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氷雨と大牙……炎国への帰還2

 閻樹の言葉に豪雪達が頭を下にする最中、大牙は、確りと仁王立ちしたまま、鋭い眼光を閻樹に向ける。


「一つ聞きたいんだ!」


 皆の視線が集り、大牙に冷たく、苛立ちに満ちた目が向けられる。


 家臣の一人が声を荒げる。


「黙らぬか! 王の御前に対して、何を語ろうと言うのだ! 分を(わきま)えよ!」


 怒りを露にする家臣の姿に閻樹が手を前に出し、言葉を(さえぎ)る。


「よい、言いたいことが有るならば、言わせてやれ」


 そう語る閻樹に大牙は、真っ直ぐに視線を向ける。


 皆が注目する最中、大牙が声を張り上げる。


「なんで、わざわざ調査隊なんかを向かわせるんだッ! 島がどんな場所か、分かってるだろ!」


 周囲がざわめき、空気が変わる。


 その瞬間、大牙の背後から、氷雨が首に手刀を当てる。


 何が起きたか、わからぬままに気を失う大牙の体を抱き抱える氷雨。


「炎王()()、私の連れが大変な失礼を致しました。直ぐに炎国を去りますので、御許し頂けないでしょうか」


 氷雨の言葉を聞き、閻樹が悩むそぶりを見せる。


「氷雨よ、主が友であればこそ、その申し入れを許そうじゃないか、それが目覚めたならば、確りと口の聞き方を教えよ。命は口先から消える事もあるのだからな……」


「──はい、感謝致します」


 氷雨が頭を下げると、閻樹は直ぐに声を張り上げ、その場にいる全員に聞こえるように語り出す。


「我は、客人の謝罪を受け入れた、これ以上の騒ぎは望まぬ! 今の言葉を忘れ、愚かなる事を構えし者あらば、重罪とする……よいな! ──話は以上だ。調査隊、並びに豪雪水軍よ、後に褒美を与える! 確りと体を休ませよ……」


 直ぐに大牙を連れた氷雨と五郎が、国境へと馬車に乗せられ運ばれていく。


 そんな、国境に向かう馬車に向かって、一人の女性が道を塞ぐように飛び出す。


「待ってください!」


 ヒヒヒィンッ!


 馬が慌てて止まると、馬車が激しく揺れる。


 馬車の前に飛び出したのは、黒炭町(くろずみちょう)珠那(じゅな)であった。


「待って、貴方達に渡さないといけない物があるの」


 そう語り、馬車の窓から氷雨に手渡した物は、細長い布に包まれた鬼斬り刀であった。


「お爺ちゃんが、一晩掛けて、魂を注いだの……本当に嬉しかった……貴方達には、感謝してる。ありがとう」


 そう語る珠那を馬車から話す兵士達。


「其処までだ、それ以上は我々も、職務遂行の為に、動かねばならなくなる」


 そう言われ、馬車から離れる珠那、最後まで、手を振り、別れを告げる姿に氷雨は無言で渡された鬼斬り刀をギュっと握り締めた。


 国境には、三将の一人──老将、謙影(けんえい)が待っており、少し寂しそうな雰囲気を漂わせながら、馬車から降りた氷雨達が国境の外へと向かう背中を静かに見送ったのであった。


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