裏切りの放雷、五郎の過去……4
只ならぬ存在感、全身から漂うそれは、味方ならば、心を支え、敵ならば……心を打ち砕く程の印象を皆に与えた瞬間であった。
甲板に向かう大牙と五郎、正面から向き合った瞬間、大牙は大きな驚きを露にする。
鋭い刃を朝日に照らされたその人影は、百仮であった。
派手な異文化極まりない派手な面をつけた百仮が大牙の姿に気がつくと、仮面を普段の“ひょっとこ”へと姿を変える。
「久しいな、小僧、それに雷国の問題児も一緒か? 不思議な巡り合わせよな……氷雨も居るのだろ?」
まるで、親戚の老人が久々にやって来たような軽い挨拶に大牙は唖然とする最中、百仮の姿に五郎の顔色が曇る。
「百仮のじいさん、なんで?」
大牙の反応に百仮が笑う。
「相変わらず、強気だな、まあ、傀動となったのだからな、そのままでいるがよいぞ……それよりも、話がしたいのでな……内部に案内を頼めるか?」
そう告げた百仮の視線の先には、遅れて駆けつけた百姫の姿があった。
「アンタはあの時の爺さんッ!」
「港では、速やかな反応に驚かされたが、無事に合流してくれたな……本当によかったよかった」
そうか足り、まるで息を吐くように、一歩踏み出した百仮を次の瞬間には百姫の前に移動していた。
目の前にいた百姫だけでなく、驚きを露にする五郎の姿も二人の反応を確認した百仮が即座に視線を向けた先は、大牙であった。
「今のが見えていたようだな小僧?」
迷う事なく、首を縦に振る大牙。
「俺の目には、夜夢が力を貸してくれてるから……それに紅琉奈の反応速度なら、追い付ける」
百仮は、大牙の言葉を不思議そうに聞き、頷く。
「よくわからぬが……よい成長をしているな……鬼娘の力も上手く同調しておるようだな」
そんな挨拶が終わると、百姫の案内で、雲船の内部へと百仮が招かれる。
少し広い部屋に案内される百仮、既に部屋に案内されていた氷雨が出迎える形になる。
「お久しぶりです。百仮老師、このような事態になってしまい申し訳御座いません」
炎国での内容に加え、水国、雷国の問題について、氷雨は深々と頭を下げた。
しかし、それに対する反応は予想外の物であった。
「よいよい、やっと……雷国の狸共が動いてくれた。そして、驚異となる“黒雷”は雷国を離れる決意すらしておる……なんの問題もないわい」
氷雨と百姫が唖然とする最中、五郎が真剣な表情で百仮を睨み付ける。
「おい、爺さんッ! 今の言葉だが、最初から雷国をどうにかする手筈だったように聞こえるぞ!」
荒々しく怒りを露にする五郎の姿に大牙が驚くも、百仮はそれを見ても顔色一つ変えない。
「国を今更に、心配するか、雷国の問題児、いや……名家の鬼子と言うべきか……」
「テメェッ!」
百仮は避ける事なく、胸ぐらを五郎に掴ませる。
「本来の力を封じ込め、弱く生きる道を選び進むお前に何が出来る……よく考えよ、既に雷国は禁忌を破り、鬼を道具とする道を選んだ……六国傀動衆は、雷国を敵とするしかないのだよ」
百仮の冷静な言葉に五郎が胸ぐらを離し、椅子に腰掛けると頭を抱えた。
そんな最中、銀大からある報告が部下を通して、百姫に伝えられる。
伝えられた内容は、雲船を降りた同胞が捕らえられた事実と、裏切り、雲船の位置を密告した存在の詳細であった。
密告者の名前は【馬黄】であり、その事実に百姫は衝撃を受ける。
「船内に馬黄がいるかを直ぐに調べな! 居るなら直ぐに連れてきな!」
荒々しく響く怒鳴り声、しかし、その直後、銀大が合流して百姫に直接、報告を口にする。
「馬黄は船内にいない……調べたら、昨日の夜、雲船から降りてるようだ……あの馬鹿が……」
そんな最悪の空気が漂う最中、雲船を激しい衝撃が襲う。
「うわぁ!」
船内が揺れ、更に第二発がぶつけられたであろう衝撃が激しく雲船を揺らす。
パイプから船内に報告が駆け巡る。
『敵襲ッ! 地上より敵襲ッ! 敵の数、推定、二百……あ、あれは、馬黄隊長? 報告、地上、敵攻撃部隊に、遠距離攻撃隊長の馬黄の姿あり、報告、敵攻撃部隊の中に遠距離攻撃隊長馬黄の姿あり!』
最悪の報告であったが、百姫は直ぐに指示を口にする。
『いいかいッ! 敵の攻撃を回避しつつ、後方に回り込むように、舵を取りな、左舷から、直接奴等を叩く!』
指示を出すと百姫はその場をあとにする。