氷雨と大牙……上陸、鬼が生まれる島……1
互いの船を見ながら、氷雨がその場にいる全員に指示を出す。
「よく聞けッ! このまま、結界を無理矢理、彼方まで伸ばす、船を頼む、よいかッ!」
「「「おおぅッ!」」」
全員が声を上げる。大牙は結界から外に近い怪鳥を狙い、五郎は大牙が間に合わない部分の怪鳥に対して攻撃をする。
傀動達も、多くの怪鳥を討ち取ると船は安全を確保しながら、広げられた結界の中を進んでいく。
襲われていた調査船まで、結界が到達すると、結界外に逃げようとする怪鳥達の姿が存在していた。
しかし、既に結界内を飛行していた怪鳥達に逃げ場などありはしなかった。
襲われていた調査船の方も異変に気づくと直ぐに防衛に全力を尽くす。
大量の黒い霧が激しい戦闘であった事実を物語り、本来ならば、氷雨達の調査船を襲ってきた怪鳥達も此方側の調査船に向かう筈の物であり、氷雨達の存在その物が活路となり、調査船は沈まずに済んでいたのだ。
其処からはあっという間であった。
互いに協力して、怪鳥を討ち取っていく。
一つ皆を驚かせる事があるとすれば、大牙の力であった。
大牙は、海に沈んだ鬼鋼の位置を夜夢の心眼を使い、特定すると紅琉奈の力を使い身体を鋼に変えてから、海に潜り、鬼鋼を回収していく。
調査船に、次々に袋に詰められた鬼鋼が上げられていく様子に、傀動達は驚きを露にする。
あっという間に回収を終えた大牙が調査船に戻ると、腕が輝き出す。
紅琉奈と夜夢が姿を現し、大牙は疲れ果てたように倒れ込む。
そんな大牙を慌てて支える、紅琉奈と夜夢。
新たな力に慣れぬ大牙は疲れた表情を浮かべながらも、ニッコリと笑みを作る。
「二人とも、ありがとう。俺も役に立てたよ」
氷雨と五郎が安心したように笑みを浮かべると、直ぐに調査船を結ぶように渡りが掛けられる。
氷雨達の船よりも損傷が激しく、更に負傷者の数も多い状態である事実に急ぎ、大概の船員達が話を進める。
話し合いの結果、調査船2隻を連結し、牽引する事で海域からの離脱をする事で話がまとまる。
しかし、氷雨達は、そのまま島に上陸する事になる。
調査船は港に戻り、再度、戦闘部隊を乗せて、島に向かう段取りとなり、傀動達は調査船の護衛を継続する事となる。
報酬については、島から港までの距離を報告した際のそれを傀動達で山分けとする事で話がまとまり、その際に起きた奇襲の報告の証拠として、大量の鬼鋼が預けられる事となる。
大牙達を乗せた小舟が島に向かう最中、2隻の調査船が次第に小さくなっていく。
当然だが、小舟に向けて、大量の怪鳥が襲い掛かる。
しかし、紅琉奈、氷雨、五郎の三人がそれを赦さず、夜夢が安全に船が入れる海岸の位置を確かめる。
島に上陸するまでに、大量の怪鳥を再度、討ち取る事となった。
島に足を踏み入れた途端に怪鳥達の攻撃が止み、氷雨はそれを見て、小さく呟く。
「この島は、出てきたばかりなのに、何か居るようだな……別れずに進むとしよう」
海藻類が乾燥した森の中を進むと、皆を霧が包み込む。
足場は泥濘、一歩、一歩、歩く度に足元に嫌な感覚が残る。
距離感に気を付けながら、一定の間隔を保ちながら、進んでいく。
そんな時、遠くない位置から、風を切り裂くような“ヒュン!”と、言う音が皆の耳に響く。
次第に近く音と共に海藻類の森が倒れていく。
「何かヤバイのが来るぞ、避けよ!」
氷雨の声に二手に別れる。
大牙側は紅琉奈と夜夢、氷雨側には五郎となり、風は氷雨側に移動していく。
直ぐに後を覆うとする大牙を夜夢が止める。
夜夢が動きを止めた直後、小さな旋風が起こり、風の中に、薄気味悪い笑顔をした茶色い肌の鬼が確認できる。
そのまま、再度、旋風が起こると、氷雨達の逃げた方向に風が移動していく。
「あれは、鬼だよね」
大牙の確認するような呟きに、夜夢が頷く。
見つからないように移動しようとした瞬間、紅琉奈が威嚇するように唸り声を放つ。
その先には緑の皮膚をした小鬼が蠢いており、鋭く硬い海藻を根元から引き抜き、武器になるように加工している。
既に、戦闘準備の整った緑の小鬼達が、大牙達に向かい、下卑た笑みを浮かべると、集団で一気に襲い掛かる。
そんな、緑の小鬼達の奥には、洞穴のような物があり、其処から、次々に緑の小鬼達が姿を現している。
「あそこだ! あの洞穴から、出てきてるんだッ! なんとかしないと!」
大牙の声に反応するように、紅琉奈と夜夢が動き出す。