氷雨と大牙……大牙危うし、鬼の涙2
急かされるように、五郎が心臓マッサージを開始する。
大牙は意識を失い、更に呼吸が停止していた。
氷雨の恐れていた一番の最悪が起こったのだ。
その最悪を唯一、回避する存在として、氷雨は紅琉奈に五郎を迎えにいかせたのだ。
雷動は、体内に電気を走らせ、筋肉運動を加速させる体内強化術があり、その中には電気治療と呼ばれる物が存在する。
五郎は心臓を押しながら、電流を少しずつ強めていく。
その間、氷雨は人工呼吸を行う、悔しそうな紅琉奈、しかし、“ぐっ”と拳を握るとその場で静かに、大牙の無事を祈る。
意識無き大牙の精神に語りかける、二人の女性と現実に耳から聞こえる名を呼ぶ声。
内側から、夜夢と紅琉奈の声が響き、耳元からは、氷雨と五郎の声が叫ばれる。
「かはっ、ゲホッゲホッ」
大牙が水を吐き出し、呼吸を開始する。
「大牙! 目覚めたか!」
「よし、大牙、この野郎、大丈夫か!」
氷雨と五郎が喜びを露にする。
それと同時に紅琉奈が大牙に泣きながら、抱きつく。
「大牙、大牙、大牙!」
意識を確りと取り戻した瞬間、大牙の腕が金色に輝き、夜夢が大牙の隣に姿を現す。
不思議な事に、夜夢が受けた傷はふさがっており、夜夢自身も何が起こったかわからずといった様子であった。
大牙と夜夢は、修山で起こった雷国からの奇襲について語る。
雷国が本気で氷雨と紅琉奈を狙っている事実を語る。
雷国刺客衆、黒雷の名を聞き、紅琉奈は眼の色を変える。
「大牙を傷つけた奴等……ワタシが……」
そんな、紅琉奈の手を大牙が握り、動き出す前に止めに入る。
「待って、紅琉奈、今は一人でいかないで」
紅琉奈は頷くと、その場にとどまり、大牙の話を聞く。
大牙は襲ってきた黒雷の特徴を三人に伝え、更に夜夢が異能について語る。
銀大、馬黄の二人の存在と異能、更に雲を操る異能使いが存在し、その者達の上に女の頭がいる事実を分かる範囲で伝えたのだ。
雷国の大胆不敵な動きに氷雨は、炎国に大牙と夜夢も同行させる事を決める。
「今より、二人も炎国を目指す、急がないと、あっちにまで、要らぬ働きをされるからな、二人とも行けるか?」
大牙と夜夢は頷き、紅琉奈が大牙と夜夢を抱えて、移動を開始する。
氷雨は目的を伝えぬままであったが、大牙は疑うことなく皆と炎国へと急ぐのであった。




