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大牙の敗北。鬼斬りの始まり

 氷雨の眼光が鋭く目の前に立つ二角(ふかく)に向けられる。


「興醒めだ、せっかくの楽しみが!」


 苛立ち、小言を語る二角。


「器の小さき異形よな?」


 氷雨の挑発じみた言葉を聞き、睨み付けるように視線を向ける。


「傀動の女が一人、何ができる? 傀動は鬼を斬るというが、斬られた事がなくてな……皆殺しちまったからなぁ」


「よく喋る鬼だ、二角とは、角以外にも舌も二つあるのか?」


「キサマッ! 死んで、後悔しろッ!」


 氷雨と二角の戦闘が開始した頃、猟師達を守るように山道を降る大牙の姿があった。


 しかし、猟師達は不慣れな雪の積もりだした足場に上手く走れずにいた。


「もっと早く! 追い付かれるよ!」


 無鬼も不慣れな雪道に足をとられており、大牙はその様子をチラチラと窺っていた。


(奴等も雪道は苦手なんだ、それなら)


 大牙の頭の中で、反撃と言う言葉が浮かぶ。


 しかし、現実は猟師二人を守りながら、逃げる事が精一杯であった。


 そんな時、一体の無鬼が単身で木の枝を移動し最後尾を走る大牙に襲い掛かる。


 大牙も木々の枝が揺れる音から、それを予想していた。


 木々が揺れ始めてから、即座に小刀を構えていた大牙は振り向きざまに、小刀を握った手を大きく振り抜く。


 その一振りが、無鬼の眼球を掠めると、痛みから、その場にのたうち回る無鬼。


 大牙は、他の無鬼が辿り着いく前に小刀を心臓に向けて突き刺す。


 苦しむ無鬼の鋭い爪が大牙の頬を掠めるも、直ぐに体は黒い霧に変わり、消滅する。


 その際に、小さな無鬼の消えた後に赤い水晶のような物が残り、大牙は取り敢えず、それを服にしまう。


 大牙の背後から三体の無鬼が追い掛けて来ており、再度、無鬼からの逃走が開始される。


 しかし、大牙の少し先を走っていた筈の猟師達の姿は見えなくなっていた。


 大牙はその瞬間、逃げる道を変更し、無鬼達を平地に向けて誘導するように走り出す。


 無鬼達も、それに連れて後を追う。


 平地への入り口には、二本の大きな巨木が存在し、大牙は平地に入った瞬間、吹き矢を構える。


 巨木と巨木の間を抜ける先頭の無鬼に向けて、吹き矢を放つと同時に、小刀を手に駆け出していく。


 吹き矢には強力な麻酔薬が塗られており、先頭の無鬼が転倒すると二体目の無鬼の心臓に突き立てる。


 突き立てた小刀を心臓から上に向けて勢いよく、振り抜くと同時に、足元で気絶する無鬼の心臓に突き立てる。


 大牙は一瞬で、二体の無鬼を討伐する事に成功したのだ。


 しかし、その直後、背後から背中に向けて、激しい痛みが走る。


 背中に刻まれた爪痕、死を覚悟した大牙であったが、最後の無鬼は予想外の行動に出る。


 倒れた大牙の服から、先程の赤い水晶を抜き取ると大牙を軽く放り投げる。


 薄れる意識の中、大牙の目に映ったのは、 黒い霧になった無鬼から青と緑の水晶を取り出す姿であった。

 最後の力を振り絞り、大牙は氷雨の部屋から持ち出した刀を確りと握る、しかし、其処で意識が途切れたのであった。


 その後、大牙が意識を取り戻したのは、氷雨の背中であった。


「おお、気がついたか、傷口には薬草を塗ってある。いまは動くな」


 そう言われた大牙は涙を流した。


「ごめん、氷雨が助けてくれたんだね、俺、死んじゃうかと思った……」


「安心しろ、ちょっと傷が深いが確り生きている。お前はよく頑張った。申し訳ないのは、お前を襲った最後の無鬼を逃がしてしまったことだ……」


「俺がいたせいだよね、ごめん」


「いや、奴はお前を襲う前に、猟師達を半殺しにしていた。隠れていた猟師達を私の(おとり)に使ったんだ」


 大牙は自分が戦った相手が只の無鬼でない事実を知らされる。


「猟師さん達は?」


 無言で首を横に振る氷雨。


 大牙を小屋まで運び、壊された結界を修復した氷雨は怒りを露にして猟師の住んでいた村へと降りていく。


 猟師達が死んだ事実と、異形の鬼が再来する事実を伝える為に。


 この無鬼との出会いが氷雨と大牙の運命を大きく動かす存在となる。


 鬼斬り傀動として、二人の運命が加速する。

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