裏切りの放雷、五郎の過去……3
百姫の話が終わり、各々が解散した先で決断の朝を迎える。
雲船が港から少し離れた丘に着陸すると、誰もいない出入口が開かれる。
船を降りる際、止まらぬよう、止めぬよう、誰も最初はいない状態が作られた。
三十分程の間、静まり返る雲船の船内、そんな船内では、予想外の二人がテーブルを挟み、顔を向かい合わせていた。
黒雷の隊長──銀大。
幼き鬼斬り──大牙。
大牙に使うように用意された部屋へと、銀大が訪問しに来たのだ。
“トン、トン”
朝早くから、扉がノックされると、大牙は警戒しながらも、扉を開く。
「お、起きてたか? 良かったぜ、この体で動くのは、しんどくてよう」
「……仕返し?」
扉越しに大牙から“仕返し”と言う発言を聞き、銀大は痛みに堪えるように笑みを浮かべる。
「アハハ、仕返しとか、ないからよ。俺よう、お前は凄いと思ってんだぜ? 少し話さないか?」
少し強引に笑う銀大に対して、大牙は扉を完全に開く。
室内に入ると銀大が迷う事なく椅子に腰掛ける。
その姿に大牙は少し驚くも、銀大はそんな大牙の表情を目の当たりにすると、不思議そうに首を傾げた。
「本当に普通の奴なんだな、戦ってる時は、別人みたいなヤバイ雰囲気を叩き出すクセによ」
銀大はそう語ると、不思議な微笑みを浮かべていた。
殺し合いをした二人の男が笑い合う不思議な空間が其処に出来上がっていた。
そして、雲船が地上に降り立ち、数名の離脱者が出る事になる。
しかし、それも予想の範囲内の数であり、百姫は雲船のブリッジから、離脱者達の背中と頭を下げる姿を静かに見送った。
そんな最中、着陸した丘の先に無数の炎があがる。
見張りが直ぐに敵襲を知らせる。
「先の山、及び、右舷の山肌、上がり火ッ!」
その瞬間、百姫が即座に声をあげる。
「敵襲ッ! 雲船を浮上させなッ!」
突如、浮き上がる雲船、炎が上がった山より、離れるように左側に回るように大空へと浮かび上がる。
その事実は船内でも理解できる、しかし、大牙が銀大にある質問をしたのだ。
「ねぇ、この距離ってさ、弓とかで届くの?」
不思議な質問であったが、明らかに距離がありすぎる中での上がり火の存在、更にそれは、正面と右舷側にのみ現れた事実に銀大が慌てて、甲板に繋がるパイプに声を荒げた。
「姐さんッ! 左は駄目だッ! 香南、香北、何でもいいから、左に旋回しろッ!」
「聞いたね、香北、香南! 銀大を信じな! 左旋回ッ!」
「「はい!」」
声がブリッジに届いた瞬間、百姫が即座に舵を左にするように指示を出す。
その瞬間、甲板目掛けて、巨大な矢が地上から射ち放たれる。
「チッ! 伏兵かい、銀大からの忠告が無かったら、完全に穴を開けられてたね」
百姫がそう呟いた瞬間、複数の矢というには巨大過ぎる、槍のような矢が一斉に射ち放たれる。
その矢には、ロープが繋がれており、地上から雲船を引きずり下ろさんと、隠れていた黒服の兵隊が一斉に姿を現す。
「敵を逃がすなッ! 引きずり下ろせッ!」
「「「オオオオォォォッ!」」」
男達の雄叫びが地上にこだまする。
雲船から数人の兵士がロープを切断しようと甲板に急ぐ。
「頭! 駄目だッ! ロープに鉄線が編み込まれてやがる、オレ達の装備じゃ切れねぇ!」
そんな時、地上で、まるで演舞を舞うように人影が一つ、男達に向かって、駆け出していく。
朝日が同時に上がり、光に照らされる最中、まるで花が開くように、一人、また一人と、男達が血飛沫をあげて倒れていく。
人影は、一通りの敵を切り伏せると、勢いよく、雲船の甲板に飛び乗り、繋がれていたロープを軽く切り離す。




