裏切りの放雷、五郎の過去……2
黒雷の隊長である、銀大の目覚め、それは大牙達に取って新たな道を示す事になる。
銀大は話の全容を百姫から聞き、深く謝罪をすると同時に、抹殺の依頼を受けねばならなかった事実と、その際に五郎も対象になっていた事実を嘘偽りなく伝えたのだ。
黒雷は全体の情報を整理し、改めて、今の雷国を危険だと判断する結果になる。
氷雨の診断が終わるのを待ち、百姫自ら、病室に向かう。
病室内では既に大牙が腰掛けており、氷雨の護衛をしている。
「失礼するよ。アンタがうちの銀大とやりあった強いボウヤだね? 今までの事もあるけど、済まなかったね」
予想外の謝罪の言葉、大牙は動揺するが、そんな姿に氷雨は笑みを作り、百姫も予想していなかった動揺に若干の戸惑いを見せる。
そんな空気を変えたのは、氷雨であった。
「悪いな、大牙は短い期間に大きく成長し過ぎたせいで、心は幼いままなんだ、大人の事情を理解しようとする優しい奴なんだ」
大牙の話を交えながら、会話が続き、氷雨から百姫に先に質問が投げ掛けられる。
「これから、黒雷はどうするつもりだ、今の雷国は水国にも、雷国同様の鬼を飼う為の檻を作ろうとしているようだが?」
氷雨の言葉に百姫は、寸なりと返答する。
「雷国のやり方には、前々から感じるものがあった、今更だが、アタイ達は強くなれば、成る程に国外の依頼が増えていてね……今の雷国を故郷と呼ぶのすら、悩ましい状態さ」
「私達は今から夜国に向かおうと思う、だが、足がなくてな、夜国に連れてって貰えないだろうか?」
氷雨の言葉に、唖然とする百姫であったが、晩まで時間が欲しいと口にして、その場での話が終わりを迎えた。
百姫が室内を後にすると、氷雨と大牙がゆっくりと会話を開始する。
「なあ、大牙よ……紅琉奈は何故、刀から姿を現さぬのだ?」
姿を変えぬ紅琉奈を心配したような氷雨の質問に鞘が震えだし、鬼斬り刀が紅琉奈の姿となり、氷雨の前に姿を現す。
「詰まらぬ質問をしているな? 当たり前だろう、今は大牙の側にいられるのだ、わざわざ、人の形になる必要がないのだよ」
紅琉奈の言葉に氷雨が驚くと、更に話が続けられる。
「もう少しすれば、夜夢も大牙の力で外に出られる、そうなるまで、待つのだな……氷雨、私は大牙の味方だ……忘れるな」
氷雨に向かって語られた言葉は、大牙の味方であり、他の者を味方と見ていないと改めて語られたような者であった。
各自が複雑な思いを心に秘めたまま、時間は流れていく。
夜になり、雲船に搭乗する船員が一斉に食堂に集められる。
普段ならば、分かれて食事をする食堂に入りきらない人数が集められ、奥で百姫が皆を待ち構える形になっている。
「皆、よく来てくれたね。今から重大な話をする。話を聞いた後に決断を迫らねばならない内容だ。既に雲船を操る香南と香北には、決断をして貰っている……」
百姫の話が終わる直前、百姫に対して疑問を告げるように声が食堂に響く。
「何故、香南と香北だけなのですか! 銀大や私は何も聞いていないのに……姐様の考えがわかりかねます!」
食堂をざわめかせたのは、馬黄であった。
「姐様! 姐様は雷国を捨てるつもりですか、あんな連中の為にッ!」
馬黄が声を荒げた瞬間、馬黄の頭を背後から軽く小突く男。
「痛っ」
「何をやってんだ、バカが……勝手に暴走すんな、馬黄。黒雷は香南と香北の能力を前提に移動してんだ。先ずはそこからだろが、落ち着けや」
馬黄に対して小突くような真似をしたのは、部下に肩を借り、百姫の話を間近で聞こうとやって来た銀大であった。
「姐さん、すいやせん。話の内容を御願いします」
銀大の登場により、百姫の話を最後まで遮る存在はなく、全てを語り終える。
話の内容は、百姫本人は、雷国を捨て、新たな目的地を夜国として、明朝に動き出すと言うものであり、反対ならば日ので前に一度、地上に下りた際に雲船から降りて構わないと言うものであった。
船を降りるか、共に国を捨てるか、強制なき決断を皆に迫ったのである。