氷雨と大牙……外海の悪夢4
捕らえられた者達は、船内に隠してあった数本のナイフを回しながら拘束に使われていた縄を切断していく。
全ての拘束された者達が縄を切り終わるまでに時間はそう掛からなかった。
そして、反撃の宴が開始される……
「オリャア! いくぞ!」
一斉に四方に向けて駆け出していく、罪人達、見張りの兵に向けて襲い掛かっていく。
「ん? な、なんだ! うわぁーー!」
見張りの兵が振り向くと同時に、罪人達の激しい反撃が開始され、瞬く間に船内は罪人達により、制圧されていく。
慌てて甲板に移動しようとする兵士達が次々に殺られていくと、甲板で見張りをする兵士達に気づかれぬまま、罪人達は不確定船の奪還を成功させたのだ。
罪人達は、船内に配備された砲台に向かっていく。
素早い動きで砲台に辿り着いた罪人達は、砲台に砲弾を装填すると、悩むことなく三方向に向けて、狙いを定める。
「クソが、俺達の計画を無駄にされてたまるか! 砲撃後に、赤の狼煙を上げさせろ! 他の連中と合流出来れば、俺達の勝ち戦に変わる! いいな!」
「「「おおぅッ!」」」
男達が雄叫びが上がり、一斉に左右、正面の扉が開く、顔を出した砲台が瞬く間に砲弾が砲筒から炎を吹き出しながら三方向に飛んでいく。
「第二発ッ! 装填、更に次弾装填! 休みなく、撃ちまくれッ!」
突然の砲撃、三方向に飛んでいった砲弾が軍艦の火薬に被弾すると左右の軍艦が大きな爆発音をあげる。
「うわぁ! 早く火を消せッ! 火薬に更に引火するぞ!」
軍艦から叫ばれる声、それと同時に空に向けて、勢いよく、真っ赤な狼煙が上がる。
後方の船に乗っていた傀動達が慌てて、不確定船に向けて乗り込もうと動き出す。
そして、氷雨と大牙達も、乗っていた前方の軍艦から、後方の不確定船に向けて移動を開始する。
しかし、氷雨と大牙達が軍艦から、不確定船に飛び乗ると同時に、凄まじい爆発が起こる。
|大牙達の乗っていた軍艦《前方の軍艦》に撃ち込まれた砲弾が壁を完全に貫き、火薬に引火すると軍艦が内部から爆発したのだ。
不確定船の甲板に勢いよく叩きつけられた大牙達、直ぐに立ち上がろうとする大牙、しかし、それは絶望をその目に刻んだ瞬間でもあった。
大牙を庇うように抱き締める夜夢の姿、その背中には無数の破片が突き刺さり、両足から、真っ赤に血が流れ出している。
「や、夜夢! みんな……そんな……」
気絶している五郎と氷雨の姿があり、その後ろには、巨大な破片を防ぐ為に身を盾にした結果、血を流す紅琉奈の姿が存在していた。
「大牙、ごめん……直ぐに助ける……」
紅琉奈が体に突き刺さった木材を無理矢理に引き抜いていく。
「……大牙、ワタシより……夜夢を……」
「あ、ああ……」
壮絶な光景、言葉を失う大牙、たが、直ぐに、夜夢の体を抱きしめ、必死に呼び掛けながら破片を抜こうとする。
そんな、大牙の手を握ると夜夢は、静かに首を左右に振る。
「引き抜いたら、おらは……死ぬ、わかるんだ……大牙、おらをずっと、大牙の中に住まわせてくれねぇがな……もう、寒くなっつまったよ……大牙……一人は寂しんだ、一人は嫌だぁ……」
大牙の手を握る夜夢の手から次第に力が弱まっていく。
「夜夢……ごめんね、寂しくなんかさせないから……」
夜夢が笑みを浮かべた瞬間、大牙の唇に夜夢の唇が触れる。
夜夢の体が輝き、大牙の腕に夜夢の文字が刻まれる。