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氷雨と大牙……炎国の海3

 話をまとめ、黒炭町(くろずみちょう)の男達を宥めた女性。


 女性の名は珠那(じゅな)


 黒髪のショートカットに大きめの瞳、美しい顔立ちで、細いながらにスタイルはよく、文句のつけようがない真っ直ぐな性格の持ち主である。


 無法地帯と意味嫌われる黒炭町で生まれ育った彼女は、両親を失ってから、鍛冶師であった祖父の臥弾(がたん)と共に暮らしている。


 臥弾(がだん)


 珠那(じゅな)の祖父であり、鬼斬り刀を専門とする鍛冶師である。


 珠那の両親であった娘夫婦は、傀動であったが、臥弾が打った鬼斬り刀を使い、鬼と、戦うも、激しい戦いの最中に砕け、その生涯を終わらせた。

 それ以来、鬼斬り刀を作らなくなり、現在は、鍋や調理器具の職人として、生きている。


 珠那に言われるままに、散らかった店内を手分けして片付ける大牙達。


 そんな光景を煙草に火をつけながら、苛立ち見つめる老人。


 この老人こそが、氷雨が炎国に足を運んだ理由の一つであった。


 しかし、数年の間に、氷雨の知る最高の鍛冶師、臥弾(がだん)は見る影もなく変わり果てていた。


「氷雨、久々に来たと思えば! なんて物騒な連中を連れて来てやがる!」


 扉と壁の間に挟まれたとは、思えない程の元気な怒鳴り声が店内に響き渡る。


「何言ってるのよ! 爺ちゃんの御客さんなんだよ! それに、今のお爺ちゃんの姿を見たら、父さんも、母さんも、悲しむよ!」


「うるさいッ! 黙れ! もうワシは鬼斬り刀も、刀も打つ気は無いんだ。氷雨、悪いが他をあたってくれ……」


「爺ちゃんの馬鹿! 何が世界一の鍛冶師よ! 今の爺ちゃんを見たら、父さんも母さんも、涙を流すわよ!」


 泣きながら、店を飛び出す珠那、そんな姿に大牙が慌てて後ろを追い掛けていく。


「だぁ、あの馬鹿、紅琉奈もか? 夜夢、なんとかなるか!」


 氷雨の問いに、夜夢が頷く。


「任せてください。オラなら、直ぐに大牙の位置がわがるから」


「少し意味深な発言だが、まあ、いい……任せた。その間に五郎が、片付けを済ませるだろうからな」


「え、オレですか!」


 夜夢の後を追い掛けようとしていた五郎が氷雨と鍛冶屋に残る事となる。


 氷雨は、買ってきた酒の栓をあけると、適当な湯飲みを二つ取り出すと、静かに注いでいく。


「臥弾さん、貴方に頼みたい鬼斬り刀(業物)があるんだ」


 酒を一気に飲み干す臥弾、しかし、その表情は険しい物であった。


「ふぅ……ワシは、もう刀を打たんと言ったろう、氷雨……ワシの娘夫婦を覚えとるか?」


「何を、当たり前だろ、師匠と来た際に世話になったな、炎国でもかなりの腕をした傀動だったからな、忘れもしないさ」


「そうだ、だが……娘も、婿も、鬼に殺されたんだ。原因は鬼斬り刀()が砕けた為、鬼を切れなかったからだ、しかも、二人ともだぞ……ワシが打った物だった……」


 その言葉に、氷雨は、師匠が死んだ日の光景が頭を過る。


 しかし、氷雨は同時に疑問が頭に浮かぶ。


 鬼斬り刀は、鬼鋼から作り出される鬼すらも切り裂く強固な刃を生み出す。


 まして、それが鍛冶師の臥弾が家族の為に創った物であれば、鬼との戦闘中に砕けるなど、有り得ないからだ。


「何故、鬼と戦ってる最中に、刀が砕けたと分かるんだ」


「簡単さ、生き残りの傀動がいたんだ、そいつも、戻ってから直ぐに逝っちまった。そいつが、『鬼と戦ってる最中、刀が砕けた』とハッキリと言ったんだ」


 臥弾は、悲しそうにそう呟くと、更に酒を口にする。


「娘達は、未調査のままになっていた島の調査に出掛ける、学者の護衛として向かったんだ、外海には、未だに未調査の島が多く存在する……簡単な調査の筈だったんだ」


 炎国では、外海に数多に存在する島の調査が、当たり前のように行われており、護衛として、傀動が雇われる事は珍しくない。


 しかし、その日、足を踏み入れた島は、普通の島ではなかったのだ。


 氷雨はその話を聞き終わると、無理矢理に大牙に渡す筈の鬼斬り刀を臥弾に渡す。


「それを渡す相手は、あの餓鬼だ。刃が長すぎれば、命に関わる、よかったら、直してくれ、明日、外海に向かう……戻らなければ、売って構わんぞ?」


「お、おい!」


 臥弾に無理矢理、鬼斬り刀を預けた氷雨は、大量の酒と、焔石(えんせき)と呼ばれる、炎に放り込むと一気に温度があがる石が大量に入った荷物入れをそのまま置き、五郎と鍛冶屋を後にする。


 鍛冶屋からの帰り、落ち着きを取り戻し、戻ってきた珠那と大牙達に出会う。


 外海での話を、珠那から聞いたであろう、大牙の表情は悲しそうであったが、其を敢えて口にせず、挨拶を済ませ、氷雨は大牙達を連れて、閻樹の待つ城に戻るのであった。

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