裏切りの放雷、五郎の過去……6
銀大に向けて馬黄の雷砲が放たれる。
今までのそれとは違う、巨大に膨れ上がった雷の塊が凄まじい速度で銀大に襲い掛かる。
「ウオォォッ!」
銀大の刃が、雷砲を正面から受ける。
激しい衝撃、雷砲と斬撃がぶつかり合い、破裂した瞬間、銀大の鬼斬り刀に亀裂が入る。
その事実に驚く銀大、しかし……馬黄はそれを当たり前だと言わんばかりに口を開いた。
「銀大。アンタの剣は、あのガキとの戦いでかなり負傷していた。本来ならとっくに砕けておかしくなかった筈だ! 寧ろ、凄いと驚かされるよ」
武器を失い、大勢の兵に囲まれる銀大、絶体絶命の状況であった。
その様子は、雲船からも確認でき、百姫は直ぐに地上に向かおうとしていた。
「まて、百姫。お前は船を離れんな!」
落ち着いた口調でそう口にしたのは五郎であった。
「ふざけんな! 大切な仲間が殺しあってんだ、止めるに決まってるだろ!」
「今いけば、相手の描いた地図に自身を書き記す結果になるぞ? いいから任せろ百姫。オレがなんとかするからよ」
五郎はそう語ると、身体の両手足に刻まれた刺青のような文字に切れ込みを入れる。
「痛っ……此れでよし、それじゃ、行ってくるぜ。静かに待ってろよ、百姫」
微笑み、地上に向けて、飛び降りる五郎。
空中で五郎の身体を凄まじい電流が包み込む。
落雷を纏った五郎が馬黄の放った雷砲に激突する。
眩い光が弾けた瞬間、地上に仁王立ちする五郎の姿があり、銀大が睨み付けながらも、笑みを浮かべた。
「偉そうに力を封印したくせに、あっさり解きやがって……畜生が」
嫌味にそう語る銀大。
「悪いな、手のかかる、馴染みが殺し合いなんざ、黙ってられなくてな」
銀大と五郎が微笑み合う最中、苛立ちを顔に出す馬黄。
「ふざけんな! なんで、今なんだよ、なんで……答えろッ! 五郎ッ!」
「今、言っただろ。お前等を止める為だ! バカ野郎!」
馬黄に向かって歩み出す五郎。
そんな五郎の歩みに対して、後退りをする馬黄の姿に水国兵達も、動きを止める。
「なあ、馬黄……いい加減に餓鬼みたいな真似はやめようじゃないか」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
話を聞こうとしない馬黄に対して、五郎が溜め息を吐くと鋭い目付きで水国兵に対して攻撃を開始する。
銀大の速度を遥かに上回る高速の拳が一人、また一人と水国兵を吹き飛ばし、気絶させていく。
そんな最中、五郎を討ち取れないと悟った水国兵達は、鬼斬り刀を失った銀大に向けて襲い掛かる。
「ウオォォッ! 一人だけでも、隊長各を討ち取れッ!」
銀大に対して、死に物狂いの水国兵が死を恐れずに襲い掛かる。
しかし、五郎が銀大に視線を合わせた瞬間、五郎が背中に背負っていた大剣を銀大に向けて投げつける。
「掴み損なうなよ、受け取れ!」
激しく回転する大剣が水国兵を切り裂き、銀大に迫ると突如方向を変える。
真っ直ぐに切っ先を天に向けた大剣に対して銀大が柄を掴み、大剣を構える。
「無茶すんじゃねぇ! 磁場がなかったら、直撃じゃねぇか! 五郎ッ!」
「磁場がなけりゃ、投げねぇよ!」
互いに目付きが変わる二人、馬黄は敗北を覚悟すると、水国兵に撤退するように指示を出させる。
逃げる水国兵、そんな状況で馬黄が二人の相手をする為に道を塞ぐ。
「私は、お前等が理解できない……なんで、国を裏切れる! 私は……」
そう馬黄が口にしようとした瞬間、背後の森がざわめきだす。
巨大な砲台を馬車に積んだ複数の部隊が森を踏み砕き、姿を現したのだ。
そして、前ぶりのない無情なる一撃が発射される。
「やべぇッ! 馬黄ッ!」
五郎が即座に動き、馬黄の体を抱えると、砲台から放たれた巨大な水の玉をギリギリで回避する。
馬黄は自身が狙われ、敵としていた五郎に救われた事実に困惑する。
しかし、複数の砲台が地上に固定され、一方が地上に、もう一方が雲船に向けられている姿に困惑は絶望に変化する。
「な、や、やめろ! 約束が違うだろッ!」
馬黄の叫び、しかし、そんな物は無意味である事実は明らかであった。
「約束は被害を最小限に、黒雷の降伏だったか……十分な被害に惨敗を期したお前と約束など、無効に決まっているだろ!」
総大将と思われる男の発言に絶句する馬黄、その瞬間、五郎は馬黄の頭を軽く撫でる。
「つまり、約束は無効だ。馬黄は返して貰うし、お前等もすべて消し飛ばす」
水国兵が笑い出す最中、五郎が口を開く。
「雷国、武道家……五郎、今より本気で戦わせて貰う!」
五郎の手足が銀色に輝き、髪が逆立つと同時に馬黄が銀大の前に降ろされる。
次の瞬間、五郎が一瞬で姿を消すと雲船に向けられていた砲台が次々に破裂する。
姿を露にした瞬間、水国兵達の表情が豹変した。




