氷雨と大牙……海上の戦い目覚める力……1
激しい波を耐えきると、調査船の揺れが無くなり、穏やかな海が戻る。
船員達が慌てて、周囲の様子を窺い、安全を確かめていく。
大牙達が見たものは、遥か遠くに白い煙を吐き出すように、姿を現した島であった。
距離はかなり離れているが目視で確認出来る大きさの島が海に姿を現している事実に困惑する一同。
そんな最中、護衛の傀動達が氷雨にある提案をする。
内容は、新たに姿を現した島の調査である。
内容は簡単に三つ。
◆島の大きさの調査。
◆生えている海藻類の採取。
◆島から港までの距離の計測。
島の大きさは、歩数で海岸沿いを左右に別れて一周し、落ち合った時点での歩数を足す形になる。
その際に調査船は島の反対側に待機する事となる。
海藻の採取もその際に行い、新種が見つかれば、炎国から賞金が出る。
調査船には、計測用の浮きが収納されており、いっぱいいっぱいに伸びると、遊びの部分の赤紐が見える。
赤紐が見えた地点で碇を沈め、浮きを巻き取り再度、其処から浮きを伸ばしていく事になる。
一日がっかりの作業になるが、新たな島の情報は、それその物が大金を生み出す。
護衛の傀動達も、立場を理解しながらも、氷雨達に懇願することにしたのだ。
氷雨は悩むも、炎国には、まだ滞在する予定であり、一日を調査に使う事を苦だとは、感じなかった。
寧ろ、好機だと感じていた。
新たな島ならば、度重なる不可解な傀動達の死亡原因が分かるのではないかと、考えていたのだ。
「わかった。ならば、あの島に向かおう。直ぐに船を動かしてもらってくれ」
氷雨の指示に、傀動達が船員に話、調査船は直ぐに島へと舵を取る。
穏やかな海は、先程までの荒々しさを隠すように調査船を島へと順調に進ませていく。
島を目の前にした時、直ぐ近くの海域から、凄まじい砲撃音が鳴り響く。
“ズッダンッ!”
調査船内が慌ただしくなり、砲撃音のした方向を直ぐに確かめる船員。
「大変だ! 島影で他の調査船が、怪鳥型の鬼に襲われてるぞ!」
島の浮上に対して、他の島から、新たな飛行型の鬼達が根城にせんと、移動を開始していた。
本来ならば、これ程、早く移動してくる事はなく、有り得ない状況に困惑する船員と傀動達、しかし、救援に向かわない訳にはいかず、調査船は更に舵を取る。
助けに向かおうとする調査船、しかし、その遥か頭上を夜夢が指差す。
「上から、なんかくっと!」
次の瞬間、甲板にいた一人の傀動が急降下してきた飛行型の鬼に掴まれ、空に拐われる。
「う、うわぁぁぁ──な、ギャアァァ!」
空中で放り投げられた瞬間、複数の怪鳥のような姿をした鬼達が一斉に襲い掛かる。
海上に、真っ赤な雨が降ると直ぐに、氷雨達が刀を構える。
怪鳥の頭には二本の角があり、二角である事を皆が確認する。
本来ならば、二角程度であれば、問題ない相手であるが、慣れない船の上であり、相手が飛行型という事実が、窮地を作り出していた。
更に護衛の傀動達も炎国の生まれであり、炎の異能使いばかりであり、海上での戦闘には不向きであった。
最悪な状況でありながらも、氷雨達は刀を構える。
「皆、冷静になれ、デカイだけの鳥だ! 知能無き、存在に臆するなッ! いいな!」
氷雨の言葉に大牙達が覚悟を決める。
大牙は、ある事を試そうと考え、夜夢の側に移動する。
「夜夢さん、前に俺と一緒になったの覚えてるよね、また出来ないかな!」
「やり方なんて、わがんねぇぞ!」
「大丈夫だから、あの時、俺さ、夜夢を助けたいって夜夢の事を考えたんだ!」
「うぅ、わがった、やってみる!」
大牙と夜夢の会話を聞いていた紅琉奈が大牙に抱きつき、顔を近づける。
「ワタシも力になる。大牙、ワタシを考えろ!」




