裏切りの放雷、五郎の過去……1
最初こそ、会話が見つからぬ二人であったが、五郎は勇気を出して、思っていたままを声に出す。
「久しぶりだな、百姫……」
「うん、こんな再会になるなんてね、正直、アンタが抹殺対象と一緒に行動していた時は、驚いたよ……最初の段階で知っていたなら、依頼その物を受けなかっただろうに……」
「まあ、そう言うな、オレは力を封印した身だからな……抹殺対象と一緒なのを知って、雷国も同時に始末したいと考えたんだろうさ」
微かに笑う五郎の姿に、百姫は少し悲しそうに笑みを返す。
「封印を解く気はないのかい? アンタが本気になれば、なんとでもなるだろうに……」
「オレは、力が恐ろしくてな……」
「だから、だからアタイの前から姿を消したのかい……本来なら、アンタが黒雷の頭になれたってのに……」
少し困ったように頬に手を当てる五郎、しかし、その顔は直ぐに笑みに変わる。
「はは、オレみたいなバカがなるより、百姫みたいな、信頼されてる強者が上になった方がいいんだよ。今のオレはその決断が間違ってなかったと思えるしな」
「酷い男だね、アタイにこんな仕事を任せて、何年も姿を消してさ……」
「悪かったな、だが、お陰で数年程で、並みの雷動くらいの力は操れるようになった。力を封印したまま、今なら戦えるって事だ」
優しく微笑みを浮かべる五郎……そんな表情を寂しそうに見つめる百姫。
「ねぇ、五郎……アタイ達はさ……戻れないのかな」
「戻れなくはないだろうが、今のオレには、力も、権力も無いんだぞ?」
二人会話が一瞬、沈黙する。
そんな時、部屋の扉が荒々しく叩かれ、扉が勢いよく開かれる。
「姐様! 銀大が目を覚ましました。直ぐに来てやってくだ……さい……」
声の主は馬黄であり、室内に座る五郎の姿に感情は出さないが、威圧的な視線を一瞬向ける。
「わかった。今から向かう、五郎……少し待っててくれ、銀大といま会うのは得策じゃないだろうからね」
「嗚呼、わかってる。早くいってやれ、銀大も喜ぶだろうしな」
軽く挨拶を済ませると、百姫は銀大の元に向かっていく。
僅かに二人きりになった室内、馬黄が一言、五郎に呟く。
「──裏切りの放雷が……」
“裏切りの放雷”──雷国から逃げた、もしくは、仇なす存在に向けられる言葉である。
百姫に続いて、部屋を後にする馬黄、五郎はその言葉に溜め息を吐きながらも、受け止めるように静かに心にとめたのである。