氷雨と大牙……洞穴の先に2
氷雨の動揺を感じ取ると、奥に座る鬼が笑う。
それを合図に、二体の鬼が動き出す。
鬼の手には、ボロボロの鬼切り刀が握られており、刃が若干欠けていたが、その素晴らしい輝きは紛れもなく、臥弾の打った刀であった。
「大牙達は、本体を伐てッ! あの二人は私がやる!」
氷雨は、一気に駆け出すと二体の鬼が襲い掛かる。
激しい攻撃を一手に引き受けると、鬼からの攻撃を回避しながら、鬼達の全身を確認するように周りを移動し続けていく。
鬼達が氷雨に引き付けられた瞬間、結界が作られ、氷雨と二体の鬼が結界内に閉じ込められる形になる。
慌てた鬼達は、結界を破壊しようとするも、簡単には破壊できない。
氷雨の放った結界は、何重にも細い結界を重ねて作り出した特別なものであった。
「逃がさないさ……お前らッ! 絶対にヤツを討ち取れ! いいなッ!」
力強く叫ばれた氷雨の声に頷く大牙達は、真っ直ぐに鬼の元へと進んでいく。
奥に座る鬼は、更に笑みを浮かべ、大牙達を招き入れるように動かず、その場で状況を見つめている。
鬼を討たんと意気込む大牙達は、予想外の現実と向き合う事となる。
薄明かりに照らされ、笑みを浮かべていた鬼、その体は酷く傷付いており、地面には血が流れだし、真っ赤な血溜まりが出来ていた。
『鬼斬りか……今回は、死ねそうだな……』
鬼が語る言葉は、人の話す言語と同じである事実に驚く大牙達、更に鬼は語り続けた。
『おい、ガキ……炎国だけは、信じるな……鬼も人も飲み込む災いの大蛇ぞ……忠告はした……さぁ、我を殺せ……』
まるで、死を待っていたような口振りに動揺する大牙、しかし、次の瞬間、洞窟内が激しく揺れる。
外からは、激しい砲撃音が鳴り響き、更に大量の足音が地鳴りのように洞窟内になだれ込んでいく。
「うわ、なに!」
大牙が慌てて周囲を見渡す。鬼は溜め息を吐くと静かに、ボロボロの体を立たせ大牙達の方に向かって喋り続ける。
『我を殺せ……多くの人を殺してきた、傀動なる鬼斬りを幾千と殺してきた……必死に生きてきたのだが、家畜となってまで、生きたいとは思わぬ……』
鬼が語り終わると同時に、天井が砕かれ、炎国の兵達が一気に姿を現す。
粉塵が舞い散る最中、一人のにやついた表情を浮かべた男が姿を現す。