氷雨と大牙……外海の悪夢2
複雑な心境を露にする大牙、人が人を襲ったであろう、事実に困惑を露にした。
「本当にさ、一緒に逃げてた人を人が襲ったのかな……」
船の甲板で、五郎に喋り掛ける大牙。
「大牙、実際によくあるんだよ……お前は鬼ばかりを悪としてるが、人間は更に邪悪な存在だと俺は思う」
五郎は雷国での生活や雷国民の思考や常識について、大牙に嘘偽りなく、自身の見てきた真実を語った。
雷国は、雷動が国の流れを操作する国であり、雷王も雷動の意見を一番に優先し、国民の声に耳を傾けない。
暴動を鎮圧するという名目で村が焼かれ、国民達は口を閉じ、眼を瞑る。
狂った国でありながらも、その戦力から未だに、他国から攻められない事実も同時に語る。
「つまり、人が人を襲うのは、国から見れば、当たり前なんだ。良くない事実だがな」
大牙と五郎の会話が終わりを迎える頃、島影に調査船ではない、大型船が発見される。
豪雪の部下達も驚く大型船は、軍艦並みのサイズであり、飛び出た船首は、鉄で覆われており、明らかな強襲艦である事が窺える。
相手に気づかれる前に船が反対側、つまりは後方に船を移動させる。
背後から不確定船に迫っていく。
それと同時に戦闘になるであろう事を覚悟して、船員達が得物を手にする。
不確定船の背後から、数隻の艦隊が動き出す。
明らかに、炎国の港から出港していない不確定船に対して、慈悲をかける必要はなく、炎国管理下にある外海に浮かぶ不確定船の拘束とその目的を明らかにする事が軸になる。
それに気づいたように、不確定船から、慌ただしい声が上がり、碇を引き上げるような鎖の巻き上げ音を上がる。
しかし、その頃には、船尾に三隻の艦船と前方の岩影に隠れた二隻が挟み撃ちの形を取る。
一瞬で包囲された形になると、凄まじい勢いで、砲弾を発射する。
前方から上がる煙り、それを合図に五隻の艦船から、一気に船員が不確定船に乗り込んでいく。
乱戦になりながらも、その戦闘員の中に、大牙達と同船していた傀動達の姿が存在し、大牙の中で疑問と怒りが沸き出していく。