氷雨と大牙……炎国の海4
城に戻った氷雨は、直ぐに閻樹と会い、外海で何が起きているのかについて、質問をする。
閻樹は、数年の間で、外海の島へと調査に向かった者が襲われる事件が起きている事実を氷雨に伝えた。
その後、捜索や討伐などの名目で多くの兵を送り、島を調べたが、護衛として雇われた傀動を倒せる個体は確認出来ず、という事が続いていた。
そんな騒動も何時しか、起きなくなり、未だ、新たに見つかった島に対する調査は続いている。
氷雨は、閻樹の話を聞いて、自身の知る状況と重ね合わせていた。
「私の考えだが、【呪鬼】が生まれているんじゃないか……」
「呪鬼だと? アレは普通には生まれぬ、忌むべき存在よ、普通に生まれてくれば、炎国は終わりを迎えるだろう」
そう語る閻樹であったが、直ぐに今までの調査報告と被害報告が記された資料と分かる限りで書き記された新たに発見された島の位置を記した地図を拡げた。
「多くの場所で、無鬼や二角までの鬼が確認はされていた。しかし、調査の際に同行していた護衛の傀動は三角でも、問題なく討伐出来る者を複数、連れていたのじゃがな」
炎国でも、鬼に対する策を確りと考えて行動していた。
しかし、そんな矢先に、調査の為、新たに登録された島に向かう者達の中に、臥弾の娘夫婦であり、珠那の両親がいた。
炎国の調査部隊を護る傀動達の中でも、実力は上から数えた方が早く、本来は閻樹の元で働く武士であった。
そんな強力な強者達が護衛をする調査隊の一つが全滅したと言う悲報が炎国に届く。
炎国は事実確認を急ぎ、その後、臥弾と珠那を含む、傀動達の血縁者に死亡した事実が伝えられた。
それからも、死亡などの報告は多少はあれど、全滅の報告はない。
氷雨は、閻樹に臥弾の娘夫婦が調査に参加し、全滅したという島に立ち入れないかの交渉が開始される。
交渉の結果、許可される事となる。
既に再調査が入っている事実を知らされていたが、氷雨にとっては、必ず行かねばならない場所となっていたからだ。
その日、氷雨は、全ての備えを完璧にする為に装備の見直しを行う。
軽い胸騒ぎを感じる夜、朝日が氷雨の顔を照らし、外海への船出が始まる。
朝餉を済ませ、港に向かう。
大牙にも、氷雨が脇差し型の鬼斬り刀を用意しており、皆が鬼斬り刀を装備した状態になると、港に繋がれた調査船へと、乗り込んでいく。
蒸気エンジンで動く調査船には、閻樹が選んだ最高の船乗り達が同乗し、数名の炎国の傀動も護衛として乗る。
船を動かす為に八人、護衛の傀動が七人、氷雨を含む五人の合計二十人が炎国の港から、外海へと向かって動き出したのだ。
初めての海と、初めての船出に興奮する大牙達、しかし、それは直ぐに後悔へと繋がる。
船が波とぶつかる度に、激しく船が揺れていく。
初めての船の厳しさを全身に感じながら、目的の島まで調査船は真っ直ぐに進んでいく。
船酔いに慣れ始めた頃、船内の食堂で皆が食事を開始する。
皆が食事と会話を開始した頃、突如として、激しい揺れが調査船を襲う。
そこから激しく旋回する船、内部でも、それに合わせて、荷物が転がり、皆が固定されたテーブルや椅子に掴まる。
慌てて、皆が甲板に上がろうとした時、一人の船員が慌てて声をあげる。
「アンタ等、今は船内に居てくれ! “島生まれ”が起きたんだ! 今は波に備えて、離れるしか出来ねぇ!」
そう語ると、直ぐに持ち場に戻っていく。
“島生まれ”……外海で島が海中から浮上する現象、海底から浮上した際に島に寄生している海藻類が空気に晒されると空気を吸い込み巨大に成長する、その際に海水が外に吐き出され、地上の木々のように変化する。
調査船からそう遠くない距離で島生まれが起こり、津波と更に浮上後に放出される海水が作り出す二段階の波を回避する為、調査船は距離を取らんと、エンジンが、壊れても構わないと言わんばかりに、薪を焚べていく。