氷雨と大牙……向かう先に5
静かに流れ出した時間、銀大が意識を取り戻すまで、半日を要した。
そんな最中、百姫と氷雨の話がまとまる事となり、雲船の内部に通知される。
内容は黒雷の皆を驚かせる物であり、耳を疑う者すら存在した。
話のまとまりは、黒雷の雷国からの脱出であった。
水国の内情は雷国と完全に足並みを揃える物であり、隣国である炎国も動きを知りつつある状況である事実を話し合った結果であった。
数に勝る雷国、水国同盟であったが、炎国の内情を目の当たりにしていた氷雨側からすれば、炎国に勝機があることは明らかであり、不意打ちさえ防げれば勝機が更に増す結果に繋がる。
氷雨は自分達が夜国に向かおうとしていた事実を百姫に話と同時に、炎国に再度戻り、状況を知らせねばならないと考えているむねを明かした。
「つまり、アンタは危険を知りながら、炎国に今の状況を伝えたいと? 命が幾らあっても足りない考え方だねぇ?」
「ああ、だが、あの国に恩があってな、見棄てるには知りすぎた友人も多いのだよ」
「わかった、今は雷国から離れたいのが本音だ、黒雷を捨てゴマに考える奴等のいいなりにはいい加減、愛想が尽きてたからね」
百姫と氷雨の考えがまとまり、黒雷は、雷国からの脱出という賭けに転じる道を選択したのである。
当然ながら、雲船内でも意見が割れたが、雷国の為に黒雷を裏切ろうと言う存在は皆無であった。
今回の秘密裏に進んでいた計画による百姫の雷国への不信感と、部下達が経験した雷国からの卑怯な脅しに対して結果、雷国からの脱出と離脱が完全に足並みを揃える事となる。
銀大に手を尽くしていた医療班が落ち着き、氷雨の治療が開始される。
その間も、大牙は警戒を怠らず、鬼斬り刀の姿になったままの紅琉奈、体内に定着した夜夢と無言のままに意思で会話をしていく。
『大牙、氷雨様は大丈夫がな、オラ心配でしゃあねぇんだ』
あたふたした声で大牙に呼び掛ける夜夢の声が大牙の内側に響く。
『夜夢、安心せよ。氷雨は強い、それに勝手に死なれたら、ワタシが殺せなくなるから困るだろ?』
『な、何をいってんだ! 紅琉奈、オメェ、氷雨様に何かすたら、赦さねぇど!」
『ふん、奴が大牙を大切にしないのが悪い、大牙の味方は味方……仇なすならば、敵だ!』
夜夢と紅琉奈の会話が大牙の内部に響き続ける最中、大牙本人も声を響かせた。
『夜夢、紅琉奈、喧嘩しないで、それに氷雨は俺の味方だよ。だから、大丈夫さ……今は無事に回復することを願おうよ、ね?』
氷雨を気遣う言葉に夜夢は頷き、紅琉奈は少し不貞腐れたような雰囲気を醸し出していた。
現実では、大牙の横に腰かける五郎の姿があり、心配そうに大牙と氷雨の様子を見つめていた。
「大牙、余りに不甲斐なくて……すまないな、こんな時に」
五郎の言葉に大牙が即座に返答する。
「そう思っても、弱々しく口に出さないでくれ、気持ちで負けたら、本当に良くない方に動くよ。五郎さん」
「ああ、そうだな……間違いないな! 少し行ってくる」
「え? 何処にさ?」
「オレのケジメをつけにさ、今、言わないと言えない気がするし……」
そう語ると、立ち上がり大牙を残し、船内に五郎は消えていった。
五郎の向かっていった先は、百姫のいる船長室であり、勇気を出し、扉を数回叩く。
扉の奥から返答が返される。
「誰だい、あいてるよ?」
「失礼する」
扉が開かれ、顔を見合わせる両者。
「な、五郎……」
「よう、百姫、こうして話す事になるとはな……人生、何があるかわからないな」
軽い挨拶を済ませると、室内に置かれたソファーに腰かける五郎。




