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氷雨と大牙……氷雨と紅琉奈1

 炎国の国境を後にした氷雨達は、静かに氷雨の住んでいた修山に向かう事となる。


 水国の状態を理解する為の行動であり、氷雨達が炎国から水国に入った事実を悟られる前に必要な物を手にしたかったからだ。


 修山に近づくに連れて、氷雨は各村の者達の視線に気づく、長居はしないが明らかに獲物を見つけたような視線が混じり、殺気にも似たそれは次第に数を増やしていく。


「五郎、大牙を確りと守れ、いつ仕掛けられてもおかしくないぞ……」


 氷雨の言葉に五郎が固唾を飲み込み、軽く息を吐く。


「へい、大丈夫です。それよりも……修山もヤバイですかね?」


「嗚呼、行き先を変更する、大切な酒もあったが、仕方あるまいよ」


「相変わらずだな……でも、安心しました」


 氷雨と五郎はそう語ると、口を閉じて、歩く速度を気取(けど)られぬよう、ゆっくりとあげていく。


 そして、村の出口まで辿り着くと、氷雨は、村の出口に簡単な結界を作りだし、村からの追跡が出来ないようにしたのだ。


「な、なんだこりゃ! 出れねぇ!」

「早く行け! 奴等が行っちまうぞ!」


 尾行がバレることなど気にせず、そう語る村人達の姿。


 氷雨達は、目的地を修山から、内陸に存在する水都──【睡蓮(すいれん)】を目指す事を決める。


 睡蓮から、内海に移動して、船で夜夢の故郷である夜国を目指す事を決めたのだ。


 そんな、道中は通る村のすべてで同様の行動が取られており、その理由が次第に明らかになっていった。


 水都──睡蓮に近づくにつれて、有り得ない光景が氷雨達の視界を驚かせた。


 内海に繋がる港町の周辺を覆うように、雷国兵と、雷動の一団が陣を創り、更に水国の海軍船から、港に降りてくる姿と、その事実を目の当たりにしたからだ。


 身を隠す、氷雨と五郎。


「氷雨さん、あれって……明らかにヤバくないですか?」


「ああ、洒落にならないねぇ、雷国から……水国に軍勢が動いてやがるじゃないか……くそ、どうするかね」


 氷雨と五郎が頭を抱える最中、大牙が目を覚ます。


 周囲を確認するように、頭を左右に動かす大牙。


「此処は……」


 大牙が口を開いた途端に、氷雨が口を閉ざすように手を当てる。


「静かにしろ、お前が要らんことをしたから、炎国から撤退したんだよ。閻樹の機嫌が良かったのが、幸いした形だが、本当に口には気をつけろ、いいな大牙」


 意識を取り戻した大牙にそう語る氷雨、そして、現状で策がなくなった事実を語られると、大牙は予想だにしない言葉を口にする。


「ならさ、地下から行けないかな……」


 地下に作られている空洞を利用できないかと提案したのだ。


「何故、地下なんだ?」


 地上からでも、強行する事は可能であり、国境さえ越えれば何とかなる状態にあった氷雨は頭を抱えたままに質問を口にした。


 大牙は、寂しそうに口を開く。


「夜夢が……俺の中で、そう言ったんだ……地下なら安全な道が見えるってさ……今も俺の片目に、地下を指して、赤い道が見えるんだ……」


 夜夢と言う名を聞き、氷雨から質問が口にされる。


「夜夢は無事なのか!」


 大牙は小さく首を左右に振る。


「夜夢は……俺の中から出たら、体がもたないって……だから、ずっとこのままだって……」


 涙を流し、そう語る大牙に氷雨と五郎は言葉を失った。


 そんな、最中、大牙の脇差しが突如、震え出す。


 カタカタッカタカタッ!


 鞘から、勝手に抜け出した刃が突如として、人の形になったかと思うと、一糸まとわぬ姿で紅琉奈が大牙に抱き付いた。


「大牙、大丈夫か? ワタシがわかるか?」


 そう確認する紅琉奈に氷雨が慌てて、来ていた上着を被せる。


「落ち着け、紅琉奈。大牙が困惑して、目のやり場に困っておるぞ」


 氷雨の言葉に冷静になったのか、紅琉奈が自ら、体を変化させ、服を纏った姿に変化させる。


 そして、冷たく、汚物でも見るような眼で氷雨を睨みつけると、質問を口にする紅琉奈。


「ワタシはすべて、みていたぞ……氷雨、何故、あの場で考えを口にしなかった?」


 凄まじい殺気を向ける瞳と、刃に変化した両手が氷雨に向けられる。


「……紅琉奈、本気か?」


「当たり前だ……今すぐに答えろッ! 何故、大牙の為に動かなかったッ! 氷雨!」


 一触即発の空気の中で、互いに視線を向ける二人の姿がそこにあった。

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