氷雨と大牙……洞穴の先に1
自信に満ちた笑みを浮かべたまま、紅琉奈は氷雨の忠告に耳を貸そうとはせず、敵であると認識した全ての対象に鋭い刃を滑らせる。
小鬼の群れが襲い掛かる刃を防ごうとするも、無慈悲な刃が止まる事はない。
一瞬で切り刻まれる小鬼の群れ、蜘蛛達も危機感を本能で感じ取り、動きを止め、更に後退する。
しかし、それは氷雨が危惧していた結果の1つであった。
鬼達が危機感を持ち、警戒すると言う事は、隙を窺って、敵である鬼が攻撃をしてくるという事を意味していた。
「事態を厄介にしたな……軽率な……その自信の代償が高くつかないように願うぞ」
其処からは、作戦などは無く、がむしゃらにして、速攻を優先した立ち回りを皆が見せる。
瞬く間に鬼達を殲滅していく。
最初こそ厄介であった蜘蛛も、複数の種類が混ざり合う斬撃の前に次々と倒れていく。
そんな最中、姿を消した風を操る鬼が集まり出す。
その事実に気づいた夜夢が、敵の位置を的確に言い当てると、氷雨と五郎が動き出す。
「居場所がわかるならッ!」
「場所さえ、わかればッ!」
「「私の敵じゃねぇッ!」」
水龍の如く水の刃がうねり、凄まじい稲光を放つ刃が同時に敵を吹き飛ばす。
其処からの戦闘は、あっさりとしたものであった。
小鬼の巣が完全に消え去り、蜘蛛達が作り出した巣も同様に消えていく。
逃げようとした風を操る鬼も、氷雨の作った結界から脱出する事は出来ず、最後の一体が霧となり、消えていく。
大牙達は、島の鬼達が護ろうとしていた目的の場所まで、急ぎ向かっていく。
其処には、小鬼の巣があったような洞穴があり、内部に踏み入ると、暗い道は地下に向けて繋がっている。
互いに確認し合うように頷くと、大牙達は地下に向かって降りていく。
最初こそ、暗闇に苦戦する大牙達であったが、夜夢の心眼を使い、敵がいない事を確認しながら、進むことで事なきをえた。
最下層までの道のりの先、暗闇を照らす光がみえる。
進むにつれて、光が次第に強くなり、広い空間が姿を現す。
其処に居たのは、全身が真っ黒く、それでいて、白いギザギザの歯をした子供を思わせる人のような雰囲気を放つ鬼であった。
その横には、左右に別れて立ち尽くす、落ち着いた様子の鬼が立っている。
氷雨は立っている鬼の姿に唖然とする。
其処には、間違いなく見知った顔があったからだ。
臥弾の娘夫婦の姿を写したような存在に角を三本、互いに生やしている。
紛れもなく、 死んだ筈の娘夫婦の姿を模した二体の鬼、氷雨の表情が曇る。