氷雨と大牙……炎国の海1
利庵から勝利を手にした紅琉奈は、真っ直ぐに賞品である大牙の元に向かう。
その際、利庵戦では見せなかった、禍々しい威圧感を片手に集めると、解除されていない結界を無造作に掴み、力だけで穴をあける。
結界を破り、大牙に抱きつく紅琉奈。
「大牙、紅琉奈は勝ったぞ。大牙は紅琉奈の物だ。もう大丈夫だ」
威圧感が嘘のように消え去り、まるで恋い焦がれる少女のように見えるその光景に、閻樹すらも驚かせされていた。
「なんとも、さて、利庵よ、無事か?」
倒れたままの利庵の元に向かう閻樹。
「はい……なんとか、ですが、骨を数本持っていかれました……申し訳ございません」
「うむ、生きていればよい。それよりも、隣国は、恐ろしい刃を手にしておるなぁ、戦にならぬようにせねばな」
会話が終わると同時に利庵は直ぐに駆けつけた医療班に連れられていく。
傷は深く、閻樹も医療班に対して、全力を尽くすように言葉を掛ける。
一騎討ちが終わり、閻樹は食事の席に大牙達を招待する。
招待と言えば、聞こえはいいが、断れる雰囲気ではなく、なし崩しに決まったと言うのが正しいだろう。
招かれた食事の席には、豪華な料理がならび、山での生活をしてきた大牙や夜夢からすれば、炎国に存在する外海の魚は珍しく、サザエやアワビといった貝類に関しては、食べ方すらわからない物も存在していた。
「どうじゃ、炎国と言うが、外海に繋がる我が国の飯は旨かろう、港から毎日船が出て、新鮮な魚を取ってくる。食は人の生きる道を示す大切な物だからな」
大牙は“外海”と言う聞きなれない言葉に質問を口にする。
「外海って何ですか?」
大牙の質問に閻樹が軽く笑い、同時に氷雨に呆れたような眼差しを送る。
「氷雨よ、幾ら水国の山奥だからと、外海について語らぬのは、どうかと思うぞ? 仮にも、小さいのは傀動に関わる身ならば、尚更じゃ」
閻樹は外海について語りだす。
外海……六国を覆うように広がる海があり、その中で海流が内側でなく、外側に流れる海域を指す。
内海ならば、六国側に戻れるが外海に流されれば、六国に戻るのは困難となる。
炎国は、他の国と違い、蒸気機関を有した船を使い、外海の流れに逆らうようにして、漁を行っている。
逆に言えば、六国で唯一、外海の流れに逆らい移動する手段を有している国が炎国なのだ。
それは、事実的な貿易にも繋がり、内海では取れない魚類や貝類は高値で取引される。
六国の至る所から、金持ちが炎国を訪れており、それが炎国を更に強固にする資金源にもなっている。
「よければ、明日の朝に船を用意する。外海に出てみぬか? 氷雨よ、どうか?」
少し悩むも、氷雨はそれを受け入れた。
炎国にしばらく滞在する胸を伝え、閻樹もそれを了承した結果とも言える。




