する。
「総大将、退きましょう……あれは我々でなんとか出来る物ではありません……」
「ふざけるな! 慶水ッ! 血迷うな、儂はこの戦いを任されたのだぞ、将軍、氷原に敗北はない!」
副将──慶水の言葉に逆上する総大将──氷原は副将の言葉に耳を貸さず、兵に突撃命令を下す。
「今、行かねば、反逆者として、軍法会議に掛ける、家族一族、すべてが逆賊となる。よいかッ! 奴を殺せッ!」
兵士達に選択肢など、有りはしなかった。
総大将の命令と共に、多くの兵が武器を手に、駆け出していく。
「奴は傀動でありながら、鬼斬り刀を手放しているんだ! さっきの動きも範囲型の物だ! 奴の刀は上空に上がった! 恐れるなッ!」
「そうだ、奴は丸腰だ!」
「確かに、傀動とて、力なければ、只の人だ!」
「「「オオオォォ──ォォオオオッ!」」」
息を吹き替えしたように兵に士気が戻り、荒々しい地面を踏み締める。
総大将の決断と兵士の選択を一部始終、聞き悲しそうに溜め息をつくと、五郎は即座に動き出した。
向かった先は一点であり、兵士達の真横を目にも止まらぬ速さで抜けた五郎が、総大将──氷原に向かっていく。
「部下を大切に出来ねぇ奴は死んで考えを改めろッ!」
突き出される五郎の拳。
「な、ぬわぁッ!」
五郎の拳が氷原に迫った瞬間、副将──慶水が手を間に伸ばし、速攻の拳から氷原を護って見せた。
「……慶、慶水、よくやった! コイツの相手は任せる! 儂はこの事実を水王陛下に伝える! 誰ぞ、ついてこい!」
氷原はそう言うと振り返る事なく、馬を走らせ、数名の騎馬と共に森の奥に消えていく。
その後ろ姿は、兵士の上がった士気を一瞬で地に落とす物であり、すでに勝敗は決したと言えた。
「さて、どうする、水国の副将殿?」
五郎の表情から、降参しろと言っている事は誰の目にも明らかであった。
しかし、慶水は少し悩むような表情を浮かべると笑みを浮かべる。
「自分は軍人なので、部下を前に、不様な投降は出来かねる、すまないが……戦わせていただくよ」
そう語る慶水は、両手に水の玉をまとい、拳を握る。
「貴方程ではないが、行きます!」
「かぁ~面倒な性格だな、だが! 嫌いじゃねぇぜ!」
雷国と水国の拳がぶつかり合う。